調達資金12億5600万円、全チェーン向け耐量子技術と送金証明を開発
そこへ参戦したのが、テキサス州オースティンに拠点を置くAmerican Fortress(アメリカン・フォートレス。旧社名MatterFi)だ。同社は2026年5月、0G Labs、SAVA Digital Asset Fund、Moon Pursuit Capitalが共同主導したシードラウンドで、800万ドル(約12億5600万円)を調達した。
同社は、「ユーザーがいかなるアドレスも移行する必要なく、全チェーンに量子耐性を提供する」と訴える。ビットコイン向けには既存ルールと互換性を保つネットワーク更新も組み合わせ、攻撃者が資金を動かす前に、公開鍵がすでに見えている長期間未使用のウォレットを自動で凍結する構想だ。
特許と技術論文を公開、一般的なPCで100倍高速化
創業者兼CEO兼最高技術責任者(CTO)のミカル「Mehow」ポスピエシャルスキは、「On The Margin」で耐量子技術を控えめに語ることはなかった。「あまりに優れていて、では渡せない。常温核融合を発見するようなものだ」。
こうした主張は慎重に読む価値がある。「この種のアルゴリズム自体は新しいニュースではない」とポスピエシャルスキは説明した。既存アドレスへ追加証明を付ける発想は以前からあった。あまりに遅いため、誰もが捨てた。私たちは一般的なPCで100倍速く動かした」。
American Fortressは同社は耐量子トランザクション署名で特許を出願し、5月13日には技術論文も公開した。特許出願が示すのは優先権であって実証ではなく、設計は外部監査を受けていない。
同社はイーサリアム取引を高速化するネットワークArbitrum(アービトラム)上でベータ版を動かし、開発元Offchain Labs(オフチェーン・ラボ)で提携を担当するマネージャーから肯定的なコメントを得た。これは導入実績であり、採用した暗号方式を正式に認めたわけではない。
0G Labsの最高経営責任者マイケル・ハインリッヒは、資金調達発表において「ポスト量子セキュリティは将来の機能ではなく、現在の必需品だ」と述べた。
送金元を取引ごとに証明、身元開示は利用者が選択
American Fortressが売り込む仕組みは2本立てだ。1つは量子コンピューターによる暗号解読への対策で、もう1つは送金者と受取人の関係を証明しながら、必要な場合に限って身元情報を開示できる仕組みである。
「私があなたに送金すれば、それが実際に私の秘密鍵から来たことを示す暗号学的証明をあなたは受け取る」とポスピエシャルスキは語る。「以前は完全に不可能だった」。
ポスピエシャルスキが例に挙げるのは、詐欺師が被害者のウォレットへ送金し、取引履歴に本物とよく似た偽アドレスを表示させる「アドレス・ポイズニング」だ。被害者が履歴から送金先をコピーすると、誤って詐欺師のアドレスへ送金するおそれがある。2024年5月には、ラップド・ビットコイン6800万ドル(約106億7600万円)が同手口で奪われ、後に返還された。
ポスピエシャルスキの解決策は、あらゆる取引に送金元を示す来歴証明を付与し、ユーザーが望む場合にのみ身元を開示できるようにするものだ。「システムを使うために身分証を取得させるわけではない」と彼は述べた。「ENSに似ているが、こちらは非公開だ」。
ENSは、イーサリアムで使う長いウォレットアドレスを「alice.eth」のような読みやすい名前と結び付ける仕組みだ。American Fortressでは同じように名前で送金先を指定するが、名前と実際のウォレットは利用者が許可しない限り公開しないという。


