2024年7月、英誌エコノミストは、「AI革命に何が起きたのか?」という、物議を醸す問いを投げかけた。同記事は、画期的あるいは業界を破壊するような活用事例が不足している現状を掘り下げていた。そして2年が経った現在、私たちは同じ問いを繰り返している。AI経済は今、成果によってその価値を証明する時代へと入らなければならない。
経営陣は、AIに関するまったく異なる2つの言説を突きつけられている。1つは、AIが仕事を奪うというものだ。組織をフラット化し、エントリーレベルの職務をなくし、コスト削減に走りがちなリーダーたちが昔からやってきたこと、すなわち「人員を削減し、それを進歩や効率化の成果と呼ぶ」ための格好の言い訳を企業に与えるという主張である。
もう1つの言説はその逆だ。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じた新しい研究によると、生成AIに最も多額の投資を行っている企業は、同業他社よりも速いペースで従業員を増やしているという。導入後の最初の2年間で、AIの活用度が最も高い企業におけるホワイトカラーの従業員数は全体で10.2%増加した。エントリーレベルの雇用は12%増加している。この研究は、米国の約2万2000社を分析し、組織レベルのAI支出と労働力データを紐付けたものだ。
これと同時に、ベイン・アンド・カンパニーの「2026年自動化・AIパスファインダー調査」では、多くのリターンが期待を下回っているにもかかわらず、AI予算が増加していることが明らかになった。AIによるコスト削減効果を測定した企業の40%近くが、11%〜20%の削減を目標としていたにもかかわらず、実際には10%未満にとどまった。それにもかかわらず、これらの企業の90%が再び予算を増やしている。
では、一体どちらが真実なのだろうか。
AIは成長のエンジンなのか、それともコスト削減の道具なのか。雇用を創出しているのか、それとも奪っているのか。リターンをもたらしているのか、それとも、デジタル「変革」という長い歴史における、もう一つの高価な失敗作になりつつあるのだろうか。
その答えは二者択一というよりも、はるかに示唆に富んでいる。すなわち、AIは、その投資の背後にあるリーダーシップの質を白日の下にさらしているのだ。
AIを単なる「ツール」として扱う企業は、ツールレベルのリターンしか得られない傾向にある。AIを「自動化のレイヤー」として扱う企業は、自動化レベルのリターンしか得られない傾向にある。一方で、AIを「仕事、価値創造、そしてオペレーティングモデルを再考するための触媒」として扱う企業は、まったく異なるストーリーを紡ぎ始めている。
そこにこそ、真の分断が生じているのだ。
「支出」は「戦略」ではない
フィナンシャル・タイムズのレポートは、AIの導入が自動的に広範な失業につながるという前提に疑問を投げかけている。AIに最も多額の資金を投じている企業が、必ずしも縮小しているわけではない。この研究では、AIの活用度が最も高い企業は同業他社よりも速いペースで従業員数を増やした一方、活用度の低い企業は対照群と比較して有意な変化を示さなかった。
しかし、これは「AIが普遍的かつ自動的に雇用を創出する」ことを意味するわけではない。この調査結果には重要な背景がある。決済プラットフォームRampのチーフエコノミストであるアラ・ハラジアンは、人員増の効果が現れるまでに少なくとも6〜12カ月かかり、さらに「ChatGPTに毎月数ドルを支払う」程度ではなく、意味のある規模の投資が必要だったと指摘している。またFT紙は、増加分のほとんどがテック分野であり、調査対象がホワイトカラーの労働者であったこと、そしてある労働エコノミストが「AIを積極的に導入する企業は成長が早い」という事実と、「急成長している小規模なスタートアップは、かなり早い段階からAIを大量に購入する」という事実を区別するのは難しいと警告していることにも触れている。
ここから得られる教訓は、「AIへの支出=採用」ではないということだ。重要なのは、本格的なAIの導入が、すでに成長し、学び、実験し、そして仕事の進め方を変えるほどの熱量を持って投資を行っている企業と相関しているように見える、という点である。
これが、経営陣が陥る第1の罠である。
多くのリーダーは、AIへの投資をAIの進歩と同等に捉えている。彼らはライセンス数、実証実験(パイロット)の数、プロンプト、コパイロット、エージェント、そして対外発表の数を数える。しかし、これらは活動の指標であって、変革の指標ではない。導入が進んでいることは、従業員がAIにアクセスできる状態にあることを示すにすぎず、AIがビジネスの収益構造を変化させている証明にはならないのだ。
