映画

2026.08.02 09:15

戦争に翻弄される女性たち描くイタリア映画「ヒトラーの毒見役」

​​映画「ヒトラーの毒見役」の一場面。7月31日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)など、全国で順次公開されている©2025Lumière&Co./Tarantula/Tellfilm/Vision Distribution

​​映画「ヒトラーの毒見役」の一場面。7月31日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)など、全国で順次公開されている©2025Lumière&Co./Tarantula/Tellfilm/Vision Distribution

第2次世界大戦中、ナチス・ドイツのヒトラーの食事に毒が盛られていないかを確かめる試食係を務めた女性たちを描いた映画「ヒトラーの毒見役」(2025年、イタリア・ベルギー・スイス合作)が7月31日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)など全国で順次公開されている。戦場から離れた場所で、戦争に翻弄される女性たちの姿をリアルに描いた。

1943年11月、ベルリンに住むローザは、ロシアに出征中の夫の実家がある地方の村に移り住む。夫の両親から、近くの森にヒトラーの総統大本営「狼の巣」が置かれていると告げられる。ローザは地元の6人の女性と一緒にドイツ軍に呼び出される。事前に健康状態を確認された7人に出されたのは、当時は手に入りにくい豪華な食事。しかし、1人で全品を口にすることは許されず、それぞれが分担して食べるように指示される。ヒトラーの食事に毒が入っていないかどうかを確認する試食係の仕事だった。

2013年に「試食役だった」と告白したドイツ人女性の証言を基にしたイタリア人作家ロッセラ・ポストリノ氏の小説を映画化した。イタリア人監督のシルヴィオ・ソルディーニ氏は、ドイツ語で撮影し、ドイツ人俳優を起用した理由について「ドイツ語で撮ったことに満足した。これはドイツ人が演じるべき映画だった」と語る。観客が映画に没入できるように、当時の服装や日用品まで、細部に徹底的にこだわったという。

ソルディーニ監督の映画化への意欲をかき立てたのは、当時26歳という設定の主人公ローザや地元女性たちの人物像だった。ソルディーニ監督は「原作で描かれた女性たちが魅力的だった。43年11月から1年間、試食係をさせられた7人の女性をひとつのオーケストラと考えた」と語る。撮影の2週間前から、俳優たちと7人の個性をどう深めるか検討したという。7人はお互いに戸惑いを感じたり、なじったりする関係から、徐々に助け合うようになっていく。

どの時代でも、戦争は女性に多くの負担と危険を強いる。家族を戦争に奪われ、銃後を支える役割を求められる。映画でも7人は出征した家族の生死に一喜一憂する。特に「絶滅戦争」と呼ばれた独ソ戦では、女性は過酷な体験を繰り返した。軍需工場勤務や看護業務などへの動員のほか、地上戦による徹底的な破壊に加え、飢えや寒さにも苦しめられた。

独ソ戦当初、ドイツ軍はソ連側住民に対する残虐行為や性暴力を繰り返した。その後、ソ連軍の侵攻に伴い、ドイツ国内でも多数の女性が性暴力の被害に遭ったとされる。戦後は「ドイツは加害者だった」という意識もあり、被害の全体像はいまも明確には分かっていない。

映画は、決して希望を感じさせる終わり方ではない。観客は戦争の恐ろしさやナチスの犯罪の重さを改めて感じることになる。ソルディーニ監督は「映画が描いた世界と、今、私たちが生きている時代との距離が、どんどん近くなっている気がする。暴力や戦争でしか解決できない状況を毎日見るようになり、恐ろしいとも思う。この映画を見て、現在の自分たちの状況を思い返す機会になってほしい」と語った。

文=牧野愛博

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