人間の顔面を形作っている筋肉の大半は、個体差が非常に少なく、驚くほど似通っている。骨と皮膚を筋肉が結ぶ経路は、基本的に同じ青写真に基づいている。これは乳児でも80代でも、どの大陸に住む人でも変わりない。
しかし、このパターンを、顕著に目立つほどの頻度で破る筋肉が、一つだけ存在する。しかもこの逸脱は、まさに最も注目を集めやすい場所で起きる。それは、人が笑った時に口元にできる「えくぼ」だ。
えくぼができる人とできない人がいる理由について、生物の授業では、数十年にわたって単純明快な説明がされてきた。すなわち、目の色に関する遺伝についての従来の説明と同様に、単一の顕性(優性)遺伝子が、「パネットの方形(Punnett square)」と呼ばれる図式で整理されるとおりに、えくぼの発現を決めるというものだ(ただし、このどちらも誤りであることが、今では判明している)。
単一遺伝子説は記憶に残る話であり、遺伝に関する授業で、えくぼという形質が定番の話題になる理由でもあった。しかしこれは、実際にえくぼが出現する過程とは異なっている。
えくぼの出現を決める筋肉の分岐
ここで焦点となるのは、大頬骨筋と呼ばれる、頬骨から口角の皮膚に向けて走る、一筋の筋肉だ。一部の人では、この筋肉が発達の途中で二股に分かれ、その片方が口角ではなく、頬の皮膚に直接付着することがある。
このように発達した筋肉が収縮すると、頬の皮膚にできたもう一つの筋肉の定着点が、皮膚を内側に引っ張る。つまり、本来は存在しないはずの筋に皮膚が引っ張られてできた、目に見えるシワがえくぼということだ。
これは、解剖学的な変異であり、目に見えない遺伝子による変異ではない。解剖学の専門家は、この筋肉が通常と異なる方向に分岐するパターンを100年以上前から記録してきた。これは、「えくぼ遺伝子」が多少なりとも話題に上るはるか前のことだ。
この論点は、2019年に『Journal of Craniofacial Surgery』に掲載された研究でも裏付けられている。この研究では、複数の人口集団について、解剖の対象となった遺体や診断画像の研究からデータを収集し、だいたい5人に1人の割合で、大頬骨筋が分岐することを突き止めた。



