働き方

2026.08.02 09:12

「AIによる失業の黙示録」はなぜ回避されたのか? 予測者たちが前言撤回した理由

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昨年開催された「アスペン・アイデアズ・フェスティバル」で、フォードのジム・ファーリーCEOは、人工知能(AI)が「文字通り米国のホワイトカラー労働者の半分を代替するだろう」と発言した。しかし、彼がステージ上で言及しなかったのは、自身の会社がすでに350人のベテラン技術者を再雇用していたという事実である。

控えめに言っても、AIが全員の仕事を奪うという予測は誇張されていた。失業を警告するデータを欠く中、多くのCEOが自らの主張を変化させ始めている。

  • OpenAIのサム・アルトマンCEO:長年にわたりAIが特定の職種を完全に消し去ると警告してきたが、現在は自身の直感について「単に的外れだった」と語っている。
  • Anthropicのダリオ・アモデイCEO:おそらくこの中で最も声高に不安をあおってきた人物であり、かつて「AIがエントリーレベルのホワイトカラー職の半分を消滅させ、5年以内に失業率を10〜20%に押し上げる可能性がある」と主張していた。しかし、6月に発表した最新のエッセイでは、当初の警告は恐怖を植え付けるためではなく、政策立案者や企業に適応を促すためのものだったと釈明している。
  • ジェフ・ベゾス:先日の「VivaTech」での対談において、「AIは労働力不足を引き起こすだろう。なぜなら、人々がより多くの課題を特定できるようになるからだ」とまで主張した。

これらの事例は、ビジネスリーダーたちの間における広範なトレンドを反映している。AIへの投資によって人員が大幅に削減されると予測するCEOの割合は、2025年1月の約46%から、今年5月には20%へと減少した。

こうした公の場での前言撤回を見るのは喜ばしいことだが、いささか遅すぎた感は否めない。

雇用データは、経営者たちが予測していたような大量解雇を示したことは一度もなく、データと歴史に真摯に向き合おうとする者にとっては、それは最初から明らかなことだった。

現実の経済で起きていること

悲観論がピークに達したのは、シトリーニ・リサーチ(Citrini Research)が「2028年の世界知能危機(The 2028 Global Intelligence Crisis)」と題するメモを発表したときだった。これは、AIによって失業率が10.2%に達し、S&P 500が38%下落するという架空の未来を描いたものだ。市場はこのメモの言葉を真に受け、ダウ工業株30種平均は800ポイント以上下落した

筆者はその数日後、きわめて明白だと思われる点を指摘する検証記事を執筆した。シトリーニのメモはAIが奪う可能性のあるすべての仕事をカウントしている一方で、労働者や企業がその後に何を行うかについてはほとんど考慮していなかったのである。

筆者が導き出した結論は、AIは経済成長を背景に、新しい雇用のカンブリア爆発を引き起こすというものだった。この結論は、現在のデータと経済理論の基礎的な理解を信頼する者であれば、誰でもたどり着けるものだった。

シタデル・セキュリティーズも素早く反応し、ソフトウェア関連の求人広告が前年比11%増加していることや、連邦準備制度(Fed)のデータが「差し迫った雇用の代替リスクを示す証拠はほとんどない」と示していることを指摘した。ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモンCEOは、破壊的変化に対応して常に新しい雇用が創出されてきたと主張し、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOはかねてより、企業の生産性が向上すれば、その企業はより多くの人材を採用するようになると訴えてきた

シトリーニのメモが発表されて以来、この主張を補強する新たなデータが次々と現れている。失業率は4.2%にとどまり、労働統計局(BLS)は「年間を通じてほとんど変化なし」と報告している。また、AIによる失業の影響を最も受けるとされていた大卒者の失業率は2.7%に低下した

ランプ(Ramp)とレベリオ・ラボ(Revelio Labs)による新たな研究では、2万1559社に及ぶ企業における実際のAI支出と従業員データが統合・分析された。その結果、AIに最も多額の投資を行っている企業は、AI導入後の2年間で従業員数を10.2%増加させており、エントリーレベルの雇用は12%増加していたことが判明した。この研究は因果関係を主張しているわけではないが、経済的に合理性のある相関関係を示している。

また、2026年上半期にテクノロジー分野の雇用主が13万9156人の人員削減を発表し、その主な理由としてAIが挙げられたのは事実だが、経済の一角における人員削減が、労働需要全体の完全な崩壊を意味するわけではない。一部の仕事が失われる一方で、最先端技術は人手を必要とする新たな課題、製品、産業を絶えず生み出し続けている(人員削減が行われている最中でも、失業率が4.2%前後で安定していたのはそのためである)。

安価になった「知能」が経済を成長させる

知能はいまや生産の核となる要素であり、生産要素に対するデフレ圧力が経済を縮小させたことは歴史上ない。まったくの逆である。

以下は、最近起きた主な動きである。

6月9日:Anthropicが、入力100万トークンあたり10ドル(約1万未満円)、出力100万トークンあたり50ドル(約1万未満円)という、市場で最も高価なフロンティアモデル「Claude Fable 5」をリリースした。

7月9日:OpenAIがその半額で「GPT-5.6の一般提供を開始」。より安価なティアにおいて、16分の1のコストでプロフェッショナルなワークフローにおけるFable 5の性能を上回ると主張した。

7月16日:Moonshot AIが、間もなく史上最大のオープンウェイトモデルとなる「Kimi K3」をリリース(ウェイトの提供は7月27日開始)。価格は入力100万トークンあたり3ドル(約1万未満円)、出力100万トークンあたり15ドル(約1万未満円)とした。アーティフィシャル・アナリシス(Artificial Analysis)の独立したインテリジェンス指標では、Fable 5およびGPT-5.6とわずか数ポイント差の性能とされ、需要の急増により、提供開始から3日以内に新規登録が一時停止される事態となった。

