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2026.07.31 17:07

小売テックにベンチャーキャピタルがほとんど流れない理由

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小売業界はテクノロジーの課題を抱えている。ベンチャーキャピタル(VC)の投資家が、小売のテクノロジー課題の解決に十分な資金を投じていないのだ。

AI(人工知能)が他業界の収益性を向上させる新たな機会を生み出している現在、この格差は極めて重要な意味を持つ。しかし、投資のエコシステムにおいて小売業界やソフトウェアツールは「忘れ去られた継子」のように扱われており、利用可能な資金の面で後れを取っている。

小売業界が抱える資金調達の課題

全米小売業協会(NRF)のイノベーション諮問委員会はこの問題を端的に表現している。フィンテック、ヘルスケア・バイオテック、気候・エネルギー、防衛・宇宙航空分野に毎年数百億ドルが投じられているのに対し、小売テックへのベンチャー投資は3億ドル(約489億円)規模にとどまっている。レブテック・ベンチャーズ(RevTech Ventures)のデイブ・マシューズは「ベンチャー投資家は、市場参入投資においてより動きの速いセクターを好む」と指摘する。

小売業界にはテクノロジーで解決できる課題が数多く存在するため、この格差の大きさは驚くべきものだ。NRFは、ウェブサイト上の信頼性の低い商品データ、商品棚への陳列ロボットの不足、IoTデバイスや電子棚札向けのワイヤレス給電、返品やリバースロジスティクス(静脈物流)の支援、システム横断型のAIエージェント、実店舗のカオスな現実に適応した店舗レベルのAIなどの例を挙げている。

これらは決して小さな問題ではない。労働力、在庫、ロス(棚卸減耗)、コンプライアンス、利益率、顧客体験、そして廃棄物に関わる問題である。これらはまさに、テクノロジーが解決できる性質の業務上の課題だ。これらの課題を解決することは、単に収益性を向上させるだけでなく、顧客のショッピング体験を変化させ、小売の経済性を改善することにつながる。

コマース・ベンチャーズ(Commerce Ventures)のパートナーであるマット・ニコルズは、近年は斬新さに欠け、ゲームチェンジャーとなるような企業が少なかったため、多くのベンチャー投資家が離れていってしまったと語る。

投資家が敬遠する理由

ベンチャー投資家でありNRFグループのメンバーでもあるビル・パーセルは、将来が有望に見え、資金調達に成功しながらも、事業拡大(スケール)に失敗したスタートアップが眠る「小売テックの墓場」について語る。

パーセルによれば、投資家の問題は市場やテクノロジーへの恐れではなく、「顧客(小売企業)への恐れ」であるという。小売企業は購入の決定が遅く、システムの統合が難しく、創業間もない新興企業に対して容赦のないパートナーになりがちだからだ。

ニコルズもベンチャーの観点から同様の指摘をしている。小売企業は気難しい顧客であり、金融サービス企業ほど資金が豊富ではない。また、獲得可能な最大市場規模(TAM)は大きいものの、多くのスタートアップが対象とする領域が狭すぎるため、投資家にとって魅力的に映らないのだと付け加えた。

小売企業がテクノロジーイノベーションに適さない環境だという評判には一理あるが、彼らの行動が完全に不合理なわけでもない。小売企業のテクノロジー基盤(テックスタック)は、店舗、倉庫、決済、人事、物流、価格設定、在庫、顧客システムを動かしている。起業家が「導入には開発者の時間を45分もらうだけでいい」と言っても、小売企業は苦い経験から懐疑的になることを学んでいるのだ。

多くの小売企業は、新しいテクノロジーの導入によって既存のテックスタックが破綻し、結果として価値以上のコストがかかるのを目の当たりにしてきた。特に、数十年前のテクノロジーをいまだに使用しているレガシーな小売企業にとって、新しいソフトウェアがもたらす予期せぬ悪影響は壊滅的なものになりかねない。

そのため、イノベーションのメリットとリスクのバランスを取る必要がある。パーセルによると、小売企業は膨大なIT予算を抱えているものの、その大半は基幹システムの維持に費やされており、技術的な飛躍や実験に充てられる本質的なイノベーション予算は極めて少ないという。

小売・テクノロジー分野の経営幹部であるヴァナシー・ラクシュミは、社内からのプレッシャーをこう説明する。小売業界は「常に目の前の戦いを強いられている」という。利益率は極めて低く、投資の正当性を示すのは難しく、現場の責任者は「今日の売上」「今日の在庫」「今日の競合」で評価される。

これが現実的な偏向(バイアス)を生み出す。店舗数の増加や取扱商品数(SKU)の拡大の方が、成果が不確実なテクノロジー投資よりも手早く売上を伸ばすことができる。小売企業はテクノロジーが必要であると理解していても、日々の業務に追われる中で、長期的な実験に資金を融通することは困難なのだ。

何よりも最悪なのは、多くの小売企業には失敗を許容する文化がないことだ。他業界では、パイロットプロジェクトの失敗を繰り返しながら、自社に真の変革をもたらす「これぞというテクノロジー」を見つけ出していく。しかし小売業界では、パイロットプロジェクトの失敗が、それを推進した役員のキャリアに傷をつけることになりかねない。そのため、誰も挑戦しようとしないのだ。

