インターネットの歴史を通じて、常に優先されてきたのは利便性だった。ユーザーは、自分が提供する個人情報がどれほど貴重なものであるかを理解しないまま、データと引き換えに無料サービスを受け入れた。ウェブサイトは密かに、ドメインをまたいで訪問者を追跡していた。モバイルアプリは、位置情報の履歴を収集した。広告ネットワークは、デバイスからデバイスへとユーザーを追跡する、詳細な行動プロフィルを作成していた。
この取引がいま、急速に変わろうとしている。新世代のプライバシーに関するイノベーションが、人々のインターネット利用方法を根本的に変えつつあるのだ。その理由は、ユーザーが突然プライバシーの専門家になったからではない。政府やテクノロジー企業、サイバーセキュリティ上の脅威、そして消費者の期待が相まって、プライバシーが、単なるコンプライアンス要件ではなく、競争上の優位性となったからだ。
プライバシーに対する態度の変化は、「ネットユーザーがどこに行くか」から、「そもそもネットにアクセスするために何を使っているか」まで、あらゆる面に影響を及ぼしている。オンライン上のプライバシーに対する要求が増えていることに焦点を当てるイノベーターたちこそが、最終的な勝者となるだろう。
次の時代のインターネットは、単により速く、あるいはより賢くなるだけではない。プライバシーは、ますます製品設計に組み込まれるようになるだろう。
プライバシーは、製品の機能になりつつある
プライバシーはかつて、コンプライアンス部門が取り組むべき法的義務と考えられていた。現在のプライバシーは、他社との差別化要因になっている。
アップルが「App Tracking Transparency(ATT:アプリ・トラッキングの透明性)」を導入した事例を考えてみよう。アップルはアプリケーションに対して、ユーザーをアプリやウェブサイトを横断して追跡する前に明確な許可を得るよう求めることで、デジタル広告の経済学を根本から変えた。
ユーザーの多くは追跡を許可しなかったため、マーケターや開発者は、顧客獲得戦略を見直すことを余儀なくされた。同時に消費者は、自身の情報について、より明確な把握と管理ができるようになった。
一方、DuckDuckGoのような企業は、データ収集を最小限に抑えた検索体験を提供することで、熱心なユーザー層を築いてきた。Signalのような暗号化メッセージングプラットフォームの急速な普及は、もう一つの重要な変化を示している。それは、ユーザーたちはますます、プライバシーを「後付けの要素」ではなく「顧客体験の中心」に据える企業を高く評価するようになってきているということだ。
これらの企業からは、より広範な教訓が得られる。つまり、プライバシーはもはや、ユーザビリティと対立するものではない。むしろプライバシーは、信頼を築き、その信頼が普及を後押しするようになっている。