7月24日:Anthropicが「Claude Opus 5」を、入力100万トークンあたり5ドル(約1万未満円)、出力100万トークンあたり25ドル(約1万未満円)でリリース。市場で最も高価なモデルとしてFable 5が出荷されてからわずか6週間後、その半額でほぼ同等の性能を実現した。

オープンウェイトモデルの利用急増:DeepSeekは、100万トークンあたりわずか0.09ドル(約1万未満円)という低価格を武器に、OpenRouterにおけるトークンシェアを6カ月で倍増させた。Together AIのCEOは、コスト差が6倍から60倍に及ぶオープンウェイトモデルへの「大移動」が起きていると説明している

資源が安価になれば、人々はその使用量を増やす。例えば、蒸気機関によって石炭をより安く燃やせるようになったとき、石炭の消費量は爆発的に増加した。これは「ジェヴォンズのパラドックス」として知られる現象であり、アポロ(Apollo)のトーステン・スロックシカゴ大学のアレックス・イマスらが、いち早くAIと雇用の関係にこれを当てはめて説明していた。

この1年間叫ばれてきた悲観論は、ジェヴォンズのパラドックスを忘れていた。それは知的労働に対する需要を固定的なものとして捉えていた。つまり、一定の法律業務が存在し、AIがそれをより安く処理するようになれば、弁護士と彼らの高い時間単価の報酬は消滅するという考え方だ。しかし、人間による価格(コスト)で処理されている業務は、需要の全体像を反映していたわけではない。

安価な知能は、これまで行われていなかった新しい仕事を可能にする。AIを最も活用している企業が最も多くの人員を採用しているのは、彼らが最も多くの新しい取り組みを行っているからに他ならない。

このような検証は過去にも行われていた。大恐慌が始まった1930年、ケインズは「経済的悲観論の深刻な襲来」に対抗するため、エッセイ「わが孫たちの経済的可能性」を執筆した。その中で彼は、機械化によって人々の生産性が向上し、孫の世代には週に15時間しか働かなくなるだろうと予測した。

生産性の向上という点において彼の指摘は正しかったが、週15時間労働が実現することはなかった。人間の欲求には限りがないことが証明されたからである。人々は新たな欲しいものを見つけ、それを手に入れるために働き続けた。

AI悲観論者たちも、これとは正反対の方向で同じ過ちを犯した。ケインズは機械が仕事を終わらせると考え、悲観論者たちは機械が労働者を終わらせると考えたのである。

誰もがアクセスできるようになると、競争は激化する

高性能モデルの価格崩壊は、知能を民主化するだろう。100万トークンあたりわずか9セントで利用できる最高峰のオープンモデルは、大手投資銀行であっても、地方の2人だけの個人商店であっても、同様に利用可能である。

これが重要なのは、あらゆる破滅的なシナリオが「知能は希少であり、特定の者が所有するものだ」という前提に基づいていたからである。すなわち、一部の研究所が利益を独占し、労働者の賃金が低下するという構図だ。しかし、誰もがコモディティ価格で購入できる生産要素は、誰にとっても持続的な優位性にはなり得ない。その結果、利益は競争によって相殺され、外部へと還元されていく。すなわち、価格の低下、製品の向上、そして希少な労働力に対する賃金の上昇である。

モデルが供給できないのは人間の労働であり、そこに資金が投じられている。

  • 熟練した人材:PwCが10億件以上の求人広告を分析したところ、AIスキルを必要とする職種は62%のプレミアム(上乗せ賃金)が支払われており、市場全体の8倍の速さで成長していることが分かった。
  • 物理的な労働:AIへの投資は今年の米国GDP成長の約4分の1を占めており、そこには建設業界における採用ブームも含まれている。
  • 説明責任:フォードの車両ハードウェアエンジニアリング担当副社長が「人工知能は素晴らしいツールだが、その精度はトレーニングに使用する情報の質に左右される」と語った通りである。裁判所、規制当局、顧客は、ソフトウェアではなく人間に責任を問うため、誰かがAIの成果物をチェックしなければならない。
  • 判断力:すべての競合他社が同じモデルにアクセスできる環境では、何を問いかけるべきか、そして自らの経験や自社のデータをどのようにモデルに補完すべきかを知っていることが強みとなる。

企業はモデルをいつでも代替可能な「経費明細の一項目」として扱い続けるため、開発会社間での価格競争は常に企業に有利に働き、コスト削減と採用増加につながる。前述のランプによる研究でも、まさにこのような複数のモデルを採用する企業において、最も強力な雇用の伸びが見られた。

希少な労働者と、潤沢な知能

支配的だった言説は、知能の不足と労働者の過剰を前提としていた。しかし、これまでのところ、現実はその逆となっている。

知能が希少であれば、それは労働者の代替となり得る。しかし、知能が潤沢になれば、それは労働者(およびその競合他社)を強化する。まさにここが重要なのだ。今日、電力を利用できることだけで企業が勝利できないのと同様に、今後10年間において安価なAIモデルにアクセスできることだけでは企業は勝てない。企業が競争する舞台は、モデルに欠けている要素、すなわち判断力、審美眼、信頼、および自社ビジネスに関する組織的な知見である。

CEOたちはこの1年間、機械が私たちの仕事を奪いにくると警告し続けた。しかしその裏で、2万1000社以上の企業が新たな採用を行っていた。少なくとも、彼らの予測はようやくデータに追いつきつつある。

forbes.com 原文

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