多くの企業が抱えているのはAIの問題ではない。オペレーションの問題であり、それをAIがより可視化しただけなのだ。
本当の問題は、単にAIを導入しさえすれば、根深い業務の非効率性が解消されると思い込むことから始まる。AIを導入して数カ月が経過しても、ダッシュボードの見た目こそ進化しているかもしれないが、ビジネスそのものは以前とまったく同じように動き続けていることが多い。
ダッシュボードは変わった。会議では新しい用語が飛び交うようになった。しかし、組織のスピードを鈍らせている摩擦はどうだろうか。それは以前と変わらぬままだ。
筆者は長年、企業のAI実用化を支援してきたが、最も頻繁に持ち上がるのは、どのツールを選ぶべきかという議論ではなく、なぜこれほど多くの導入プロジェクトが意味のある成果を生み出せないのかという疑問だ。その答えがテクノロジー自体にあることは滅多にない。そうではなく、テクノロジーが導入される前から、すでに破綻していたプロセスに原因があるのだ。
導入状況の数字が示すのは、真実の半分にすぎない
マッキンゼーの「2025年 State of AI」調査によれば、調査対象組織の88%が少なくとも1つの業務機能でAIを定期的に活用している。しかし、企業レベルでのEBIT(利払前・税引前利益)への影響を報告しているのはわずか39%にとどまる。この落差は、多くの企業が導入以前に取り組めていない、より根深い課題を映し出している。
多くの組織は、長年の応急処置と引き継がれてきた承認プロセスによって形作られたワークフローのままAIを導入しようとする。そこにAIを重ねても、業務は単純化されない。むしろ加速するだけである。明確さを伴わない自動化は、同じ古い問題をより速く再生産するにすぎない。
筆者は、複数の保険会社にまたがる保険契約サービスへのリクエストを処理する中堅保険業務チームと仕事をした際、この状況を目の当たりにした。経営陣は、自動化によって処理の遅れが解決すると信じていた。しかし、詳しく調査してみると、本当のボトルネックは受付段階では全くなかった。それは、ワークフローの一部としていつの間にか定着していた、手作業による確認作業が散見される下流の承認プロセスだった。フロントエンドを自動化しても、同じボトルネックに流れ込む業務量が増えただけだった。
速く進むことは、より良く進むことと同じではない
失敗に終わる多くのAIプロジェクトは、業務の高速化が自動的に業務の改善を意味するという、同一の前提から始まっている。
しかし、適切に再設計されることのなかったワークフローを自動化すると、非効率性は深刻さを減じるどころか、むしろ見えにくくなる。経営陣は処理能力(スループット)の向上を目にして、それを進歩と解釈する。一方で従業員は、テクノロジーによって解消されるはずだった業務上の欠陥を、相変わらず手作業で回避しながら働き続けることになる。
ツールは機能している。だが組織は機能していないのだ。
S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスによると、2025年に企業が実用段階に達する前に大半のAIプロジェクトを断念した割合は42%に達し、前年の17%から急増した。多くの場合、企業は業務的にスケール(拡大)する準備が整っていないワークフローを高速化してしまっている可能性がある。
大半の企業がスキップしてしまう下準備
AIが価値を生み出すことを期待する前に、経営陣は次の4つの質問に対して率直に答える必要がある。各ワークフローを最初から最後まで(エンドツーエンドで)所有しているのは誰か。業務が常に滞る場所はどこか。毎週手作業での対応を必要とする例外的な事案はどれで、その理由は何か。業務において本当に人間の判断が必要なプロセスはどこで、そう見えているだけのプロセスはどこか。
これらはビジネス上の問いであり、テクノロジーの問いではない。
AIの恩恵を最大限に引き出すために、企業はまず仕事の進め方自体を修正することから始めるべきであるというのが、筆者の実感だ。自動化をプロセスに組み込む前に、不要な手順を排除し、責任の所在を明確にし、ワークフローを適切に整理する必要がある。
多くの企業が怠っている投資
企業が業務プロセスの問題を解決したとしても、依然として投資が不足しがちな要素が1つある。それは、変革における「人間」の側面だ。
AI導入はしばしばテクノロジープロジェクトとして扱われるが、本質的には組織的な移行である。従業員は、なぜワークフローが変化するのか、どのような場面で自分たちの判断が依然として重要なのか、そしてテクノロジーが単に業務を高速化するだけでなく、いかに仕事の質を向上させるのかを理解する必要がある。
デロイトの「State of AI in the Enterprise」レポートによると、調査対象となった組織のうち、既存の業務の最適化にとどまらず、AIを用いてビジネスそのものを再定義している組織は、わずか約3分の1にすぎなかった。
筆者の経験上、大半の企業の失敗は、テクノロジーが機能しなかったために起こるのではない。より多くの場合、従業員が変革に対して適切に備えられていなかったために失敗する。システムは稼働を開始したものの、人々の働き方はシステムに合わせて全く変わらなかったというケースだ。
AIを購入する前に何を構築したかが、成果を左右する
素早く動き、最も多額の資金を投じるだけでは、AI投資から真の満足感を得られる可能性は低い。企業は自社の業務プロセスを十分に明確に把握し、AIに何を解決させようとしているのか、そしてその理由は何なのかを正確に知るために時間をかけるべきだ。
AIは業務の規律を生み出さない。すでに存在しているものを増幅させるだけである。構造化され、十分に理解されているプロセスにAIを適用すれば、その効果は革新的なものになり得る。しかし、断片化され、曖昧なプロセスに適用すれば、より大きな規模でその両方をさらに増やすだけだ。
何年にもわたり企業の成功と失敗を見届けてきた筆者は、企業は「テクノロジーに何ができるか」を問いかけるのをやめ、「その問いに対する答えを受け取るに値するほど、自社の業務プロセスを十分に理解しているか」を問いかけるべきだと考えている。



