経営・戦略

2026.07.29 08:32

従業員が株主になる時、企業は強くなる──KKRが実践する新しい資本主義

Adobe Stock

Adobe Stock

ピート・スタブロスが2005年にプライベート・エクイティ(PE)大手のコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に入社したとき、従業員株式所有制度をめぐるムーブメントを起こそうなどとは考えていなかった。同僚たちと同様に彼も、KKRの専門知識と経験を活かして、より高い業績を達成できる企業への投資に注力していた。

しかし2011年以降、スタブロスはKKRの従業員エンゲージメントおよびオーナーシップ・カルチャー(当事者意識を高める組織文化)モデルの牽引役も務めてきた。これはマルチステークホルダー資本主義の素晴らしい実例である(これについては過去のコラムでも掘り下げた)。コンセプトは極めてシンプルだ。投資先企業の従業員に対し、自身が創出に貢献した価値を大幅に分配すれば、イノベーションや日々の努力を通じて生産性の向上や成長を促す強い動機付けになるというものだ。この株式は、KKRが投資を回収(現金化)した時点で初めて換金できるストックオプションの形で付与される。これらの株式は、賃金やその他の福利厚生に代わるものではなく、従業員が受け取るために費用を支払う必要もない。

この計画は、ビジネスにおける利益を共有するというKKRの既存の文化を拡張するものだった。「KKRでは全員が自社株を保有している。それが創業者の哲学の一部だった」とスタブロスは最近、筆者に語った。「ヘンリー・クラビスとジョージ・ロバーツは、ベアー・スターンズという、より伝統的なウォール街の文化の中でキャリアをスタートさせた。そこでは、個人が成立させた案件に対して報酬が支払われるものの、会社全体の業績は評価されなかった。そのため、チーム精神や一体感が損なわれていた」。クラビス、ロバーツ、そしてジェローム・コールバーグは、利益の分配をコアバリューとしてKKRを設立したため、このコンセプトを拡大することに抵抗はなかった。

「このアイデアは、ブルーカラーの労働者として家族を養っていた父の姿を見ていたこともあり、ずっと私の頭の中にあった」とスタブロスは振り返る。「父は建設会社で約45年間、モーターグレーダー(整地用重機)を運転していた。父はいつも、給与以外にも富を築くために、自分が働く会社の株式を持てればと願っていた」

過去15年間で、このプログラムは業界や地域を超えて拡大してきた。90社を超えるKKRの投資先企業が、幹部以外の従業員20万人以上に数十億ドル規模の株式を付与しており、他にも多くの企業が、将来的に実を結ぶ従業員所有型のプログラムを導入している。他の多くの企業も、ここから大いに学ぶことができるはずだ。

すべての人に株式を

大規模な従業員所有プログラムを最初に導入した投資先企業の1つが、墜落防止機器の市場をリードするメーカー、キャピタル・セーフティだった。KKRは2012年1月に同社を買収した。KKRと経営陣は、企業の文化、生産性、成長率を向上させる一環として、現場で働く従業員との関係改善に乗り出した。

スタブロスは、当時はオーナーシップ・カルチャー・プログラムに関する社内コミュニケーションが十分とは言えず、従業員により多くの情報を開示し、日常業務での発言権を増やすといった、より本格的な所有モデルを構築できていなかったと認めている。それでも、労働安全や品質といった指標は改善に向かった。2015年、KKRが買収額の3倍以上でキャピタル・セーフティを3Mに売却した際、従業員はビジネスの成長を支えた貢献に対して報われることとなった。

その後、CHIオーバーヘッド・ドアーズ、ガードナー・デンバー、ミネソタ・ラバー・アンド・プラスチックスで実施された従業員所有プログラムにより、協調的な報酬分配の定義は大幅に拡張された。「従業員が当事者意識(オーナーシップ)を持つと、会社に対する期待値も上がる」とスタブロスは振り返る。「会社の状況について、より多くの情報を求めるようになる。自分の役割に対する考え方も変わる。これは、労働者と経営陣の間の信頼関係と透明性をより強固なものにするチャンスとなる。いくつかの成功事例が生まれ、それを社内で共有し始めると、モデルを拡大することへの大きな支持が集まった」

この取り組みがどれほど大規模になったかを示す最近の例として、クールITシステムズが挙げられる。KKRが2023年に買収し、2026年に買収額の約15倍で売却したエンジニアリング企業だ。役員以外の従業員600人以上が、平均して1人あたり24万ドル(約3930万円)を手にした。クールITでの在籍期間がわずか2年であっても20年であっても、全員が分配金を受け取り、その額は人生を一変させるほどのものであることも多かった。ある組立ラインのマネジャーは、インタビューでこのように語っている。「まるで現実ではない、うますぎる話だと思った。これで3歳、9歳、11歳の3人の子どもたちの大学費用を払うことができる。全体集会の後に自分宛ての具体的な金額が入った封筒を受け取ったとき、真っ先に妻に電話した。イベントの前、妻は半信半疑だった。でも私が電話すると、彼女はただただ驚いていた」

「当事者意識の醸成」だけでは不十分

スタブロスは、単に株式を付与するだけでは、魔法のように文化が変わったり業績が向上したりすることはないと指摘する。だからこそ、現在のKKRのプロセスには、これを組織文化の一部に定着させるというコミットメントが含まれており、それは経営陣と従業員との関係性を変えることを意味している。

