テクノロジーを導入する際、人間の心理を乗り越えることこそが最も困難な課題かもしれない。AI導入プロジェクトを成功に導いた経験を持つ人なら、誰もがこれを実感しているだろう。
「AI主導の変革が成功するのは、リーダーが人々の感情、思考、行動を深く理解したうえで、あらゆる意思決定の中心に人を据えているときだ。BCGの調査によれば、AI主導の変革が成功した事例では、その価値の70%はテクノロジー関連の施策ではなく、人に関わる施策から生まれている」
リーンなスタートアップであれ、複数事業部を抱える大企業であれ、「本質的な課題は変わらない」と、認知神経科学者で行動経済学者のグレブ・ツィプルスキー博士は語る。「従業員が自発的かつ賢明に生成AIと関わる必要がある」
AIは「柔軟な働き方がオフィス文化に対して果たしたのと同じ役割を、創造性と戦略の領域で果たそうとしている」と、同氏は新著『The Psychology of AI Adoption at Work: From Resistance to Results(職場におけるAI導入の心理学:抵抗から成果へ)』で述べている。「新しいアルゴリズムは大きな話題になるが、広範な普及には華やかなデモ以上のものが必要だ。従業員は、AIが自分の役割にどのような変化をもたらすのかについての率直な説明と、効率化が自動的に雇用喪失につながるわけではないという安心感を求めている」
マーケティングコピーからサプライチェーン分析、製品イノベーションまで用途はさまざまだが、その道のりは似たパターンをたどると同氏は付け加える。「従業員は、自らの価値を機械に譲り渡していないという確信を持ちたいと考え、AIの強みが自分自身の強みとどう噛み合うのかを知りたがっている。AIがエラーやハルシネーションを起こすたびに、リーダーが責任追及ではなく学習の文化を築けるかどうかが試される」
この道のりの中で、テクノロジー導入時に見られる反応は8つに大別できる。ツィプルスキー氏は著書で、マネジャーが直面するであろう主要な態度を、最も抵抗が強いものから最も熱心なものまで整理している。
- AI警戒派(最も抵抗が強い):「AI警戒派は、この新しいテクノロジーが自分の仕事を脅かす可能性を懸念する。次に、AIがミスを引き起こし、その責任を自分が負わされるのではないかと心配し、より広くは会社、さらには社会全体への脅威を不安視する。その心理的背景には、現状維持バイアス(これまでと同じやり方で業務を続けたいという嗜好)と損失回避(最悪のシナリオにとらわれる傾向)がある」
- 実利的抵抗派:「実利的抵抗派は、AIが解決するよりも多くのエラーや複雑さを、とりわけ自分の役割にもたらすのではないかという警戒感を示すことが多く、実証済みのプロセスを強く好む」。彼らの仕事は、経理、法務、専門的なカスタマーサポートなど、認知的または手続き的に複雑な傾向がある。ツィプルスキー氏は、研修が懸念の緩和に役立つ可能性があると勧めている。
- 懐疑的観察者:受動的な観察者であることが多く、成り行きに任せる姿勢を取る。「AIに強く反対しているわけでも、自ら探求しようという意欲があるわけでもない」。新しいアプローチを学ぶには忙しすぎると主張することさえある。
- 消極的導入者:こうした従業員は、新しいAIパラダイムに押し込まれていると感じている。「多くの場合、AIを学ばなければ時代遅れと見なされるリスクがあると考えている。彼らはテクノロジーそのものを恐れたり嫌ったりする以上に、取り残されることを恐れている」。さらに、「AIに頼ることが、従来型のスキルを欠いていることを示唆するのではないかと自意識過剰になる」こともある。
- 慎重な楽観派:「彼らは通常、テクノロジーに対して成長マインドセットを持ち、過去にデジタルトランスフォーメーションで前向きな経験をしているため、AIの真の利点を信じている」。こうした従業員は「実験するだけの安心感を持ちながら、懐疑派を安心させるだけの慎重さも備えている」
- 効率追求派:彼らは実利的に、AIが業務を効率化する可能性に注目している。「AIによって生産性が高まるため、好意的に受け止める。定量化できる時間短縮を一度目にすれば、納得する。彼らは自分たちを、単により賢く働いているだけだと見ている」
- AIエバンジェリスト(最も熱心):「従業員の中のエバンジェリストは、最新ツールを学び、新しい手法を発見し、同僚にその導入を促すことに個人的なエネルギーを注ぐ」。彼らには「テクノロジーへの純粋な興味と、先進的で行動力のある人でありたい、そう見られたいという欲求が混在している。主にテクノロジーに精通した背景を持ち、副次的にはマーケティングやデザインなどのクリエイティブ分野の出身者である」
AIの取り組みを始めるにあたり、ツィプルスキー氏は、エバンジェリストを見つけ出し、「日々の業務における摩擦を取り除く、目に見えやすく低リスクのユースケースを1つか2つ」主導させることを勧めている。



