Foundry(ファウンドリー)は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)が独自に開発したAIネイティブのプラットフォームであり、世界中のHBS学生・卒業生の創業者たちに、ハーバードの専門知識、ツール、そして事業を構築・ピッチするためのコミュニティへのアクセスを提供している。
昨年、HBSのFoundryを支えるチームは、利用データに奇妙な傾向を見出した。プラットフォーム上で最高の成果物を生み出した創業者たちが、それを別の場所にコピーしていたのだ。
一見すると、ほとんど意味をなさない行動だった。創業者たちはFoundry上で会社をゼロから構築しているのに、チャットやメモリーをプラットフォームから引き抜き、ChatGPT(チャットGPT)に貼り付けていた。
理由は品質ではなかった。理由は「接続性」だった。ChatGPTは、Model Context Protocol(MCPとして知られるオープン標準)を通じて、すでにユーザーの他のツール群と接続されていた。ChatGPTは、彼らの生活全体のコンテキストを保持していたのだ。
「これは謙虚にさせられると同時に、はっきりと示唆に富む出来事だった」と、Foundryのプロダクトリードを務めるシベシュ・スード(Shivesh Sood)は語る。「最も価値あるコンテキストが最大の強みだ。そして、他にどれだけのコンテキストを取り込めるかが次に大きな強みとなる。2026年において、コネクターやMCPは差別化要因ではない。最低限の前提条件なのだ」
私がシベシュに話を聞こうとしたのは、こうしたエピソードがあったからだ。AI業界には、あまり語られない導入の問題がある。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちは、企業の生成AIパイロットの95%が測定可能なリターンを生まないと明らかにしており、その原因は多くの場合モデルではない。シベシュはこの「ギャップ」の反対側で2年間過ごし、FoundryのAIプロダクトを4つのバージョンにわたって市場に投入してきた。各バージョンは、幅広くリリースされる前に何千人もの創業者によってテストされている。彼はHBSのシカール・ゴーシュ(Shikhar Ghosh)教授とともに、Harvard Business Publishingから刊行された2部構成の『AI Development Guide: Assistants』を共著している。
6つの教訓
私たちの会話は、ある1つのテーマに繰り返し立ち返った。忙しく懐疑的な人々がAIプロダクトを採用し、使い続けたくなるような選択とは何か、ということだ。そこから6つの教訓が浮かび上がった。
1. ユーザーを「二重に」理解せよ
AIプロダクトを長期的に守るものは何かとシベシュに問えば、彼はモデル、データ、特許のいずれも挙げない。彼が指し示すのは、ユーザーの痛みをチームがどれほど深く理解しているかである。
「本当のモート(堀)はユーザーへの共感だ」と彼は言う。「最高のAIプロダクトはその中に膝まで浸かっており、既存のどのプロダクトも解決していない痛みに根ざしている」
Foundryはこの深さを、規模を段階的に拡大していく検証によって獲得した。一部屋に集まった一握りの創業者から始まり、ローンチ前には何千人もの創業者が各バージョンを試した。インドでの創業者への対面テストでは、どのダッシュボードにも現れなかったものが浮かび上がった。それは「焦り」だった。「アンケートリンクを前に誰かの表情が曇る様子は、ダッシュボード越しには見ることができない」とシベシュは語る。
AI時代においてユーザーを知るということは、彼らを2つの曲線の上に同時に位置づけることでもある。どのチームも、アーリーアダプターからラガードに至る古典的な普及曲線を知っている。だがシベシュは、その上に第2の曲線が今や乗っていると論じる。それはAIネイティブなユーザーからAIトラディショナルなユーザーへと至る曲線であり、両者は一致しない。「アーリーアダプターの全員がAIネイティブというわけではない」と彼は言う。「片方の曲線だけを想定して設計すれば、静かにもう片方の半分を失うことになる」。勝利するチームは、業種や職種でユーザーを区分するのと同じくらい意識的に、AIへの習熟度でユーザーを区分している。
2. 要望と真のニーズは一致しない
Foundryが実施した最大の調査は、2万人以上の創業者を対象としたもので、その60%以上が最大の悩みの種として「資金調達」を挙げた。しかしチームは資金調達機能を作らなかった。彼らはその回答に「なぜ(5 Whys)」を繰り返し、より深いニーズがストーリーテリングにあることを見出した。創業者たちは、自分の事業を誰かが投資したくなる形で語れなかったのだ。
「多くの創業者は、VC(ベンチャーキャピタル)が何を求めているのかを単純に知らない」とシベシュは語る。そこでチームは、実在のVCのように反論してくるリアルな「AI投資家」を相手にしたピッチシミュレーション機能を構築した。この機能はリピート率60%を記録し、これを20回練習した後に1万ドル(約163万円)のピッチコンテストで優勝した創業者が複数報告されている。
「要望は資金調達だった。ニーズはストーリーテリングだった」とシベシュは言う。「ユーザーは症状を差し出してくる。プロダクトは病気そのものを治療しなければならない」