ROIは存在しないのではなく、定義を誤っている
ベインの調査は、問題のもう一方の側面を指摘している。企業は支出を増やしているものの、その多くが期待通りのリターンを得られていない。同レポートの最も重要な結論は、解決策は「技術的なものではなく、組織的なものである」ということだ。言い換えれば、どれほど技術が機能していても、その周囲の仕事を再設計しなければ、企業価値を生み出すことには失敗するということである。
ここに、AIの投資対効果(ROI)に関する議論が誤解を招く要因がある。
ほとんどの組織は、これまでの自動化の波と同じ言葉を使ってAIを測定しようとする。すなわち、削減された時間、削減されたコスト、完了したタスク、回避された問い合わせ(チケット)件数などだ。これらの測定基準は有用ではあるが、不完全である。これらは、現在のビジネスを「より効率的にする」ことだけをゴールと仮定しているからだ。
それは必要なことではあるが、より野心的な企業がAIを使ってイノベーションやビジネスの再定義を模索するなかで、自社を競争において有限(finite)なものにしてしまうおそれがある。
より大きなチャンスは、「AIによって新たに何が可能になるか」を問いかけることだ。市場の変化により迅速に対応できるか。これまでコストがかかりすぎたり、複雑すぎたりした方法で顧客にサービスを提供できるか。意思決定を改善し、リスクを軽減し、体験をパーソナライズし、製品開発を加速し、あるいは新たな収益源を生み出すことができるか。削減された時間を単なる財務上の抽象概念として扱うのではなく、新しい価値創出のための能力(キャパシティ)に変換できるか、ということである。
だからこそ、「AIにROIはあるのか?」という問いは、大雑把すぎて役に立たないのだ。
抽象的な意味での「AIのROI」などは存在しない。ROIがあるのはワークフローであり、顧客にもたらす成果であり、再設計されたオペレーティングモデルであり、新たな機能であり、ビジネスを再定義するアジェンダである。
そうした具体性がなければ、リーダーたちは、AIが価値に意図的に結びつけられるべき新しいインテリジェンスのレイヤーであるにもかかわらず、あたかも単一の投資カテゴリーであるかのように議論することになってしまう。これこそが、私とデイブ・ライトが共著『Infinite: How Visionary Leaders Transform Today’s Businesses into AI-Forward Companies(インフィニット:先見の明あるリーダーはいかにして今日の企業をAI先進企業へと変革するか)』の中で、新しい時代のROIとして探求しているテーマである。私たちはこれを「Return on Intelligence(知性のリターン)」と呼んでいる。そしてこれは、まさに今議論すべきタイムリーな対話なのだ。
無視できなくなるコスト問題
エド・ジトロンによるAIエコノミクスに対する痛烈な批判は意図的に過激なものだが、経営陣が真剣に受け止めるべきシグナルが含まれている。彼の主張は、多くの組織がサブスクリプションやバンドル提供、利用制限、不透明なトークン課金などによって、AIの真のコストから守られてきたというものだ。企業の利用がトークンベースの課金へと移行するにつれ、企業はAIの価値だけでなく、その価値を生み出すための「実際のコスト」を測定することがいかに困難であるかに気づき始めている。
これは、すべてのAI投資が無駄であることを意味するわけではない。しかし、多くのAIのビジネスケースが、運用面の規律よりも楽観論に基づいて構築されてきたことを意味している。
もし企業が、あるタスクにどれだけのコストがかかっているか、それがどれほどの頻度で成功しているか、人間のチェックがどれだけ必要なのか、満たすべき品質基準は何か、そしてその成果物がどのようにビジネス成果に貢献しているかを特定できないのであれば、その企業にあるのは「AIのROIモデル」ではなく、単なる「AIの利用モデル」にすぎない。
この点は、組織が実験段階からスケールアップ(規模拡大)の段階へと移行するにつれて、より重要性を増してくる。実験段階において曖昧さは許容される。しかし、スケールアップの段階において、曖昧さは莫大なコストとなって跳ね返ってくる。
「自律性」のギャップ
