言葉を尽くし、メッセージの完成度を上げても、なぜかそれを聞く社員の反応は薄いまま——そんな経験がある経営者は少なくないでしょう。
今回のエグゼクティブ・コーチングのテーマは、「社員にメッセージが届く状態を設計する」です。あるクライアントとの対話を通して見えてきた、ヒントをお伝えします。
「非の打ちどころのない原稿」なのに、なぜ届かないのか
社長という立場になると、社員に向けてメッセージを発信する機会が急に増えます。期初の挨拶、新入社員への訓示、支店の開設記念日での祝辞——。数えてみれば、年に何十回とマイクを握っているという経営者も少なくありません。
今回登場するのは、とある大規模金融機関で代表を務める50代の男性クライアント、Aさんです。社員に向けたメッセージの原稿はいつも、ご自身が口頭で語ったアイデアを経営企画や秘書室のスタッフが書き起こし、丁寧にまとめてくれるのだそうです。
その結果、伝えたい要点はもれなく盛り込まれ、言葉遣いにも粗はない、誰が読んでも「非の打ちどころのない」スピーチ原稿が出来上がります。にもかかわらず、Aさんはある違和感を抱えていました。
クライアント:社員は姿勢を正して、真面目に聞いてくれています。でも、いまいち伝わっている実感がない。私の言葉が、社員の心に残っている気がしないんです。
反応がない。表情が動かない。うなずきも、身を乗り出す仕草も、目を見開く瞬間もない。正しいことを正しく伝えているはずなのに、なぜか社員の心に自らの言葉が刻まれた感じがしない。
多くのリーダーが一度は感じたことがある感覚でしょう。
鈴木:Aさんは、どうすればメッセージが社員の心に残ると思いますか。
クライアント:繰り返し伝えるうちに、それが社員の心に染み込んでいくのではないかと思っています。だからいろんな場面で、表現を変えながら同じメッセージを繰り返し伝えるようにしています。
あとそれとは別に、社員が少し笑って、リラックスして聞けるような状態を作れたら、もっと彼らの心にメッセージが入っていくのでは、とも思うんです。
Aさん自身、聞き手として記憶に残った経験を振り返ると、それは決まって「この人の話は面白いな、楽しいな」と肩の力を抜いて聞けた場面だったと言います。リラックスした空気のなかに大事な言葉が「ポン」と投げ込まれると、記憶に強く刻まれるのです。
クライアント:ただ、私は話のプロではないので、面白い話ができるわけではありません。その場に合わせてアレンジする、といったアドリブも正直苦手です。どうやったら社員に笑ってもらえるのか、なかなかイメージがつきません。
フロイトが解き明かした笑いのメカニズム
そこで私は、笑いの構造について、ある見方をお伝えしました。精神分析学の創始者、フロイトの理論を踏まえると、笑いが生まれる背景には「ふたつの心理メカニズム」があると考えられます。
ひとつは、「緊張エネルギーの解放」です。 人は社会のなかで生きていく際、「こうでなければならない」という役割を守るため、無意識に心を緊張させ、常に一定の心的エネルギーを消費していると言います。
そのエネルギーが、何かのきっかけでふっと不要になる瞬間があります。人は「そこまで気を張らなくてもよかったのだ」と感じた瞬間、それまで緊張の維持に使われていたエネルギーが行き場を失います。その余った分が、笑いとして表に出てくるのです。



