米国の太陽光発電業界は、ついに時間切れを迎えた。「One Big Beautiful Bill Act」は、開発事業者が着工し、数十億ドル規模の連邦税額控除を確保する期限を7月4日とした。業界全体で多くの企業がこの期限に間に合わせようと奔走し、プロジェクトのパイプラインや建設スケジュールを前倒しした。
だが、この競争は拡大しつつある制約を浮き彫りにした。クリーンテックのスキルギャップは、適格な労働者の供給が導入スピードに追いつかないなかで広がっている。2026年までの設置目標を達成するには、業界全体でおよそ5万3000人の追加労働者が必要になると見込まれている。それにもかかわらず、採用は構造的な課題であり、太陽光発電関連の雇用主の86%が空きポジションの充足に苦労していると報告している。1
この課題は太陽光発電にとどまらない。電気自動車、蓄電池、再生可能電力、送電網、産業の電化への需要が高まるにつれ、クリーンテックのバリューチェーン全体で熟練労働者の必要性も増している。
クリーンテックの主導権は、技術的ブレークスルー、製造能力、資本へのアクセスという観点で語られることが多い。この3つはいずれも重要である。だが、同じくらい決定的になりつつある別の制約がある。熟練人材の層が、技術の拡大と同じ速さで成長できるかどうかだ。クリーンテックには、2035年までに年間5兆ユーロの投資が流入すると予測されている。2太陽光と風力のコストは下がり続けている。蓄電池の普及は予想を上回るペースで進んでいる。しかし人的資本は、はるかに拡大が難しいことが明らかになっている。
労働力のボトルネック
この課題は、世界の労働市場におけるはるかに大きな変革を背景に進行している。世界経済フォーラム(WEF)によると、技術変化、人口動態の変化、グリーン移行により、2030年までに世界で約1億7000万の新規雇用が生まれる一方、約9200万の雇用が失われる。3
しかしクリーンテックは、この変革の最前線に位置している。これほど制約のあるスキル基盤のもとで、これほど多くの資本を投じ、これほど多くのインフラを構築し、これほど急速に拡大しようとしている産業はほとんどない。米国では、クリーンエネルギー分野の雇用は2024年に360万人に達し、2021年以降12%増加した。これは経済全体の雇用増加の3倍の速さである。42022年以降に米国で創出された新規雇用の10件に1件は、エネルギー部門によるものだ。5
それでも需要は、ほぼすべてのレベルで供給を上回っている。国際エネルギー機関(IEA)によれば、エネルギー企業の約60%が現在、労働力とスキルの不足を報告している。2018年から2023年にかけて、エネルギー分野の熟練技能職の求人は年約40%増加し、太陽光発電では65%増加した。米国では、労働組合に所属する電気技師の約30%が今後10年以内に退職すると見込まれている。一部の大規模プロジェクトでは、企業が地域の人材不足を補うために他地域から労働者を呼び寄せており、プロジェクトコストに推定10〜20%が上乗せされている。6
欧州も同様の課題に直面している。欧州委員会は、2050年まで毎年15万〜50万人の労働者を再訓練する必要があると推定している。一方で、グリーンスキルへの需要は、そのスキルを持つ労働者の層の約2倍の速さですでに増加している。7 8
しかし課題は人数だけにとどまらない。クリーン技術がますますデジタル化し、相互接続されるなかで、それを開発、導入、運用するために必要なスキルも進化している。成功の鍵は、十分な人数の労働者を引きつけることだけではない。産業スキル、デジタルスキル、転用可能なスキルを適切に組み合わせて身につけさせ、セクター全体の労働力の即応性を高めることにもかかっている。
デジタルスキルという層
デジタル化は、クリーンテックにおける熟練労働者の必要性を減らしているわけではない。必要とされるスキルを変えているのである。自動化、デジタルツイン、予知保全、インテリジェント制御システムがエネルギーインフラ全体に組み込まれるにつれ、企業はデジタル人材の獲得競争に臨むと同時に、既存従業員の多くを再訓練しなければならない。最近のWEF調査では、最高戦略責任者の72%が、今後5年間で自社事業を形づくる可能性が最も高い要因として、AIと新興技術を挙げた。しかしクリーンテックにとって、AIは既存の労働力不足に加え、第2の人材課題を生み出している。9
2018年から2024年にかけて、公益事業・エネルギー分野におけるAI人材の集中度は、金融サービスやテクノロジー分野を約40%下回ったままだった。また、エネルギー分野の初級AI職の給与は、テックセクターの同等職種を約30%下回っていた。10
同時に、エネルギーシステム全体でデジタル人材への需要は急速に高まっている。WEFは、エネルギー技術および公益事業分野で最も急速に伸びているスキルの一つとして、AIとビッグデータの能力を挙げている。水素分野では、AIを活用した最適化、センサー監視、SCADA(監視制御・データ収集)システムが運用に不可欠になりつつある。風力発電では、ドローンによる点検やデジタル保全プラットフォームが、サービスと保守の業務を変えつつある。11
