人類の文明は、重要な資源をより手に入りやすくすることによって発展してきた。農業は食料を豊かにし、産業システムは生産を豊かにした。インターネットは情報を豊かにした。そして現在、AIはビジネスにおけるやり取り(インタラクション)において、これらと同様のことを始めつつあると私は考えている。
Anthropic(アンソロピック)のCEO、ダリオ・アモデイはエッセイ「Machines of Loving Grace」で、AIが「世界をより良い方向へ変革し得る」と自身が考える理由を述べた。彼が示した根底にある考えは、かつては人間の対応能力によって制限されていた能力が、大規模に利用可能になり得るというものだった。
企業は、ビジネスにおける会話を通じて、すでにその移行の初期段階を経験していると私は見ている。ほとんどのビジネスは、最終的に2種類のインタラクションで成り立っている。すなわち、「収益を生み出す会話」と「問題を解決する会話」だ。ほぼすべての顧客関係、業務ワークフロー、エスカレーション経路、商業的成果は、これら2つの対話意図(インテント)のいずれかから生まれている。
従来、こうしたやり取りを拡大するには、営業担当者、サポート担当者、管理職、あるいは調整レイヤーを増やすなど、人間を増やす必要があった。AIはこのモデルの経済性を変える。企業は初めて、人間の処理能力とは独立して、会話の処理能力を拡大できるようになった。
しかし、この能力は課題ももたらすと私は考えている。ほとんどのエンタープライズAIシステムは、実際に仕事を完遂することよりも、会話を維持することに最適化されている。質問に答え、やり取りを要約し、回答を生成することは得意だが、成約(コンバージョン)、問題解決、契約更新、コミットメント、エスカレーション、および実行されたアクションに依存するビジネスをサポートするとなると、これらのシステムは苦戦することがある。
これこそが、私の見るエンタープライズAIの「ラストマイル問題」である。すなわち、会話型インテリジェンスと業務実行の間に広がる隔たりだ。
隠れた構造的問題:AIに欠けている業務上の権限
1950年、アラン・チューリングはAIに関するシンプルだが基礎的なアイデアを提唱した。それは、機械が人間と区別がつかないほどの知的な振る舞いを示せるかどうかというものだった。そのアイデアは「チューリング・テスト」として知られるようになった。それから70年以上が経過した現在、AIシステムの進歩はそのマイルストーンに極めて近づいていると私は考えている。
今日、AIは質問に答え、意図を解釈し、反論に対応し、やり取りを要約し、営業やサポートのワークフロー全体で高度に文脈を踏まえた会話を維持することで、知性を示している。しかし、ビジネスは会話だけで成り立つわけではない。営業上のやり取りは、それが成約(コンバージョン)につながったときに価値を生む。サポート上のやり取りは、問題が解決されたときに価値を生む。
私が強く信じているのは、業界がエンタープライズAIシステムを構築する際に、決定論的な(deterministic)業務システムではなく、確率論的な(probabilistic)言語モデルを中心に据えるという、極めて重大なアーキテクチャ上の仮定をしてしまったということだ。これにより、支払いの処理、サポートチケットの解決、コンプライアンス・ワークフローがポリシー要件を満たしていることの確認、あるいは営業案件の実行ステージへの推進など、決定論的な成果に依存する企業ワークフローにおいて、システムが期待に満たない結果となる可能性がある。
多くのエンタープライズAIシステムが、非常に印象的でありながら同時にどこか不完全だと感じられるのは、これが理由だ。大規模言語モデル(LLM)の確率論的な性質は、高度な会話システムとしては非常に有能だが、LLMの出力をビジネスの成果に変換できるような、本質的に信頼性の高いオペレーティングシステムではないのだ。
ラストマイル問題への対応
