今日のすべてのCEOが、同じ選択に直面している。それは、テクノロジーを使って過去のビジネスモデルを自動化するか、あるいは未来を再定義するためにテクノロジーを活用するか、という選択だ。この選択がこれほど重大な意味を持つ領域は、医療分野をおいてほかにない。
医療は米国経済の5分の1近くを占めている。従業員の健康、保険コスト、生産性、イノベーション、そして寿命を通じて、あらゆるビジネスに関わっている。しかし、この業界における最大の変革は、テクノロジーや人工知能(AI)だけで推進されているわけではない。それは、医療がどうあるべきかを根本から見直そうとしているリーダーたちによって推進されており、彼らの学びは病院やライフサイエンスの領域をはるかに超えて広がっている。
あなたが率いるのが医療機関であれ、製造業、金融機関、小売業、テクノロジー企業であれ、医療分野から生まれつつある4つのリーダーシップ判断は、今後ますますあなたの企業を左右することになる。
決断1:予防に投資するか、問題への対処に費用を支払い続けるか
多くの組織は、問題の予防よりも解決にはるかに多くの費用を費やしている。医療業界も何十年もの間、同様だった。アジェンティス・ロンジェビティ(Agentis Longevity)のCEOであるジミー・セントルイスは、これを変えなければならないと考えている。彼は「私たちが経済のためにできる最も影響力のあることは、私たちが直面している慢性疾患の蔓延を遅らせる、あるいは好転させるために努力することだ」と主張する。人々が患者になるのを待つのではなく、医療は個人が「自身の健康問題に先手を打てる」ようにすべきだと彼は信じている。彼のビジョンが、医学の枠をはるかに超えていることは明らかだ。
セントルイスは、アジェンティスを「消費者主導・医師指導型」の医療モデルを構築する企業と表現している。診断をより身近で手頃、かつ便利なものにすると同時に、患者が自身の健康に対する主体性を高められるようにすることを目指している。そのモデルの中心にあるのが、アジェンティス独自のアセスメントである「ロンジェビティ・クオシェント(LQ:長寿指数)」だ。これは8つのバイオマーカー領域にわたって個人の生物学的年齢をスコア化するもので、いわば身体のポートフォリオレビューである。これにより、疾患が定着する前に、現状、うまくいっていること、リスク、およびどのような対策を講じるべきかについて、患者と医師に明確でデータに裏付けられた全体像を示すことができる。LQであれ、AIを活用した診断であれ、自宅検査であれ、あるいは積極的なスクリーニングであれ、彼の目標はシンプルだ。病気が高額な費用や体力の低下をもたらす前に、医療を「川上」へと移行させることだ。
すべてのCEOにとって、この教訓はきわめて深い。最もリターンの高い投資とは、多くの場合、問題の発生を未然に防ぐ投資である。それは、より健康的な従業員を育成すること、サイバー攻撃を受ける前にセキュリティを強化すること、事業承継が差し迫る前にリーダーシップ開発に投資すること、あるいは顧客関係が悪化する前に改善することなどだ。優れたリーダーは、事後対応ではなく予防を中心に据えた組織づくりを進めている。
決断2:AIは人材を代替するのか、それとも強化するのか
人工知能(AI)は、この10年におけるリーダーシップのあり方を定義する重要な問いの一つとなっている。ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)のバイスプレジデント兼CIO兼グローバル・ストラテジー・オフィサーを務めるダグ・エイブラムズにとって、その答えはきわめて明確だ。「AIは人間の判断力を高めるべきだが、決して人間の判断に代わるものであってはならない。私たちの最大の強みはAIではない。科学者、医師、そして医療従事者の判断力だ。AIはイノベーションの源泉ではない。人間こそが源泉なのだ」
決断3:テクノロジーは組織をより人間らしくするのか、それとも非人間的にするのか
デジタル・トランスフォーメーション(DX)は組織の迅速化をもたらしたが、必ずしも組織をよりパーソナル(親密)にしたわけではない。1978年に「患者体験(ペイシェント・エクスペリエンス)」という概念を他国に先駆けて提唱した組織、プラネットリー・インターナショナル(Planetree International)のプレジデントであるマイケル・ジュリアーノは、次の競争優位性は、人間関係や人とのつながりを弱めるのではなく、強化するためにテクノロジーを活用する組織にもたらされると考えている。プラネットリーのモデルは、医療に人間らしさを取り戻すために、世界30カ国、800以上の医療システム(ネットワーク)の組織文化に取り入れられてきた。ジュリアーノは、デジタルツールやAI、患者用ポータル、バーチャルなやり取りは、体験を簡素化すると同時に、人々が「関与されている」「理解されている」とより実感できるようにすべきであり、その逆であってはならないと考えている。彼はこう問いかける。「相手が人間でなくても、どうすればより多くの思いやりや人間的なつながりを組み込めるだろうか」
彼の研究は、さらに本質的な真実を指し示している。信頼とは、関係性を通じて築かれるものだ。AIは、管理業務の負担を解消し、摩擦を減らし、医療提供者が患者と向き合って重要な関係を築くための時間を増やすべきであり、両者の間にさらなる障壁を生み出すべきではない。テクノロジーが成功するのは、それが人間同士のつながりを強め、患者やその家族だけでなく、献身的な医療スタッフにとっても、より充実した、人間味のある体験を創出するときだけだ。
業界を問わず、実質的にすべてのCEOが同じ課題に直面している。顧客やスタッフはあなたのテクノロジーを称賛するかもしれない。だが、彼らが忠実で献身的であり続けるのは、あなたの組織が彼らにどのように感じさせるかによる。
決断4:企業をつくるのか、それともエコシステムを構築するのか
医療分野から得られる最も重要な教訓の一つは、今日の課題を単独で解決できる組織は存在しないということだ。医療の未来は、病院、製薬会社、テクノロジー企業、政策立案者、雇用主、保険会社、研究者、そして患者が共通の目標に向かって協力し合えるかどうかにかかっている。その哲学は、ヘルスケア・リーダーシップ・カウンシル(Healthcare Leadership Council)のプレジデント兼CEOであるマリア・ガザルの活動に反映されている。彼女の組織は、米国の医療制度を改善するために、医療のあらゆるセクターのCEOを独自に結集させている。彼女は、医療における最大のチャンスがもはや個々の組織の内部には存在せず、組織の「間」に存在することを見抜いている。
ガザルは、あらゆる業種のCEOが医療から学べることについて、次のようにまとめている。「医療の未来は、単一の組織が単独で達成することによって定義されるのではなく、私たちが共に何を成し�あげるかによって定義される。一連のケア(ケア・コンティニュアム)に携わるリーダーたちが、持続可能でよりスケーラブルなソリューションを中心に協調したとき、最終的に患者により良い成果をもたらすことができる」



