放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」に、開化堂六代目当主の八木隆裕さんが訪れました。スペシャル対談第23回(後編)。
小山薫堂(以下、小山):この緑色の小さなものも茶筒ですか?
八木隆裕(以下、八木):いえ、サカナクションの山口一郎さんの依頼でつくった煙草入れです。それが完成したとき、ようやく家の外に出たなと思って、嬉しくて。
小山:家の外?
八木:茶筒は家で使うものだけど、ようやく「持ち歩ける開化堂」になったなと。
小山:素敵ですね。そういう特別なオーダーというのはよくあるんですか。
八木:ええ。仏教の経典を土のなかに埋めて保護するための経筒とか、お骨入れをつくったこともあります。すべてにお応えすることはできないけれど、自分にとって挑戦し甲斐があり、その方にとって特別に大事なものが入るのであれば、全力で応えたいなという想いがあって。
小山:日本は災害が多いし、飛行機のブラックボックスのように大事な物が残るといいですよね。ちなみに火事にあったとしたら、こちらは燃えちゃうんでしょうか。
八木:家業を継いで1、2年のころ、松屋銀座さんで実演販売をしたとき、あるご高齢の男性から「ワシ、お前のところの茶筒で助けられたことあるんじゃ」と言われて。なんでも関東大震災で家が燃え、火が収まったあとの家の瓦礫に茶筒を見つけて、蓋を開けたら茶葉が新鮮なまま残っていたから、それでお茶を飲んで生き返れたと。
小山:うわあ、いい話!
八木:忘れられないです。そういうものを作らなきゃなと思えた瞬間でした。
小山:今思いついたけど、「あなたが入れたい大事な物」を世界中の人に呼びかけて、開化堂茶筒コンテストをやったらどうでしょう? 文化の違いでまったく予期しない物が持ち込まれるかも。例えばアフリカのある村では昔からの風習で何かの骨を大事に受け継ぐ、なんてありそう。
八木:面白い。発芽させないままの種とか。
小山:「未来」というと、どうしても新しいものを作らなくてはいけないと思いがちですが、茶筒を「現在のものを未来に運ぶ装置」と捉えたら、それ自体が新しい価値になりますよね。
頭を心で騙せ
小山:茶筒って修理はできるんですか?
八木:できます。開けにくくなったとか、落として角が凹んだとか。先日はネパール人のアルピニストの方がパキスタンのK2や南極大陸に持っていって、落としてベコベコになったものを修理に来ました。
小山:何を入れて持っていったんだろう?
八木:中身以上に、高い山の上でもすうっと蓋が閉じるのかを調べたかったそうです(笑)。あと、たくさん印象に残る話をされて。一つ目は「頭を心で騙せ」。
小山:頭を心で騙せ?
八木:K2なんて登れないとあなたは思うかもしれないが、心で登れると思うと、頭も登れると勘違いしてくれる。だから登れるんだと。最後のアタックのときはGPV気象予報も一切見ないらしいです。登れるかどうかは、自分の心が教えてくれる。そちらのほうが絶対に正しいと。あともうひとつ、登るときには上を見るな。前の人の足の裏だけを見ろ。そうすれば登れる。