ベインの調査における最も重要な発見の1つは、本番環境で完全に自律的なエージェントを実行している企業はわずか7%にすぎないということだ。大半の投資計画は、完全な自動化による経済効果を前提としているが、実際の運用の現場は依然として極めて人間的である。多くの企業が、人間の承認、ガードレール、例外処理、そして監視に依存している。
AIシステムが顧客、従業員、コンプライアンス、財務上の意思決定、安全性、信頼、あるいはブランドの評判に関わる場合、人間の監視が存在すること自体はまさに正しい姿である。
問題は、投資計画(ビジネスケース)と実際のオペレーティングモデルとの間にあるギャップだ。
もし最高財務責任者(CFO)が完全な自動化を前提とした計画を承認したにもかかわらず、現場ではエスカレーション、レビュー、手戻り、例外処理の保留、ガバナンスのチェックポイントなどを伴う「ヒューマン・イン・ザ・ループ(人間が介入する)」ワークフローが稼働しているなら、その企業はスプレッドシートが約束したのとはまったく異なる経済合理性の中で動いていることになる。
これが、AIの価値が捉えどころのないものに感じられる理由の1つだ。リターンはあたかも「自律性」がすでに実現したかのように計算されているのに対し、実際の運用はそうではない前提で設計されているのである。
現在のAI投資は「循環的な賭け」である
ベインはまた、企業の44%が、過去の自動化プログラムによって生み出されたコスト削減分を、生成AIやエージェント型AIへの投資資金に充てる計画を立てていることを明らかにした。書面上は規律が保たれているように見える。しかし実際には、過去の削減効果が目標を下回っていたり、将来の投資規模が実績ではなく予測値に基づいて決定されたりする場合、これは「構造的な漏れを伴う循環的な賭け」になりかねないとベインは警告している。
このようにして、企業内のAIバブルが形成されていく。
なぜなら、リーダーたちが次の波に再投資する前に、価値が「実際にどこで実現されたか」を検証していないからだ。そのリスクは、単なる過剰支出にとどまらない。より深いリスクは、根拠の薄い前提条件を重ね合わせてしまうことにある。
実現していない自動化による削減資金で将来のAIに投資する企業は、言ってみれば「信仰」を拡大しているにすぎない。
矮小化されている雇用論争
失業に関する議論もまた、進化させる必要がある。FT紙は、学術研究が相反する様相を示していることを指摘している。例えば、AIにさらされやすい職種において初期キャリアの雇用が16%減少したことを示す研究がある一方で、ハーバード大学の論文では、AIを導入した企業で若年層の雇用は減少したものの、シニア層の職務はほとんど影響を受けなかったことが示されている。また同記事は、オラクル、スナップ、ブロック、シスコなどが、数千人規模の人員削減をAIに関連づけていることにも言及している。
この一様ではない状況こそが、経営陣が予期すべき現実そのものである。AIはすべての仕事に等しく影響を与えるわけではない。一部のタスクを自動化し、他のタスクを拡張し、特定の役割を縮小させ、また別の役割を拡大させる。そして、オーケストレーション、監視、ガバナンス、データスチュワードシップ、ワークフロー設計、および「判断」といった分野において、まったく新しいニーズを生み出すのだ。
ここでの誤りは、「職務(ジョブ)」を分析の最小単位として扱っていることだ。
職務とは、タスク、コンテキスト、人間関係、判断、説明責任、そして組織内の共有知識が束になったものである。AIはタスクを実行し、アウトプットを生成することはできる。意思決定を支援し、一定の制約の中で行動することもますます可能になっている。しかし、仕事をどのように分解し、再設計し、統制し、測定し、そして改善すべきかを決定するリーダーは、企業にとって依然として不可欠なのだ。
前出の著書『Infinite』の中で、ライトと私は、AI先進企業は単に受け継いだ仕事を自動化するわけではないと論じている。彼らは、人間とインテリジェントなシステムが新しい方法で連携する「価値の流れ」を中心にビジネスを再設計する。これは組織図から業務プロセス図への移行であり、孤立した効率化プロジェクトから企業全体の再定義への移行であり、「同じことをより速く行う」ことから「今、何を違った形で行うべきか」を問うことへのシフトなのだ。
AI経済を効果的に導くために、経営陣が次に成すべきこと
経営陣は、AIを単なる「予算項目」から「業務の規律」へと引き上げなければならない。
