スライドには「AIを活用する組織」と書かれていた。隅にあるロゴは鮮明だった。棒グラフは導入が右肩上がりであることを示していた。それを説明する役員は、その言葉を完全に信じ切っていた。
その3階下では、当社のコンサルタントの1人が、シニアデベロッパーが個人のデバイスで個人のChatGPT(チャットGPT)アカウントにコードを静かにコピー&ペーストしているのを見ていた。会社が承認したAIツールはIT申請のキューに阻まれており、その承認プロセスをどうやって進めればよいのか、誰も分からなかったからだ。
取締役会での説明と、社内で実際に起きている行動との間のこのギャップこそが、現在、企業向けAIにおいて最も大きな損失をもたらしている要因である。そして、このことについて率直に語る者はほとんどいない。
当社は複数の地域にデリバリーチームを擁している。当社のコンサルタントはクライアント企業に入り込み、パイプラインの構築、モデルのトレーニング、既存のワークフローへのツールの統合など、実際のAI展開を行いながら、相手企業の担当者がキャッチアップできるよう支援している。私は、勢いと進捗ばかりが語られる役員向けのブリーフィングに出席した後、チームから実際に何を目撃したかについて報告を受ける。だが、この2つの話が一致することはめったにない。
内側から見ると、そのパターンは次のようになっている。私の経験では、どのチームでも、実際に仕事のやり方を変えたのはごく一部の人たちだけだ。彼らは新しい習慣を身につけ、静かに仕事をスピードアップさせている。大半のメンバーは、懐疑的な態度をとるか、次に何をすべきか指示を待つか(あるいは退職を考えるか)のいずれかの段階にある。一部の人は、これが本当に公式に認められているという、より明確なシグナルを待っている。ツールを試してみたものの、使いにくさを感じて以前のやり方に戻した人もいる。次の全社ミーティングの後に立ち消えになるような、よくある一過性の取り組みに過ぎないのではないかと様子見している人もいる。マッキンゼーの2025年版AI現状分析レポートによると、AIプログラムを実際に拡大できている組織はわずか3分の1に過ぎず、またWriterの2025年企業調査では、回答者の49%が「従業員は生成AIを独力で使いこなさなければならなかった」と答えている。
これらのプログラムを立ち上げた役員たちは、導入が進んでいるという点においては間違っていない。間違っているのは、その規模とアプローチだ。誰も彼らの誤りを正さなかった理由は単純である。組織が「成果」ではなく、「発表」を評価したからだ。
企業が100ライセンスのCopilot(コパイロット)を購入し、ランチ勉強会を開催し、リーダーが「これからの働き方」について熱意のこもったメールを送ると、その取り組みが「始まった」こと自体が称賛される。導入指標がトラッキングされているとしても、その大半はセッション数や使用されたトークン数であり、どちらも「誰かの仕事が実際に変化したか」を示すものではない。ツールを使っている人々にとって、それは特別なことではなく、日常のありふれた一コマに過ぎない。一方で、ツールを使っていない人々もそれを報告することはない。真実を明らかにする仕組みがなく、「裸の王様」を指摘する人間を守る安全性(心理的安全性)もないからだ。なんということだろう。
その結果、役員フロアは一つの物語を信じ、現場のフロアは全く別の現実を生きることになる。
大半のAI戦略フレームワークが見落としているのは、大規模な導入は能力やテクノロジーの問題ではないということだ。それは「信頼」と「許可」の問題なのだ。
ツールが利用可能になったからといって、人々は仕事のやり方を変えたりはしない。実験することが安全であると確信し、学習に伴う障壁を組織がサポートしてくれ、自分の判断が信頼されていると感じたときに、初めて行動を変える。こうした条件が揃わなければ、世界で最も強力なツールであっても、棚の肥やしになるのが関の山だ。
私が実際に前進しているのを目にしたチームは、マネージャーがはっきりとこう口にしたチームだった。「私もこれの正確な使い方は分からないが、みんなで一緒に模索していきたい。うまくいかないことを試しても、ペナルティを科すことはない」。チームにおけるツールの導入状況は、マネージャー自身がどれだけ個人的にそれを使用しているかと相関関係にある。マネージャーが使えば使うほど話題に上るようになり、グループの心理的安全性が高まっていく。まずはリーダーから実践すべきなのだ。
逆説的な見方をすれば、勝ち残る企業とは、最も多額の投資をした企業でも、最も多くの発表を行った企業でもない。最も誠実な対話を行った企業である。「誠実」とは、「実際に使っているのは一握りの人間だけで、大半は形だけ合わせている」と誰かが安心して言える状況であり、リーダーシップ層がそれを自らのシナリオに対する脅威ではなく、有用な情報として受け入れることを意味する。
何が実際に起きているかを知りたければ、アンケートを送るのを今すぐやめることだ。組織の異なる階層の3人と席を共にし、1日の仕事を見せてもらうといい。6カ月間ダッシュボードを眺めるよりも、2時間の観察のほうが多くのことを学べる。その上で、チームの大部分を足止めしている摩擦の原因を特定できているか自問してほしい。例えば、6週間もかかるITの承認プロセス、どのデータをどのツールに入力できるかというポリシーの曖昧さ、そして「他のみんなも追いつくだろう」という前提でアーリーアダプター向けに作られたトレーニングなどだ。これらは解決可能な問題である。しかし、リーダーがまずそれらを認識しなければ始まらない。
先週、あなたのチームの誰かが、自分の仕事がどのように変わったかについて話してくれただろうか。アンケートの回答ではなく、お知らせ専用のSlackチャンネルへの投稿でもない、本物の会話の中でだ。もしその質問に答えられないのであれば、あなたは自社の「導入のストーリー」を知らないのだ。知っているのは、単なる「発表のストーリー」に過ぎない。
この2つの話は、全く異なるものである。



