この法則を体現した好例がふたつある。ひとつ目が、MLCC(積層セラミックコンデンサー)業界における「初回放送」をつかみ、組み入れ比率7.3%(5月末時点)でファンドの最大保有銘柄となった太陽誘電だ。同業界では長年、毎年2~3%の値下げを行うことが当然とされ、すべてのアナリストがその減額を前提に業績モデルを組んでいた。しかし、社内の電子部品担当アナリストが同業他社の決算説明会で姿勢の変化を察知。もし原材料価格上昇分の価格転嫁でも値上げが実現すれば、業績モデルの符号がマイナスからプラスへと完全にひっくり返る。「長年の慣行がくつがえるインパクトは絶大。これはどう見ても再放送ではない」と確信して投資に踏み切った。一時は株価2万円超へと急騰し、大きなリターンをもたらしている。
もう一つが、組み入れ比率3.1%(同)で第3位の保有銘柄となっているNGK(旧日本ガイシ)だ。自動車の排ガスフィルター技術で世界を席巻する同社は、「EV(電気自動車)が普及すればエンジン車用のフィルターは不要になる」という強固なネガティブコンセンサスにより、過去5年間にわたり長いお休み期間が続いた。しかし、同社は水面下で、AI市場の拡大に直結する半導体向け新製品部材を着実に開発し続けていた。実際、投資に踏み切ったのも、市場の誰もが諦め、ロングポジションをもっていなかったまさにこのタイミングだ。やがて、この隠れた成長ストーリーが市場に浸透し、株価は7000円台へと跳ね上がり、典型的なバリューからグロースへの転換を見事に実現した。
こうした攻めの投資を加速するため、外木は複数の「ifシナリオ」を常に頭のなかにイメージする。
「ifシナリオは外しても損をするのは私の頭のなかだけ。期待値の低いバリュー株を狙うため下落リスクは限定的ですし、当たれば劇的なアップサイドが期待できます」
東証の市場改革を経た今も、構造的に伸びる「PBR1倍近辺・ROE8%突破」の未発掘バリュー株はまだ眠っていると確信する。地政学リスクやインフレの波から「次に何が上がるか」を連想し、有事の局面に強い豊田通商のような銘柄を仕込む。自身の妄想を圧倒的なリターンへと変えていく、これが外木の勝負の作法だ。
16年の新卒入社時から運用部に配属された外木が徹底的に取り組んだのは、過去の市場の歴史を徹底的に学ぶこと。株価チャートの軌跡の裏で市場参加者がどう動いたか、どんな期待が生まれ、なぜ裏切られたのか。その定性的な歴史を頭にたたき込む作業こそが、誰よりも早く変化の兆しをつかむための土台になっている。
その目線は今、AI革命に沸く日本市場全体に向けられている。住宅設備や食品メーカーにも、優れた技術を持ちながら市場にまだ気づかれていない「隠れAI銘柄」の原石は数多く眠っている。産業構造が激変する局面で企業が放つ次の一手が市場の評価を一変させる爆発力は格段に高まっている。「初回放送を見逃すな」の言葉通り、今日も外木は歴史を紐解き、企業の変化を追い続けている。
とのぎ・けんと◎2016年、野村アセットマネジメント入社。以来、一貫して日本株の運用業務に従事。日本株アクティブグループに所属し、国内向けテーマ型投資信託ならびに海外向けコア型投資顧問口座における日本株運用を担当。