次なるAI投資を承認する前に、リーダーたちは「AIをどこで使えるか?」という問いをやめるべきだ。より適切な問いは、「どのビジネス成果を改善すべきか、およびそれを達成するために仕事はどう変わるべきか?」である。
第1に、次の取り組みに資金を投入する前に、基準となる「ベースライン」を作成することだ。すべてのAIプログラムについて、改善しようとするワークフローの現在のコスト、サイクルタイム、品質レベル、エラー率、顧客への影響、従業員の労力、そして売上や利益率への貢献度を記録する。ベースラインがなければ、ROIを測ることはできない。
第2に、すべてのAI投資に対して、責任を負うビジネスオーナーを1人任命することだ。成果を最初から最後まで(エンド・ツー・エンドで)管理する役員を1人決める。AIがカスタマーサービス、請求処理、営業業務、財務、人事、調達、あるいはソフトウェア開発に導入される場合、そのワークフローが実際に改善されるかどうかについて、誰かが責任を負わなければならない。
第3に、ツールの使用状況やパフォーマンスだけでなく、経済効果の「全体像」を測定することだ。AIのコストには、ライセンス料、トークン使用料、インテグレーション、データ準備、人間のレビュー、例外処理、コンプライアンス、手戻り、トレーニング、チェンジマネジメント(変革管理)、およびガバナンスが含まれる。ベインが指摘するように、本番環境で完全に自律的なエージェントを動かしている企業はわずか7%であり、多くの企業は依然として人間の承認、ガードレール、例外処理を必要としている。こうした「人間が介入する現実(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」を、投資計画に含めなければならない。
第4に、技術をスケールアップさせる前にワークフローを再設計することだ。破綻したプロセスの上にAIを載せても、その破綻したプロセスやパフォーマンスが改善されるわけではない。かえって機能不全を加速させ、解決をより困難にするだけだ。リーダーは、現在の仕事の流れを可視化した上で、人間とエージェントがどのように連携して機能すべきか、その流れを再設計する必要がある。これこそが、ライトと私が『Infinite』で述べた「組織図から業務プロセス図への移行」である。組織図は誰が誰に報告するかを示すものだが、業務プロセス図は、どのように価値が創造され、どこでインテリジェンスが必要とされ、どこで判断が重要になり、どこでAIが責任を持って行動できるかを示すものだ。
第5に、削減された時間を「獲得された価値」へと変換することだ。10時間を削減したからといって、自動的に10時間分の価値が生まれるわけではない。組織はその余力をどこに振り向けるかを決定しなければならない。顧客のレスポンス時間や体験を改善するのか。営業のカバー範囲を広げるのか。リスクを軽減するのか。製品のローンチを加速させるのか。品質を向上させるのか。サービスを拡大するのか。あるいは新しいサービスを創出するのか。削減された時間は、リーダーシップがそれを測定可能な成果へと方向付けない限り、単なる「潜在的な価値」にとどまる。
最後に、AIのリターンを学習システムとしてレビューすることだ。主要なAIワークフローにおいては、毎月の業務レビューを行い、以下の問いを投げかけるべきである。何が改善されたか。何が改善されなかったか。どのような驚きがあったか。人間が修正しなければならなかった箇所はどこか。次にエージェントが処理すべき業務は何か。決して自動化すべきではない業務は何か。そして、どのような新しい価値が可能になったか、ということだ。
これこそが、企業が「学習の速度」を「具現化された価値」へと変換する能力、すなわちReturn on Intelligence(知性のリターン)を構築する方法である。AI時代のROIは、単なる「投資利益率」ではない。それは、より良い意思決定、迅速な適応、改善されたワークフロー、より強力な顧客の成果、および成長のための新たなキャパシティによってもたらされるリターンなのである。
経営陣に課された使命は明確だ。
変える価値のあるビジネス成果が存在する場所にAI資金を投じること。その変化に必要な仕事を再設計すること。実際の経済効果を測定すること。責任者を任命すること。価値を獲得すること。そして、そこから得た学びを再投資することだ。
そうして初めて、AIはテクノロジーの支出から競争優位性へと移行する。そしてこれこそが、AIに資金を「支出」する企業と、「AI先進」企業へと進化する企業との決定的な違いなのだ。



