スペイン内務省は7月31日、北アフリカに位置する同国の飛び地セウタにモロッコから流入した約6万人の移民のうち、少なくとも4万8300人が母国に戻ったと発表した。
他方で、数千人が今もセウタに残っており、地元当局は「この小さな領土には、食事や寝場所を提供するだけの資源がない」と警告し、移民に帰国を促している。スペイン側に越境した移民の死者は数十人に上っており、この中には溺死した人や、国境のフェンスが設置された防波堤をよじ登ろうとして圧死した人も含まれている。セウタ自治政府のフアン・ヘスス・ビバス知事は、今回の危機は「人道的・社会的に極めて緊急を要する事態」だと訴えた。
スペインのペドロ・サンチェス首相は、移民の大規模な流入を「スペインの領土保全に対する侵害だ」と断じ、軍を派遣して事態の沈静化を図っている。一方、同国の野党は、サンチェス政権が4月、約50万人の不法移民を合法化し在留資格を与えたことを例に挙げ、移民受け入れに寛容な同首相の姿勢が今回の大規模な流入を招いたと批判した。
今回の危機を受け、欧州諸国は自国の国境警備の強化に乗り出した。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は内務相に対し、警察官や航空部隊、ドローン(無人機)を増員し、スペインとの国境の取り締まりを強化するよう要請した。イタリアはスペインからの渡航者を対象に、パスポート(旅券)や国境審査なしで自由に入国できる「シェンゲン協定」を一時的に停止した。この措置について、イタリアのアントニオ・タヤーニ外相は「国民の安全を守り、欧州の国境を守るために必要な選択だ」と説明した。
セウタは北アフリカに位置するスペインの飛び地で、地中海とモロッコに面している。16世紀以降スペインに属しており、同じくモロッコと国境を接する沿岸都市メリリャとともに、スペインが現在も保有する数少ないアフリカ領土の1つだ。セウタとメリリャは欧州への玄関口として、アフリカからの移民が目指す目的地となっている。
7月30日に移民が突然セウタに押し寄せた明確な理由は分かっていないが、モロッコ国内の経済的苦境に加え、不法移民であってもスペインでは滞在が許可されるという誤った情報のほか、人身売買組織の活動が複合的に影響したものとみられる。
米紙ニューヨーク・タイムズが越境者に理由を尋ねたところ、24歳の男性は「母国には仕事がないからだ」と答えた。英ロイター通信の取材では、越境者らは、スペインの最高裁判所が、海路で到着した移民をモロッコに強制送還することは認められないとの判決を出したという投稿を、インスタグラムなどのソーシャルメディア(SNS)で目にしたからだと語った。だが、この判決は移民に自動的に滞在許可を与える趣旨のものではなかった。スペイン当局は、こうした誤解を招く情報を広めたのは人身売買組織だと非難している。



