人件費や研究開発費の増額や女性管理職比率の向上、ダイバーシティの促進が、どの程度PBR(株価純資産倍率)を高めるのかをCFOが把握・立証して、CEOやCHRO、CSO(Chief Sustainability Officer)などと協業しながら、社内の非財務資本の価値を高めていく。そして、数値で企業価値との関連性を示し、長期投資家、ESG投資家、インパクト投資家とのエンゲージメントを図る。これによって長期的な企業価値を高めていくことが重要だ。私がエーザイのCFO時代につくった「柳モデル」は、企業がもつ非財務資本が将来のPBRに与える影響を推定することができ、すでに100社以上の日本企業が採用している。こうしたモデルを用いることで、日本企業こそアップサイドが見込めるはずだ。
冒頭でCFOにはふたつの役割があると述べたが、ここに、もうひとつの役割を加えたい。それはCEOのパートナーとしての顔だ。エーザイのCFOだったときに、ある会計専門誌のインタビューで、当時ソニーグループのCFOだった十時裕樹氏(現・CEO)と対談する機会があった。十時氏は、当時の吉田憲一郎CEO(現・会長)との関係について「スパーリングパートナー」だと語っていた。原則週に1回1対1のミーティングの時間をつくり、忌憚のない意見を徹底的にぶつけてきたという。
一方、私はエーザイのCFOとして、創業家の内藤晴夫CEOをサポートする戦略アドバイザーとしての役割を担っていた。カリスマ経営者に対して、仮にほかの役員が「イエス」と言っても、私はファイナンス理論と経験にもとづいて、データや論文を根拠に「ノー」と言える関係性を築いていた。経営者のキャラクターや、会社の歴史・文化によって、パートナーとしてのあり方はバリエーションがあっていいと考えている。ただ、企業価値の創造において、こうしたCEOとCFOの二人三脚が、さらに重要性を増していくことは間違いない。
柳良平◎早稲田大学大学院会計研究科客員教授、アビームコンサルティングエグゼクティブアドバイザー、M&Gインベストメンツジャパン副社長。銀行支店長、メーカーIR・財務部長、UBS証券エグゼクティブディレクター、エーザイ専務執行役CFO(2022年6月まで)等を経て現職。米Institutional Investor誌の2022年機関投資家投票でヘルスケアセクターの「The Best CFO」第1位(5回目)。非財務資本と企業価値をつなぐ「柳モデル」を提唱する。


