サイエンス

2026.07.31 18:00

えくぼの遺伝説は誤り、5人に1人の割合で起こる筋肉の変異

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「えくぼは遺伝によって生じる」との説が広まった理由

では、生物の授業ではなぜ、えくぼを顕性(優性)遺伝と結びつけて教え続けているのだろうか? なぜなら、えくぼは、例えば「頭部に密着している耳たぶ」や、「舌を丸めることができる能力」などと同じように、授業でメンデルの遺伝の法則を簡潔に伝えるわかりやすい例として、何十年も前から採用されていたからだ。

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だが問題は、えくぼを含め、ヒトが持つ大半の形質は、実際の家族で検証してみると、理屈通りにすっきりした形で発現することはない、という点だ。遺伝学に関するデラウェア大学の資料集『Myths of Human Genetics』に掲載されている文献レビューでも、「頬のえくぼが、単一の顕性遺伝子によって出現するというモデルを裏付ける遺伝学の研究は存在しない」と結論づけられている。

今では、えくぼは複数の遺伝子が同時に作用することで形作られるというのが、遺伝学者たちの定説だ。さらにこれに加えて、発達の途中で起きる偶然的要素に左右される部分もかなりあるとされている。具体的には、筋繊維の分岐、皮膚への付着、付着する場所が顔の片側か両側か、といった点が挙げられる。

確かにえくぼは、隔世遺伝したり、片方の頬にだけ現れたり、えくぼのない両親のあいだに生まれた子どもに出現したりする。こうした変異性は、単一の顕性遺伝子ではなく、複数の遺伝子によって形成される形質が持つ特質だと考えられる。

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えくぼができる場所は、頬だけではない

人体のなかで、えくぼのように体の一部が引っ張られてくぼみができる場所は、頬以外にも存在する。他の部位でも同じパターンが繰り返されていることから、このくぼみができるメカニズムに関する説明は、信頼に足るものだということがわかる。

あごにできる割れ目も、解剖学的な仕組みは異なるものの、同じような原理によって発生している。一部の人では、胎児としての発育途中に、左右の顎骨が正中線で融合しない場合がある。あるいは、あごの皮膚の下にある筋肉(オトガイ筋)が、ちょうど、大頬骨筋が頬の下で分岐するのと同じように、二股に分かれることがある。

えくぼと、割れたあごについては、この2つをひとまとめにして、両方の形質が単一の遺伝子によって制御されているかのように扱う俗説が長いあいだ流布してきた。しかし、『Myths of Human Genetics』に掲載された付随するレビュー論文によると、研究対象となった単一の人口集団の中でも、割れたあごの出現率は、年齢や性別によって5%から70%にわたる大きな開きがあるという。ここまでの大きな開きが、単一の顕性遺伝子によって生じることは考えにくい。

ゆえに、生物学的に見ると、この2つの形質は、別個の変異がたまたま同じような外観を持った例と捉えられるだろう。ここには、通常ではへこみが生まれることがない場所に、筋肉の固着点が発生し、それが皮膚を引っ張っている、という基本的なメカニズムの共通性がある。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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