西山:「時間ではなく成果」という変化は、開発の現場で最もわかりやすく表れています。熊谷はエンジニアではありませんが、複数のパソコンでAIに指示を出し、約2カ月で10万行規模のコードを生成しました。
その昔、エンジニア1人が1カ月に書くコードを1000行程度とすると、熊谷が1カ月で生成した5万行は50人月分に相当します。1人月が100万円であれば、エンジニア50人が作業すれば1カ月で5000万円かかる計算になるわけですが、AIのトークン代は2カ月で約400ドル(約6万4千円)だったと言います。しかも、修正したい箇所はAIに指示すれば自由に変えられます。
もちろん、コードの行数だけでシステムの価値が決まるわけではありません。ただ、AIによって開発に必要な人数や時間、費用の前提が大きく変わることは、この事例からもわかります。
田尻:提供されるシステムも、発想が変わっていきます。これまでは、自社専用のシステムをつくるには多額の費用と長い開発期間が必要でした。そのため企業は、共通の機能を月額で利用できるSaaSを導入し、自社の業務をシステム側に合わせてきました。
しかし、AIが企業ごとの業務やデータを読み取り、その会社に合った仕組みを短期間でつくれるようになれば、企業が既製の「箱」に業務を合わせるという前提は変わります。人がシステムに合わせるのではなく、システムをAIが書き換え、人に合わせる方向へ移っていくからです。
すべてのSaaSがなくなるという話ではありません。ただ、共通の機能を提供するだけでは価値を維持しにくくなり、顧客ごとの業務や成果にどこまで適応できるかが、より強く問われるようになると思います。
「ビフォーAI」と「アフターAI」
──田尻さんは、AIによって「時間や人数を投じること」ではなく、「顧客にどのような付加価値を生み出したか」が問われる時代を「アフターAI」と捉えています。この変化によって、企業や働く人の役割はどう変わるのでしょうか。
田尻:単に「AIを使える人」を目指すだけでは不十分です。何のために使い、どのような成果を生み出すかがなければ、ツールの操作に詳しくなっても仕事の価値は高まりません。
考えるべきなのは、自分の専門分野とAIをどう掛け合わせるかです。飲食、製造、教育、営業、システム開発では、AIによって変わる業務も、顧客に提供できる価値も違います。AIが行き渡ったときに自分の業界がどう変わるのかを考え、そこから必要な能力や使い方を逆算する。会社も個人も、環境の変化に合わせて自らの役割を更新できるかどうかが問われます。
日本企業にとっては、これは好機でもあります。日本企業は、顧客や現場に応じて細かく対応することを大切にしてきました。AIによって可能になる個別の最適化、柔軟なカスタマイズを通じて、そうしたきめ細やかな対応力が、より大きな競争力に変わる可能性があります。


