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経営・戦略

2026.08.04 13:30

黒澤映画が映す社外取の本質

いつ見ても黒澤明作品は素晴らしい。特に三船敏郎が演じる桑畑三十郎の『用心棒』などは、娯楽を超えて企業社会にも示唆を与えているものが多い。「俺は両方から雇われるんだ」とうそぶくシーンで、ふと社外取締役制度を思い浮かべた。

最近は社外取締役が著増して、その在り方論がとみに関心を集めている。上場会社に対して、社外取を増やせ、取締役の過半数を社外取にすべし、女性取締役を三割以上確保してほしいなどなど、コーポレート・ガバナンスへの要請が高まり、なかでも社外取への注文が目立つ。

そもそも社外取の役割とは何か。株式会社の所有者は株主であるから、彼らからの負託に基づき、経営執行者を監視・監督する株主のエージェントが社外取、と考えるのが通説だ。取締役会は、マネジメントよりもモニタリングを重視すべきとするモニタリング・ボード論が多数説であり、その中核をなす存在が社外取だ、と強調される。執行部が自分たちの利害や延命に走らず、親分である株主のために働いているかどうか、きっちり見張れ、という訳だ。だが同時に、「社外」取締役とはいえ、経営上の重要事案への意思決定を行うことが会社法上の責務でもある。ここでは執行部との濃密な情報共有と議論が不可欠になる。大多数の株主とは異なる執行との距離感や判断軸、ある意味で執行部に寄り添っていく必要性もある。

つまり、社外取の現実は、株主と執行部の「両方から雇われる」性格を帯びている。その上で、経営の意思決定が公正、透明、妥当になされたかを判断しなければならない。映画『用心棒』で桑畑三十郎は、腐敗した両陣営とも滅びてしまえばよい、との本音でこの台詞を漏らしているが、社外取は、株主と執行部の双方の繁栄を模索する。

現在の社外取への見解には、お飾りだ、功成り名遂げた人々への楽なバイトだ、といった「お手軽に高禄を食む」、あるいはガバナンスの実効性向上に寄与していない、という批判的論調も少なくない。こうした論者には、私のささやかな社外取経験を開陳し、現実の業務の実態を知っていただきたいと感じている。

某社の例でいうと、昨年一年間の取締役会出席は16回、27時間半だった。取締役会には必ず事前説明があり、重要議案については別途、ブリーフィングや議論の場が設けられるので、本番以上の回数、時間を要する。取締役会関連の仕事だけでも計40回程度、時間は70時間ほどになった。言うまでもなく、当該企業の業務や議案への予復習は不可欠である。多くの土日を返上したものだった。加えて、経営会議や役員情報連絡会の傍聴が40回ほど、65時間あまり、しかも社外取は指名・報酬委員会、リスク管理委員会などのメンバーでもある。社外取同士、監査役との意見交換会もある。工場や支店視察の出張も欠かせない。手厳しい機関投資家との面談も重要だ。単純計算では、会議関連だけでも優に400時間を超えた。最低毎週8時間ほどは同社に充てていたことになる。

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