宇宙船が地球に帰還するとき、時速2万キロメートルほどの極超音速で大気圏に突入する。その際、宇宙船の前面では空気が急激に圧縮されて衝撃波が生じ、その直後の空気(衝撃波層)は空力加熱により2000度前後にまで上昇する。そのため、熱防護対策がなければ宇宙船は燃え尽きてしまう。
現在の宇宙船は、衝撃波層に接する部分を耐熱タイルなどの熱防護材で覆うことで機体を守っているが、それには重量や再利用の難しさなど、さまざまな問題がある。そこで今、世界で開発が急がれているのが「MHDエアロブレーキング」技術だ。MHDとはMagnetohydrodynamics(磁気流体力学)のこと。宇宙船の前面に強力な磁場を発生させ、衝撃波層を押し戻すという画期的なアイデアだ。同時に、機体から引き離されて衝撃波の面積が広がることで空気抵抗が増えて、宇宙船を減速させることもできる。
これまで、MHDエアロブレーキングの実験では、磁場を発生させるためにネオジム磁石などの永久磁石が使われてきた。しかし、永久磁石では磁場強度を調整したり、宇宙船の形状に合わせて磁場を形成したり、形状と磁場強度の違いによる衝撃波層や空力加熱の変化を細かく調べたりすることが困難だった。そこで、東京都立大学と鳥取大学からなる研究グループは、電磁石と極超音速風洞を組み合わせた実験装置を開発し、実証試験を行った。
実験に用いたのは、探査機「はやぶさ」のサンプルリターンカプセルの形状を模した直径20ミリメートルの風洞模型だ。電磁石の強さは、同じ大きさのネオジム磁石の最大約2.1倍(1.58テスラ)。これを秒速7キロメートル(時速2万5200キロメートル)の極超音速流を発生させる風洞に設置し、衝撃波層の状態を観察した。その結果、衝撃波層の厚さが約16.2パーセント拡大することがわかった。それだけ、衝撃波層が前方に押し戻されたわけだ。
本研究のいちばんの成果は、電磁石と極超音速風洞を組み合わせたこの実験装置の確立にある。電磁石のおかげで磁場の強さ、磁場が作用する範囲や空間分布を模型形状に合わせて設計でき、磁場強度とMHD効果の関係を定量的に評価できる実験基盤が整ったことだ。これにより、数値シミュレーションで予測された衝撃波層の拡大、機体への熱流束の低減、空気抵抗の増加を、実際の大気圏突入に近い状態で検証できるようになると期待されている。
これは、MHDエアロブレーキングの実現に向けた大きな前進だ。将来予定している観測ロケットを使った低軌道突入カプセルの実飛行実証につながると、研究グループは期待を示している。
出典:東京都立大学、鳥取大学 大気圏突入時の高温流を磁場で制御する技術を開発 ―磁場による宇宙機の熱防御・減速技術の実飛行実証へ―



