Apple Watchは2015年4月の発売から11年を経て、時刻やiPhoneの通知を手首で確認するためのスマートウォッチから、ユーザーの健康状態を日常的に見守るウェアラブルデバイスへと役割を広げてきた。心拍数や心電図、血中酸素ウェルネス、皮膚温など世代を重ねるごとにセンサーとソフトウェアが拡充されてきたからだ。
ユーザーの同意に基づき、Apple WatchやiPhoneに蓄積されたヘルスケアデータを、医師や研究者が活用する仕組みも整っている。心電図アプリ、不規則な心拍の通知、心房細動履歴など一部の機能は厚生労働省・医薬品医療機器総合機構(PMDA)より、管理医療機器にあたるプログラム医療機器としての承認・認証を取得している。
ただし、これらの機能はApple Watchだけで病気を診断することを目的としたものではない。デバイスが捉えた兆候や記録を医師への相談に活用し、必要な検査や診断、治療につなげることが重要だ。
7月23日、第72回日本不整脈心電学会学術大会では特別企画セミナー「Apple Watchと健康をサポートする機能の活用事例」が開かれ、3人の医師が登壇した。各氏の発表から見えてきたのは、生活者が健康上のリスクに気づいてから医療機関を受診するまでの空白を、Apple Watchで埋めようとする試みだった。
心電図アプリと遠隔確認を脳卒中予防に活かす
京都府立医科大学不整脈先進医療学講座の妹尾恵太郎氏は、Apple Watchを職域保健に活用する脳卒中予防プロジェクトに取り組んでいる。
心房細動は脳卒中の重要な危険因子だが、特に発作性の場合、年に1回の健康診断で心電図を記録するタイミングに症状が現れるとは限らず、発見が難しい。妹尾氏らがオムロンと共同で実施した先行研究では、家庭用心電計によって心房細動の可能性を指摘されても、実際に医療機関を受診した人は約24%にとどまったという。異常の可能性に気づくことと、確定診断や治療を受けることの間には大きな隔たりがある。
そこで、一般社団法人ヘルステックイノベーション研究センターと共同で開発を進めているのが「心電図管理アプリ」だ。Apple Watchが心房細動の兆候、または毎分150拍以上の高い心拍数を検出した際に、ユーザーは記録した心電図を任意でかかりつけ医に共有できる。医師はアプリ上で診断を確定するのではなく、疑われる状態について一般的な説明をチャットで返し、必要に応じて受診を促す。
健康状態の異変を意識してから受診するまでの間に、医師が記録を遠隔確認する「リモートドクターレビュー」を挟み、受診を後押しする仕組みだ。プロジェクトには55歳以上で高血圧と診断された人を中心に194人が参加し、現在は観察期間に入っている。京都市や京都府にも協力が広がり、地域全体をフィールドとする研究へ発展した。



