サイエンス

2026.08.03 17:00

富士額の遺伝子は「存在しない」、最新研究が明かす生え際の仕組み

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多くの人の生え際は、額をほぼまっすぐ横切っている。一方で、中央部分だけ髪が下がり、はっきりとしたV字を描く人もいる。これは英語で「ウィドーズピーク」と呼ばれ、日本語では富士額として知られる。人間の形質の中でも、ほとんど誰もが名前を挙げられる数少ないものの一つだ。その大きな理由は、何世代にもわたる生物学の授業で、舌を筒状に丸められるかどうかや、耳たぶが離れているか接しているかと並び、単一の優性遺伝子のわかりやすい例として教えられてきたことにある。

だが生物学者にとって、この説明は以前から奇妙なものだった。生え際はオンかオフかで分かれる単純な形質ではない。十分な数の額を見れば、鋭い頂点、かすかなへこみ、ゆるやかな波形、平らな線まで、あらゆる中間型が見つかる。2つの対立遺伝子を持つ1つの遺伝子に支配される形質は、通常そのようには振る舞わない。では実際には何が起きているのか。

富士額は「生え際」の形質ではなく「額」の形質である

まず一歩手前の問いから始めよう。髪はなぜ、その位置で止まるのか。すべての哺乳類には、有毛皮膚と無毛皮膚の境界がある。その境界は、皮膚細胞が毛包をつくるかどうかを決める胚の初期段階で引かれる。人間の頭髪は密だが、額の毛は細く、淡く、ほとんど見えない。生え際とは、ある発生上の決定が別の決定へと切り替わる場所にすぎない。

富士額についての有力な説明は、1973年に医学誌「The Lancet」に掲載された研究で初めて提唱され、現在も標準的な説明とされている。それによれば、この境界は、発達中の顔に存在する2つの目に見えない領域によって定まる。それぞれの目は、頭髪の成長を抑制するおおむね円形の領域の中心にある。両側から壁にスポットライトを当てる様子を想像してほしい。その上端が正中線上で交わる場所が、「ここには髪が生えない」という領域の終わりであり、生え際の始まりとなる。

その領域が十分に大きく、互いに近い位置にあれば、上端は額の高い位置で交わり、生え際は平らになる。一方、その領域が通常より小さい、あるいは互いに離れていれば、交点は低くなり、その隙間へと髪が伸びて、尖った形をつくる。つまり富士額は、髪そのものの形質ではない。顔の幾何学的配置の結果であり、それが目に見える形で表れる組織が髪であるということだ。

このモデルが説得力を持つのは、予測ができるからだ。目と目の間隔が広いと抑制領域が離れるのであれば、目の間隔が通常より広い人には富士額がより多く見られるはずである。そして、この点が研究されている症候群の症例では、実際にそうなっている。2021年に「Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft」に掲載されたレビューが示すように、目と目の間隔が広いことを伴うまれな発達症候群では、中央がはっきり尖った生え際が繰り返し確認されている。そのため臨床遺伝学者は、生え際を単なる美容上の些事ではなく、本物の形態形成上の手がかりとして扱う。もちろん、圧倒的多数の人にとって、それは顔の形における通常の個人差以上の意味を持たない。

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