エンタープライズAIシステムの第1波は、顧客とのインタラクション層にLLMを追加することに焦点を当てていた。音声AIプラットフォーム、チャットボット、RCS(リッチ・コミュニケーション・サービス)システム、コパイロット、ワークフロー・エージェントなどがその例である。エンタープライズAIのラストマイル問題に取り組むために、ソリューション開発者が取れる一つのステップは、主に会話中心のAIシステムから、成果(アウトカム)中心のAIシステムへと構築の舵を切ることである。筆者の会社を含め、多くの企業が仕事を完遂するAIの構築に取り組んでおり、次のエンタープライズAIレイヤーは、確率論的なAIインテリジェンスの周囲に構築された決定論的な業務システムから生まれる可能性が高いと考えている。
このモデルにおいて、LLMは適応的な推論レイヤーとなるべきであり、一方で決定論的なインフラストラクチャが、オーケストレーション、ワークフロー、業務メモリ、コンプライアンス、実行ロジック、および成果の追跡を統制する。目標は、単に会話を自動化し、ダッシュボード上に出力やアクティビティを表示することではない。目標は、対話の「意図」を、測定可能なビジネスの「成果」へと継続的に導くことである。
債権回収ワークフローを考えてみよう。会話型AIシステムは、返済意思の交渉に成功するかもしれない。しかし、ラストマイル問題を解決するためには、その周囲にあるシステムがその後に起こることを調整する必要がある。例えば、資格要件の検証、和解ルールの適用、支払いワークフローの起動、基幹システムの更新、リスク状況のエスカレーション、コンプライアンスの遵守、あるいは回収業務が実際に完了に向かって進行しているかどうかの追跡などだ。ここで重要なのは、人間のような対話を維持するAIの能力ではなく、ワークフローを継続的にオーケストレーションし、業務の連続性を維持し、調整コスト(オーバーヘッド)を削減して、単なる会話を具体的な「成果」へと導くシステムの能力なのだ。
このアーキテクチャを構築する上での課題
しかし、成果中心のAIアーキテクチャを構築する上での大きな課題は、業務との統合である。私が観察してきた限り、サイロ化(断片化)されたデータ、レガシーシステム、およびガバナンス要件が、AI導入への取り組みを困難なものにしている。
さらに、曖昧さ、交渉、信頼が関わる成果においては、完全な自動化に対する抵抗感が生じる。そのため、これらのシステムを設計・構築する際には、人間による監視(ヒューマン・イン・ザ・ループ)を恒久的な要素として組み込むことが重要となる。
同様に重要なのは、多くの企業がいまだに、一貫性のないプロセス、明文化されていないビジネスルール、および個人の頭の中にしか存在しない属人的な知識に基づいて業務を行っていることだ。成果中心のAIアーキテクチャを構築して成功させるには、企業は決定論的なシステムに容易にコード化できる、明確に定義されたワークフローと意思決定ルールを確立する必要がある。
最後に、この種のアーキテクチャの構築に取り組む組織は、システムがその背後にある企業自体の能力を超えることはできないという点を理解する必要がある。それは業務の成熟度を代替するものではなく、むしろそれを浮き彫りにする。適切に設計されたワークフローは相乗効果を発揮してより良い成果をもたらすが、断片化されたプロセスは欠点がより顕著になるだけだ。同様に、統合されたシステムと強固なデータ基盤を持たない組織は、このアーキテクチャのポテンシャルを最大限に引き出すのに苦労することになる。
したがって、アーキテクチャ上の問題を解決したとしても、データ、ワークフロー、および業務プロセスの課題も同時に解決しなければならないのだ。
結論
AIが現実世界の成果(アウトカム)を積み重ねるようになれば、前例のない変革をもたらすことができると私は信じている。私の見解では、人類の文明は常にこのパターンを経て進化してきた。道具が変革をもたらしたのは、単にそれが存在するからではなく、人間がそれを使って大規模に成果を生み出す方法を学んだときなのだ。
電気はその顕著な例だ。電気それ自体は、構造化されていないエネルギー源にすぎなかった。人類がその周囲に、送電網、回路、産業システム、安全プロトコル、送電ネットワーク、運用管理といった適切なインフラを構築して初めて、文明は一変したのである。
エンタープライズAIのラストマイル問題を解決するには、まさに同じ移行が必要となる。「アウトプット(出力)」から「アウトカム(成果)」への移行である。