投資家が小売テックを敬遠するのは、小売企業内部におけるテクノロジー起点のイノベーションの難しさを反映している。

小売業界に必要な「架け橋」

つまり、問題は双方にある。多くの小売企業には、スタートアップと連携するための優れた仕組みがない。新しいツールをテストし、社内政治から実験を守り、ベンダーを適切なシステムに接続し、失敗を建設的に評価できるチームが欠けているのだ。レブテックのマシューズは、小売企業の懸念は「継続的な改善から得られるメリットではなく、全店舗にわたるワークフロー変更にかかる想定コストに帰結することが多い」と指摘する。

スタートアップ側には往々にして、その逆の問題がある。多くが小売業界の経験が乏しい技術者によって率いられているのだ。優れたコードは書けても、予算サイクル、店舗運営、システム統合のリスク、組織内の政治への理解が浅い。スマートなデモンストレーションと、実際に導入可能な小売向けソリューションは別物である。

変化の兆し

AIの台頭は小売企業にとってのハードルを上げ、この問題の解決をいっそう急務にしている。小売テクノロジーの次の波は、単なるダッシュボードにとどまらない。MD(マーチャンダイジング)、価格設定、在庫、サプライチェーン、労働力、そして店舗を横断して推論するシステムになるだろう。システム横断型のAIエージェントや店舗レベルのAIは、深いシステム統合、整理されていないデータ、人間の判断、そしてカオスな運用環境の中で機能させる覚悟を必要とする。

コマース・ベンチャーズのニコルズは、AIがコマースのあり方を変えつつある今、新たな好機が到来していると考えている。未来のウェブサイトや大規模言語モデル(LLM)を介した買い物などの変化は、単に既存のものを改良しただけではない、ベンチャー市場を魅了するような全く新しい小売ソリューションを携えた、次世代の「カテゴリーキラー」が誕生する機会を生み出すだろう。

ニコルズは、製造拠点に近い場所で製品サイクルを高速化するために構築されたSHEIN(シーイン)やTemu(テム)、Quince(クインス)などの新しいサプライチェーンモデルを例に挙げ、素晴らしい機会がすぐ目の前に転がっていると考えている。同氏の投資先企業であり、アジアの工場に近い立地から消費者に直接配送するサービスを提供するポートレス(Portless)は、その最たる例だという。

問題の解決に向けて

実験と導入を行わない企業は、取り残されることになる。

この格差を埋めるための実用的なアプローチが3つある。

第一に、小売企業は起業家や投資家に対して、真に重要である課題を提示すべきだ。CIOやCTO、現場の責任者が、未解決の最も困難な課題をVCやスタートアップに説明する「リバースピッチ」モデルは、スタートアップがすでに作ったものを売り込むだけのありふれたイベントよりもはるかに有益である。

第二に、小売企業には実験のための新しい社内モデルが必要である。イノベーションを望むCEOは、10回の実験を行って10回とも成功することを期待してはならない。より優れたモデルは、チームに資金を提供し、迅速にパイロットプロジェクトを実行し、挑戦した人々を罰することなく、いくつかの失敗をあらかじめ想定しておくことだ。

第三に、小売テック業界は業界再編(コンソリデーション)を必要としている。私はこれほど業界再編を強く求めている業界をほかにほとんど見たことがない。過密な市場において小売企業の関心を引くために多大な資金が浪費されており、その結果、多くのスタートアップが投資家に良好な財務リターンをもたらす可能性が薄れてしまっている。多くの有望な企業が、小売企業が購入を決断するまでの生存競争に多額の資金を費やしすぎているのだ。

関連するテクノロジーをパッケージ化し、適切な意思決定者への確固たるアプローチ経路を持つより大規模なプラットフォームが構築されれば、こうした浪費を削減できる。これにより、技術者は資金調達に奔走する時間を減らし、構築により多くの時間を費やせるようになるだろう。

これらは決して、ベンチャー投資家が慎重であることが間違っているという意味ではない。ベンチャーキャピタルは、顧客の購買決定が早く、事業拡大の道筋が明確で、勝者が巨大化できる市場へと流れる。小売業界はこれまで、こうしたパターンを一貫して提供できていなかった。

だからこそ、そのパターンを変えなければならない。

小売企業に必要なのは、単なるAIによるインスピレーションだけではない。業務上の痛みを、投資価値のある企業や導入可能なソリューションへと変換する仕組みが必要なのだ。VCには、小売企業がスタートアップを潰すことなく、イノベーションを購入、試験運用、そして拡大できるという証明が必要だ。そして起業家は、魅力的なテクノロジーを提示するだけでなく、現実の課題を解決できるほど深く小売を理解する必要がある。

小売は常に困難なビジネスだ。だからこそ、より優れたテクノロジーが必要なのである。課題の規模は十分に大きい。問題は、この業界がそれらを「投資に値するもの」にできるかどうかだ。

forbes.com 原文

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