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2026.08.07 11:00

“泊まる”を超えて─エスパシオが描く、新しい日本のラグジュアリー(中編)

ホテルにおけるアートとは、空間を彩る装飾なのか、それとも滞在そのものを豊かにする体験なのか。「エスパシオ ナゴヤキャッスル」が目指しているのは、作品を展示するホテルではなく、建築、工芸、アートが一体となった文化体験の場だ。ホテルとアートの密な関係から、日本ならではのラグジュアリーの可能性を探る。


「エスパシオ」にアートが必要な理由

ホテルやオフィス、商業施設のパブリックスペースにアートピースが置かれることは、もはや珍しくない。空間に彩りを添え、訪れる人の目を楽しませる。そんな役割を担う作品も少なくないだろう。

だが、「エスパシオ ナゴヤキャッスル」におけるアートや工芸作品は少し意味合いが異なる。館内に展示されている作品は、総勢約50人の作家による400点以上。多くが建築の設計段階から設置場所が想定され、空間とともに構想されたコミッションワークだ。完成した空間に作品をもち込んだのではなく、建築、工芸、アートが一体となってひとつの世界観をかたちづくっているのである。

その象徴的な作品のひとつが、宴会場「飛龍の間」に設置された大作「金銀双龍図」だ。

この日、作者である箔アーティスト・裕人礫翔が「エスパシオ ナゴヤキャッスル」を率いる田渕浩之とともに、ホテルとアート、そして日本のラグジュアリーの未来について語り合った。

田渕浩之(以下、田渕):裕人さんと初めてお会いしたのは箱根のプロジェクト(「エスパシオ 箱根迎賓館 麟鳳亀龍」)を進めているときでした。

裕人礫翔(以下、裕人):通常、ホテルや企業からオーダーをいただく場合、すでに出来上がっている空間に置くための作品を求められることがほとんどです。ですが「エスパシオ」の場合には、まだ設計段階でした。「この空いているスペースに作品を置きたい」ではなく、「このスペースをどうするか」一緒に考えるという……これほど自由にやらせていただいたのは初めてです。

田渕:私たちが目指していたのは、完成したホテルにアートを飾ることではありません。建築も工芸もアートも、すべてを含めてひとつの空間体験としてつくりたかったのです。そしてお客様に新しい発見や感動をもち帰っていただく場所でありたい、と。

裕人:「エスパシオ ナゴヤキャッスル」のような場所では、アートは単なる彩りではないですね。名古屋の歴史や吉祥の思想、歓待の心を、言葉を使わずに伝える役割をもっています。空間にアートがあることで、滞在は宿泊から文化体験へと変わるのだと思います。

田渕:昨今、富裕層の価値観はモノ(所有)からコト(体験)へとシフトしているといわれます。以前はラグジュアリーというと、広い部屋や豪華な設備、高価な食材などが中心でした。しかし今はその土地にしかない文化や、そこでしか得られない体験に価値を見出す方が増えている。アートもその重要な要素のひとつです。

裕人:ラグジュアリーは価格や設備だけでは生まれません。その背景にどんな歴史があり、どんな手仕事があり、どんな美意識が積み重なっているか……「エスパシオ ナゴヤキャッスル」はその“文化の厚み”を空間で示しています。

宿泊ロビーに置かれた、彫刻家の中林丈治による「光景 −松−」。同じ高さに望める名古屋城とともに一幅の絵のような美しさ。
宿泊ロビーに置かれた、彫刻家の中林丈治による「光景 −松−」。同じ高さに望める名古屋城とともに一幅の絵のような美しさ。

500年前の技が教えてくれるラグジュアリー

裕人:私は京都・西陣で、帯地に箔を引く職人の家に生まれました。以来、工芸の世界にいますが、このように作品を見ていただく機会が増えることは文化継承にもつながると感じています。どんなに優れた技術でも、見ていただけなければ存在しないのと同じですから。

