しかし、人が新しい役割に挑戦し、その経験を職場や地域へ持ち帰り、今度は次の人を支える。その循環が根づけば、取り組みは単なる行政事業を越え、地域の文化へと変わっていきます。
ここでいう「地域」には、行政組織も含まれます。市民にだけ主体性を求めるのではなく、市役所の職員も、肩書や担当業務を越えた一人の地域人として、市民と出会い、関係を築いていく。その変化もまた、地域主体への移行の一部です。
敦賀がこの5年間で築いてきたのは、一つの事業ではありません。
立場を越えて人が挑戦し、その挑戦を周囲が支える文化です。
ただし、こうした文化は自然発生的に生まれるものではありません。東さんが3年かけてファシリテーターとして役割を広げていったように、人の成長には、役割を試す機会と継続的な伴走が必要です。
地域主体を実現するには、事業費をイベントや広報だけに充てるのではなく、地域の人を見つけ、役割を渡し、時間をかけて力を引き出すことにも投資しなければなりません。
「挑戦を支える文化」の土台には、「人への投資」が欠かせないのです。
これから、何を「ひろげる」のか

「敦賀をひろげるプロジェクト」は、いま新たな節目を迎えています。これまでは、敦賀の中にいる人たちが出会い、参加者から運営者へと役割を広げていく期間でした。では、これから何を「ひろげて」いくのでしょうか。
東さんが見据えるのは、特定の人に集中している役割を、次の担い手へ開いていくことです。
「ファシリテーションを特別な人だけの役割にせず、ほかの人も挑戦できる環境をつくりたい。福井県内の自治体とも連携が生まれたら面白いと思います」
後藤さんが「ひろげたい」と考えているのは、事業そのものよりも人と人との関係です。
「可能性に本人が気づいていないことも多い。周りが見つけ、『やってみたら』と背中を押せる環境をつくることが大切です」
外部事業者の役割も、運営を担うことから、必要なときに外との接点をつくることへ変わっていきます。
増澤さんは 「僕らはさらに一歩引きながら、他地域との接点や外部の視点を提供する。形だけをまねるのではなく、まず敦賀を訪れ、自分たちの地域に合うやり方を考えてほしいです」と語ります。
市長も、敦賀の取り組みを「完成されたモデル」として複製するのではなく、地域ごとに組み直す必要があると話します。「行政、地域、外部事業者がどこまで担うのか。その役割は、これからも変わっていくと思います」。
「ひろげる」とは、一つの事業を全国へ複製することではありません。人が出会い、役割を越え、地域の中に新しい挑戦を生み出していく力そのものを、敦賀はこれからひろげようとしています。
対話を終えて
敦賀の5年間を振り返ると、担い手は最初から完成された姿で存在していたわけではありませんでした。人がいなかったのではなく、その人の力が表れる関係や役割が、まだなかったのだと思います。
変化を求められたのは、地域の人たちだけではありません。行政は管理する側から支える側へ、外部事業者は運営する側から伴走する側へと変わっていきました。
その先に見据えたいのは、敦賀だけでは終わらせないことです。ここで育った経験や関係性のつくり方を、ほかの自治体へもひろげていく。それができてはじめて、この5年間の実践は一つの地域の物語を超え、地方が担い手を育てるための手がかりになるのだと思います。


