そしてもうひとつが、「自分を外側から眺める視点(客観視)」です。 社長であれば「代表たるもの、常に堂々としていなければならない」、社員であれば「姿勢を正して真剣に聞かねばならない」といった身構え。そうやって一生懸命に役割を演じている自分を、一歩引いた視点から「なんだか必死に肩肘を張っているな」と客観的に眺められたとき、人はふっと心が緩み、そんな自分の姿がおかしく思えて微笑みがこぼれるのです。
つまり、心が緩んで笑いが生まれる状態とは、一生懸命に身構えていた自分を客観視し、肩の力を抜くことができた状態でもあります。 警戒心が解けて「素の自分」に戻れるからこそ、人は相手の言葉を素直に受け入れられるようになるのです。
鈴木:例えば社長の講和であれば、それを聞く社員の方はどことなく硬い表情をしていることでしょう。その時、社長が「普段見慣れない人が出てきて緊張していませんか?思ったより実物は若いでしょう?」。そんな風に話を始めると、社員は「あ、そこまで気を張らなくてよかったんだ」と気づきます。そして、緊張していた自分を一瞬、外側から眺めることになり、微笑みが漏れるかもしれません。
また、支店開設記念日の挨拶であれば、社長が「今日、この後の写真撮影のために、朝から鏡の前で表情の練習をしてきた人もいるんじゃないですか?」とひと言添えてみる。すると、社員の頭には身構えていた自分の姿がふと浮かび、思わず笑顔になるかもしれません。
クライアント:メッセージを発する側の我々経営者は、社員がその時、どんな状況に置かれ、がんばっているかを想像し、それに言及するということですね。笑いが起こるかもしれないし、『自分たちのことを理解してくれている』という共感も起こるかもしれないですね。
中身の設計より大切? 聞き手のコンディションを整える技術
多くの経営者は、メッセージを「何を伝えるか」という中身の設計に力を注ぎます。もちろんそれも重要なことですが、今回の対話が浮かび上がらせたのは、もうひとつの別軸——「聞き手がどんな状態でその言葉を受け取るか」という、聞き手側のコンディションの設計です。
正しさを、そのまま正面からぶつけるのではなく、聞き手が日々どんな緊張を抱えながら役割を全うしようとしているかを想像し、そこに言葉を添える。そこにこそ、メッセージが人の中に届いていく余地が生まれます。
Aさんはその後、次の全社対話会の挨拶で、社員が日々どんな緊張を抱えながら業務と向き合っているかを想像し、その様子にそっと触れる一文をスピーチ原稿に加えたそうです。後日、「何人かの焦点がぐっと私の眼に合って、少し表情が動いた気がします」と、教えてくださいました。
伝える言葉を磨く前に、まず聞き手の緊張を思い描くこと。それは、話術の巧拙を超えて、リーダーが磨き続けられる技術なのだと私は思います。——それだけで、メッセージの届き方が変わり始めます。