田渕:そこは私たちも強く意識し、作品だけではなく、作家や技術、文化そのものに光を当てたいと考えています。ホテルには国内外からさまざまなお客様が訪れます。その方々が作品に触れ、作家に興味を持ち、工芸や文化そのものに関心をもつことで、ホテルは文化を発信する装置になれると思うので。

裕人:実際にホテルを歩いてみると驚きます。作品がロビーや客室だけでなく、館内の至る所にありますよね。

田渕:お客様には作品の背景や作家の思いまで知っていただきたいので、館内でアートツアーを実施しています。また作品に添えられたQRコードから作家のことを知っていただき、作品によっては購入していただくこともできます。作家とお客様をつなぐ場になることも、このホテルの大切な役割だと考えています。

裕人:工芸の世界では後継者不足という話もよく聞かれますが、企業やホテルに本気でアートや工芸に向き合っていただき、実際に経済活動として循環していくことは、その解決の一助になるでしょう。

客室内ベッドルームの唐紙アート。作家は1624年から京都で続く唐紙屋「唐長」初代の名を受け継いだ千田長右衛門。
客室内ベッドルームの唐紙アート。作家は1624年から京都で続く唐紙屋「唐長」初代の名を受け継いだ千田長右衛門。
左官職人の挾土秀平による「白龍」。地に舞い降りる双龍の間に、舞い立つ蝶の姿が見立てられている。
左官職人の挾土秀平による「白龍」。地に舞い降りる双龍の間に、舞い立つ蝶の姿が見立てられている。

田渕:私は、工芸やアートに触れること自体がひとつのラグジュアリーだと思うんです。(背後の作品をふりかえり)例えば、この裕人さんの作品には、500年の歴史をもつ箔の技術を、現代によみがえらせる特別な技法が使用されていますよね。年月とともに沈んだような輝きを放つ箔を前にすると、今までの歴史や文化のつながりを実感することができました。これこそが贅沢なひと時だと感じます。

裕人:私たちには素材と向き合い、技術を磨き、何百年も受け継がれてきた文化がありますから。それは世界に誇れる価値だと思います。

田渕:ヨーロッパには素晴らしいラグジュアリーブランドが数多くありますね。歴史や物語を積み重ね、その名前自体が価値になっています。一方、日本には工芸や手仕事があります。職人が素材と向き合い、長い時間をかけて培ってきた技術や美意識です。

裕人:ブランドではなく、人の営みそのものに価値があるということですね。

田渕:私はそこに日本独自のラグジュアリーがあると思っています。そして「エスパシオ」は、その価値を国内外のお客様へ伝える場でありたい。日本の工芸やアート、文化を未来へつなぐ役割を果たしていきたいと考えています。

宴会エントランスホールでゲストを迎えるのは、キモノデザイナー、テキスタイル・アーティスト斉藤上太郎のデザインによる西陣織の「麟鳳亀龍図」。
宴会エントランスホールでゲストを迎えるのは、キモノデザイナー、テキスタイル・アーティスト斉藤上太郎のデザインによる西陣織の「麟鳳亀龍図」。

ESPACIO
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たぶち・ひろゆき◎1965年生まれ。京都芸術大学卒。外資系ホテルで実務経験の後、2014年興和株式会社入社。興和グループのホテル事業や施設開発の中核を担う。25年より興和株式会社取締役専務執行役員兼エスパシオエンタープライズ株式会社代表取締役社長など。

ひろと・らくしょう◎1962年、京都・西陣生まれ。箔アーティスト。西陣織に伝わる箔技術を受け継ぎ、経済産業省認定 伝統工芸士、京都市「未来の名匠」、京都府優秀技能者表彰「京の名工」に認定・表彰される。日本の伝統技術を現代空間へと昇華し、国内外のホテル、神社仏閣、建築空間で作品を展開。

Promoted by ESPACIO /photographs by Kenta Yoshizawa / text and edited by Miyako Akiyama