3. もはや最初の本能は「講座を探す」ではない
テストを重ねるなかで、Foundryのチームは同じパターンを目にした。創業者たちは、ビジネスモデルを構築する前にそれについて学びたいのではない。AIとともに構築するプロセスを通じて学びたいのだ。
インドで創業者たちが教材を前にそわそわしているのを見た1週間後、チームは異なるプロトタイプを携えて戻ってきた。それは、ソクラテス式の対話を通じてビジネスモデルを掘り下げ、構築しながら教えてくれるAIだった。創業者たちは、一人で読んで学んだ場合よりもはるかに深く理解した。
「最初の発想は『講座を探そう』ではない」とシベシュは語る。「『構築しながら、AIにステップ・バイ・ステップで説明してもらおう』というものだ」。この同じ焦りは、あらゆるオンボーディングフロー、ヘルプセンター、研修プログラムに迫ってきている、と彼は言う。ユーザーに「学んでから実行する」ことを求めるプロダクトは、両方を同時に行えるプロダクトに敗れることになる。
4. 魔法の杖ではなく、共同創業者を作れ
Foundryが作るべき明らかなプロダクトは、ワンクリックでスタートアップを生成するツールだった。ボタンを押せば事業計画が返ってくる、というものだ。チームはそれをテストした。アウトプットは完成品に見えた。だが、創業者たちは完成していなかった。彼らはただチェックボックスに印を付けただけで、AIは彼らに何も教えることなく仕事を代わりに終わらせていた。
そこでチームは正反対のものを作った。ソクラテス的な共同創業者のように振る舞い、要求の厳しいパートナーが行うように創業者たちの前提を問いただすAIだ。
「自らの判断を外注する創業者は、会社を築いたのではない。印刷しただけだ」とシベシュは言う。「ユーザーは口を揃えて、この反論こそが好きだと言ってくれる」
AIに反論させるのは想像以上に難しい。モデルはデフォルトで同意へと流れがちだからだ。OpenAI(オープンAI)は昨年、ChatGPTのアップデートをロールバックした。あまりにも同調的になり、明らかに悪いアイデアまで褒めるようになったからだ。これは、迎合が単なる煩わしさではなく、プロダクトとしての失敗であることを思い出させる出来事だった。
このアプローチは実を結んだ。創業者たちは、AIによって自らの戦略に対する考え方が変わったと報告し、いくつかのケースでは、この反論により完全にピボットし、より強い結果を出した。
5. コンテキストを集約し、それを接続せよ
チーム内部において、シベシュは同じ天井に何度も突き当たっている。企業は全従業員にAIアシスタントを配布し、そこで止まってしまうのだ。
「個人のAIはあなたのプロンプトを理解するが、あなたのビジネスを理解しているわけではない」と彼は語る。「価値ある導入は、チームのコンテキストを集約し、各人のAIがそれを引き出せるものにすることから生まれる」
ガートナーも2025年に同様の結論に達し、AIの品質を左右する要因として、プロンプトエンジニアリングに代わって「コンテキストエンジニアリング」が台頭したと宣言した。この記事の冒頭で紹介したChatGPTのエピソードは、その論理的帰結を示している。集約されたコンテキストがあっても、それが孤立していれば十分ではないということだ。
6. AIは私たちをより人間らしくする助けになる
シベシュが最も感情を込めて語る教訓は、リテンション曲線とは無関係のものだ。
Foundryのある機能は、投資家が実際に問う質問——「なぜこれか、なぜ今か、なぜあなたか」——に沿って、創業者が自らの物語を語ることを助ける。事業を始めて何年も経った創業者たちのなかには、知らず知らずのうちに会社を前進させる原動力となっていた、現実の逆境を抱えている者が幾人もいた。
「創業者たちが涙する姿を目にした」とシベシュは語る。「AIが彼らの代わりに何かを書いてくれたからではなく、自分たちがどれほど成長したかを一度に実感するのをAIが助けてくれたからだ」。彼はこれを、業界における自動化への執着に対するアンチテーゼとして提示している。「人々が愛するプロダクトは、自分たちを代替するものではない」と彼は言う。「自分たちの本質を明らかにしてくれるものだ」
今後の展望
対話を締めくくるにあたり、2つの予測が浮かび上がった。第1に、チャットがユーザーインターフェース(UI)を駆逐することはない。よく設計されたUIこそが、ユーザーの「次の質問」を生み出すからであり、これはユーザビリティ研究者が「言語化の壁」と呼ぶポイントである。第2に、OpenAIからAnthropic(アンソロピック)に至るモデル提供企業は、単に生の推論を売るのではなく、多数のモデル間でタスクをルーティングするオーケストレーターへと収斂していくだろう。
キャンパスという舞台設定を取り払えば、この6つの教訓はどんなAIプロダクトチームにとってのチェックリストにもなる。職種だけでなく、AIへの習熟度でユーザーを区分せよ。あらゆる機能要望を症状として扱え。仕事の中で教えよ。判断を置き換えるのではなく、強化せよ。自分の持つコンテキストを集約し、持たないコンテキストにつなげよ。そして、AIが人々に自分自身についての真実を見せてくれる瞬間を探せ。
モデルは借り物であり、誰もが同じものを借りている。借りることができないのは、チームがユーザーについて蓄積してきた理解である。



