仏エネルギー大手トタルエナジーズも有力な候補の1つだ。同社はロシア天然ガス大手ノバテクの株式19.4%と、北極圏のLNG開発事業「アークティックLNG2」の株式10%を保有していた。トタルは6月に後者からは撤退したものの、他のロシア上流部門の権益は維持している。フランスは歴史的に、英米よりはるかにロシアに対して融和的な姿勢を取っており、トタルの経営陣もウクライナ侵攻を機にロシアとの関係を断ち切ることに明らかに消極的だった。
2022年に「サハリン2」の27.5%の権益を放棄せざるを得なくなった英石油大手シェルは、1990年代から建設に携わってきた同プロジェクトで、約50億ドル(約7900億円)の減損処理を行った。
ロスネフチの株式1.5%と複数の北極圏探査鉱区を保有していたノルウェーの石油大手エクイノールは、10億8000万ドル(約1700億円)の減損処理を行った。ノルウェーは地理的にロシアに近く、長年にわたり北極圏のエネルギー事業で協力してきた実績があることを踏まえると、何らかの形で同国との関係を再構築する可能性は十分にある。
恐らく真っ先に動き出すのは、政治的な障壁が少ない油田サービス企業だろう。米油田サービス大手のSLB(旧シュルンベルジェ)、ハリバートン、ベーカー・ヒューズはいずれも、ウクライナ侵攻前からロシアで大規模な事業を展開していた。老朽化したロシア西シベリアの油田は、これらの企業の掘削技術と増進回収技術を切実に必要としており、制裁が緩和されれば、その商業的な魅力にあらがうのは困難になるだろう。米政府は、これらの企業の復帰が自国の戦略的利益に資するものなのか、あるいは単にロシアの財源を潤すだけなのかを判断しなければならない。
ウクライナとの和平がいつ実現するかはともかく、ロシアの信用が自動的に回復するわけではない。ウクライナ侵攻を経て、ロシアはより権威主義的になるか、あるいは不安定化し、経済的に弱体化し、中国への依存度が高まり、資源供給国としての信頼を低下させるかのいずれかになるだろう。供給国としての評判の失墜は、単なる広報上の問題ではない。それは構造的な問題だ。
世界のエネルギー地図は塗り替えられた。欧州がエネルギー供給元の集中がもたらす代償を痛感したことで、供給経路は恒久的に変化し、新たな商業関係が生まれた。市場は安定するだろうが、ウクライナ侵攻前と同じような状態には戻らないだろう。
ロシア産資源が一気に市場に戻ってくるわけではない。ロシア事業への復帰を望む企業は数多く存在するが、制裁をはじめとする政治的リスクや自社の評判の低下といった圧力にさらされており、たとえ最良のシナリオであっても、再参入は順調には進まないだろう。ウクライナ侵攻終結後の地政学は、ロシアがエネルギー超大国として復活するのではなく、今後の展開を誰が掌握するのかという点に焦点が当てられることになるだろう。