「ギャラップ社による測定によると、約70%のケースで離職率が大幅に低下し、従業員のエンゲージメントスコアに有意義な改善が見られる。一方で、従業員株式への投資を行っても、組織文化の指標が横ばいのままで、企業業績に大きな影響を与えないケースも約30%ある」。彼は、他のあらゆる投資と同様に、リターンが保証されているわけではないと強調する。

要因の1つは、企業のリーダー自身が積極的に関与し、真に文化の変革を追求しているかどうかだ。彼らは従業員を共同オーナーのように扱っているだろうか。各自の狭い個人的な目標だけでなく、会社全体について考えるよう全員に促しているだろうか。十分な財務データを共有し、人々がそのデータを理解できるようにサポートしているだろうか。会社の戦略を明確に説明しているだろうか。これらが実行されていなければ、どれほど手厚い株式の付与を行っても、エンゲージメントスコアや離職率に改善は見られないかもしれない。「自分自身がチームの一員であると感じられなければ、うまくいくことはない」

スタブロスはさらに、従業員としての当事者意識(オーナーシップ)と、共感型リーダーシップを組み合わせることは、どちらか一方を単独で行うよりも強力であると付け加える。彼と彼のチームは、共感研究の世界的な権威であるスタンフォード大学の心理学者ジャミル・ザキと協力し、このコンセプトをさらに深く追求してきた。リーダーの共感力と、チームのエンゲージメントスコアおよび離職率との相関関係を研究することに加え、ザキはコーチングプロセスを開発し、現在はKKRの投資先全体で展開されている。

「彼は、私たちが『共感のジム』と呼ぶものの構築を手助けしてくれた」とスタブロスは述べた。「投資先企業のCEOたちは、アクティブ・リスニング(積極的傾聴)や相手の立場に立つといった共感スキルの向上に取り組んでいる」。CEOたちはしばしば、継続的改善を中心に据えた日本の経営哲学である「改善(カイゼン)」活動で現場の業務に加わる。また、地域社会に出向いて、たとえば残高の少ない当座預金口座を開設しようと試みるなどして、低所得であることの現実を垣間見ることもある。「従業員の立場に立って考える方法を教えることで、CEOたちの共感力を測定可能な形で高めることができる。それは従業員の幸福度の向上、離職率の低下、そして通常は財務業績の向上につながる。統計的に決定づけるにはまだ十分なデータが揃っていないが、予備的な証拠は強力だ」

富の格差を縮小する

第二次世界大戦後の経済成長期において、生産性と賃金は通常、歩調を合わせて上昇していた。しかし、1980年頃を境に、これらの指標は乖離し始めた。生産性向上の恩恵はますます投資家に分配されるようになり、一般労働者の実質賃金の伸びは鈍化していった。ある測定基準によれば、1980年以降に生産性は90%向上したのに対し、実質賃金はわずか20%しか上昇していない。スタブロスも、このギャップは問題であると認めている。しかし、資産を所有している人と所有していない人の間に生じた格差に比べれば、その問題もかすんでしまう。

「過去40年間における生産性と実質賃金のギャップが60%なのか80%なのかを議論している間にも、株式市場は2万%も上昇している」と彼は指摘する。言い換えれば、実質賃金が生産性の向上に追いついていたとしても、労働者は依然として取り残されていたことになる。彼らが「追いつく」ためには、価値の上がる資産を所有する必要があるのだ。

現在、富の不平等は1920年代以来最大の水準にある。そして、大きな富の格差があったかつての時代と同様、いま多くの人にとってアメリカン・ドリームは手の届かないものになっているという実感が広がっている。住宅や高等教育をはじめ、ほぼすべてのものが手の届かない価格に感じられる状況下では、世代を超えた社会階層の上昇を信じ続けることは難しい。AI(人工知能)ブームによって労働者のカテゴリー全体が脅かされていると感じている今、その傾向は特に顕著である。

最低賃金の引き上げといった政策提案は、富の格差に対してせいぜい限定的な影響しか与えない。もし本気でこの格差を縮小させたいのであれば、価値の上がる資産、特に企業の株式をより多くの人々の手に渡るようにする方法を見つけ出す必要がある。

イメージ戦略ではない

プライベート・エクイティ業界は、必ずしも無私の精神で知られているわけではない。そこで筆者は、KKRの株式付与は自社のイメージアップを狙ったものなのか、とスタブロスに尋ねた。彼はそうした冷笑的な見方を一蹴した。

「周りがどう言おうと、私たちの動機は私自身がよく分かっている。私たちは夜もぐっすり眠れている。成功した企業は、従業員にも多くの利益をもたらすことができるはずだ。それは勝ち負け(ウィン・ルーズ)ではなく、相互利益(ウィン・ウィン)になり得る。実際、従業員に株式(出資分)を多く分配すればするほど、投資家を含めたすべての人にとって結果は良くなる傾向がある」

KKRは、従業員のエンゲージメント(個人的な当事者意識)と持続的な収益性の向上との間に、極めて密接なつながりがあることを実証した。これこそが成功の方程式だ。また、これは株主と労働者の双方が恩恵を受けられる、公平性に向けた最も生産的なアプローチでもある。まさに、マルチステークホルダー資本主義の最良のあり方と言えるだろう。

forbes.com 原文

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事