田尻望(以下、田尻):AIを使うことでもたらされるインパクトは、説明を聞くだけでは理解できません。自分が数日かけていた作業が短時間で終わる。その体験をして初めて、仕事の組み立て方そのものを変えようと思えるからです。
そこで大切なのが、ChatGPTやGemini、ClaudeのようなAIツールの中でも、性能の高い有料版を使うことです。無料版と最新の有料版では、AIに任せられる仕事の範囲は大きく異なります。経営者がその差を知らなければ、社員1人当たり月数千円という費用だけを見て、導入の是非を判断してしまう。まず経営者自身が最新のものを触り、何を任せられるのかを理解する必要があります。
──経営者は、何から試すとAIの可能性を実感しやすいのでしょうか。
田尻:最初からコーディングを頼んで難しいシステムをつくったりする必要はありません。まずは、日常的な調査をAIに任せてみればいいと思います。
経営者が何かを決める際には、担当部門に事例を調べてもらったり、法務や税務の論点を確認してもらったりすると思います。従来は依頼してから数日、場合によっては数週間、報告を待っていました。いまはAIツールの調査機能(Deep Researchなど)を使えば、複数の情報源を調べ、意思決定のたたき台となる資料を短時間でつくれます。
たとえば、会合で初めて会う5人について、最近の活動や関心領域を1人1ページでまとめてもらう。そうした身近な使い方でも、これまで人に依頼していた調査の時間とコストがどこまで変わるのかを実感できます。
AIが経営者にもたらす「希望」と「絶望」
──経営者自身がAIの性能を体験すると、その後の経営判断はどのように変わるのでしょうか。
田尻:最初は希望を感じるとともに、絶望が訪れると思います。
希望は、これまで多くの人と時間を使っていた仕事を圧倒的に速く進められるなど、AIによって顕著になるメリットを指します。一方で、その便利さを実感した瞬間に、「AIが代わりになるなら、この仕事を担当していた人には今後何を担ってもらうのか」「自社が顧客に提供してきた仕事は、これからも必要なのか。AIに取って代わられるのではないか」といった問題を考えなくてはならなくなります。これが絶望です。
AIが想像以上にあらゆることができるからこそ、「自分の仕事がなくなるのではないか」「このままでは会社そのものが成り立たなくなるのではないか」と感じる。その危機感を持って初めて、経営者はAIを便利なツールではなく、経営の前提を変えるものとして捉えるようになるのではないでしょうか。