欧州委員会は、AIを活用した最適化により、欧州のエネルギー事業者は2035年までに年間最大1100億ドル(約18兆円)を削減できると推定している。12しかし、その効果を実現するには、少数のエンジニアやデータサイエンティストだけでは不十分である。デジタル技術がクリーンテックのバリューチェーン全体に組み込まれるにつれ、デジタルリテラシー、自動化、AI、サイバーセキュリティは、労働力の多くにとって基礎的要件になりつつある。したがって課題は二重である。専門人材を引きつけると同時に、よりデータ駆動型のエネルギーシステムに対応できるよう、より広範な労働力を育成することだ。
人間の優位性:AIに代替できないスキル
テクノロジーが労働力不足の一部に対処する助けになることは間違いない。だが、産業界が技術、人口動態、地政学の変化に対応するなかで、競争優位はますます、容易には自動化できない能力に依存するようになる。WEFによれば、適応力、問題解決力、協働力、リーダーシップ、健全な判断力は、自動化が難しいからこそ価値が高まっている。
今後5年以内に、主要な職務スキルの約40%が変化すると見込まれている。また、世界の雇用主のほぼ80%が、リスキリングを重要な事業上の優先事項と位置づけている。それにもかかわらず、自社の従業員が協働力や創造性に習熟していると考える雇用主は約半数にとどまり、レジリエンスや好奇心についてはさらに少ない。13
したがって将来の競争力は、テクノロジーの導入だけでなく、継続的な変化に適応し、ますます複雑化する課題を解決できる労働力を築けるかどうかに左右される。
そのためには、職務名ではなくスキルを軸に考える必要がある。電池製造、太陽光、風力、水素にはそれぞれ固有のバリューチェーンがあるが、基盤となる能力の多くは重なり合っている。監視と診断、自動化プログラミング、デジタルスキル、データ分析は、1つの技術に限定されない。エネルギー貯蔵の予知保全について訓練を受けた技術者は、限られた再訓練で風力や太陽光へ移ることができる。14
体系的なアップスキリングと組み合わせれば、固定的な職務名ではなく転用可能なスキルで考えることにより、市場の変化に応じて労働者が技術分野をまたいで移動しやすくなる。その柔軟性は、クリーン技術をより速く、より効率的に拡大するうえで不可欠になる可能性がある。
未開拓の人材プール
とはいえ、既存労働力のアップスキリングだけではスキルギャップを埋めることはできない。IEAは、スキル不足がさらに広がるのを防ぐだけでも、2030年までにエネルギー部門への新規参入者数を約40%増やす必要があると推定している。15
欧州のエネルギー部門では、2030年までに350万人の追加労働者が必要になると予測されている。特に太陽光発電(PV)の設置、電池保守、送電網接続、EV関連の技術サービスなどの職種で需要が大きい。16 17それにもかかわらず、EUの若年失業率は15%を上回ったままである。18女性は経済全体では約43%を占めるが、再生可能エネルギー分野の雇用では約30%にとどまり、技術職や職業訓練系の職務への参加率は20%を下回っている。19
したがって課題は、既存労働者を再訓練することだけではない。次世代や十分に代表されていない層がこの分野に入るための、より明確な道筋をつくることでもある。インクルージョンは単なる社会的目標ではない。経済的な必要条件である。より広い人材プールを活用せずにクリーンテックのスキルギャップを埋めることは、算術的に不可能だ。
しかし、より多くの人をこの分野に引きつけることは解決策の一部にすぎない。同じくらい重要なのは、既存のスキルを認識し、より効果的に活用できるようにすることである。欧州はすでにその方向に動き始めている。欧州デジタル資格証明フレームワークを通じて、資格は加盟国間で検証・認定でき、労働者が自分のスキルを持ち運びやすくなる。20
この可能性を実現するには、政策立案者や雇用主から訓練機関、資格認証機関に至るまで、バリューチェーン全体で足並みをそろえ、スキルが認識され、持ち運び可能で、業界のニーズに合致するようにする必要がある。
戦略的インフラとしての人的資本
エネルギー移行は長らく、技術、資本、インフラを中心に語られてきた。だが成功はますます、目に見えにくいものの同じく根本的な要素に依存するようになる。人間の能力である。クリーンテックの次の段階を主導する組織や国は、人的資本を戦略的インフラとして扱うところだ。すなわち、工場、サプライチェーン、電力網に適用されるのと同じ規律をもって、人的資本を計画し、投資し、時間をかけて育成する組織や国である。
金融資本と異なり、熟練労働者は新たな政策や投資機会に応じて一夜にして動員することはできない。クリーン技術を構築し、運用し、維持するために必要な能力を育てるには何年もかかる。政府や企業がクリーンテックの導入加速を競うなかで、制約要因となるのは技術でも資本でもなく、その両方を産業の現実へと変えることのできる人材である可能性がある。



