800ドル免税を撤廃、関税が削るSHEIN価格競争力
900億ドル(約14兆2200億円)と450億ドル(約7兆1100億円)の間に何が起きたのか。主因はドナルド・トランプの通商政策である。
SHEINの事業モデルは、「デミニミス免除」を土台としていた。800ドル(約12万6400円)未満の小包が米国に無税で入ることを認める規定である。米政府は2025年5月、中国本土と香港から届く対象貨物に免税措置を適用しない制度へ切り替えた。筆者は2025年夏の記事「The End of the Cheap Everything Era(何でも安い時代の終わり)」で、この転換点を取り上げた。上場開示書類も、免税撤廃が2025年5月以降の米国売上を押し下げ、全社成長を鈍らせたと記している。
EUも3ユーロ関税導入、5ドル服を支えた前提が崩れる
欧州連合(EU)もこれに追随している。2026年7月1日から、域外から輸入される150ユーロ(約2万7150円)以下の低額貨物には、関税分類上の品目ごとに3ユーロ(約543円)の暫定関税を課した。中国からの不公正な競争とEUが呼ぶものを抑えるためだ。5ドル(約790円)のワンピースはまだ存在する。ただし、今では関税を支払うことになる。価格とスピードを軸に回転するフライホイール全体を築いてきた企業にとって、これは脚注ではない。中核的な競争優位の侵食である。
香港市場へ最終到達、AI需要予測と物流強化へ投資
SHEINは香港を積極的に選んだというより、候補を1つずつ失い、最後にそこへ行き着いた。それでも、現在の局面にはよく合っている。
香港では新規上場が復調しており、中国証監会から届出通知書も得た。ロンドン計画を阻んだ規制上の重しは外れ、香港取引所の投資家層に中国サプライチェーンを一から説明する必要もない。注目すべきことに、調達資金の使途は技術基盤へ振り向けられ、AIを使う需要予測と在庫管理、倉庫自動化、物流デジタル化などに充てられる。ファストファッションも他業界と同じく、利益率をもう1ポイント押し上げる役目はアルゴリズムが担うと気づいたわけだ。
上場開示書類は大量注文品、投資家が返品する番
筆者は2年前、SHEINのような企業がどこかで目論見書を提出することこそが公共の利益に最もかなうと論じた。投資家を守るのは制裁ではなく、情報を照らす光である。その光は3つの金融都市を巡る遠回りの道をたどった末、ついに届いた。そして批判者も支持者も、ようやく議論の土台にできる数百ページの監査済み開示が示された。成長の鈍化、薄くなる利益率、国境での関税。そのすべてがそこに記され、評価額へ織り込まれている。
SHEINは、まとめ買いで注文し、すべて試着し、合わないものを返品するという買い物の仕方を一世代の消費者に教え込んだ。今度は投資家の番である。
SHEINの上場開示書類は大量注文された商品であり、ロードショーは試着室である。そして公開上場の変わらぬ美点は、投資した者なら誰でも、買った商品をいつでも返品できることだ。市場価格で、理由は問われない。それは制度の失敗ではない。それこそが、制度が機能しているということなのである。
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