昨夏のAI競争は「機能」をめぐる争いだった。しかし今夏の主戦場は「連携(コネクション)」にある。過去1年、AIベンダー各社は機能面での競争優位性を確立しようと、こぞって同じ機能開発に注力してきた。だが、新たなAIツール投資のROI(投資対効果)を左右する真の課題は「連携」なのだ。OpenAI(オープンAI)、Anthropic(アンソロピック)、マイクロソフトが開発するエージェントは、電子メール、ファイル、チャットなど複数のコミュニケーション手段や、その他の業務アプリケーションを横断的に接続できる。
誰も予算計上しない「サイロ税」
MuleSoft(ミュールソフト)の2026年「接続性ベンチマークレポート」は、この課題に関するいくつかの統計を示している。企業は平均1057個のアプリケーションを利用しているが、そのうち統合されているのはわずか27%にすぎない。MuleSoftの過去の調査では、回答者の90%がデータのサイロ化を経営課題として認識していた。同様のパターンは中小企業にも見られる。例えば、会計アプリケーションが保有する情報を、CRM(顧客関係管理)アプリケーションが一切受け取っていないケースがある。メールの受信箱に眠る顧客との約束は、いかなる追跡システムとも連動していない。継ぎ接ぎだらけのツールスタックを抱える企業では、ツールの所有者がシステム間の連携を構築する責任を負うことになる。たった1つのデータサイロを分析するためにAIツールを使用すると、不完全な事実に基づいて作成された高品質なコンテンツが提供されることになる。これが、AI搭載の生産性ツールが、AIのROIを直接測定する手段をもたらすことなく、高品質なコンテンツを大量に生成できてしまう理由だ。
プライスラインの教訓をAI時代に応用する
ポール・ブライテンバッハは、この問題を逆の視点からも見つめている。旅行予約サイト「Priceline(プライスライン)」の共同創業者であり、元最高マーケティング責任者(CMO)でもある彼は、航空会社の在庫と顧客需要をリアルタイムに接続するeビジネスモデルを開発したチームの一員だった。プライスラインのモデルは、その世代のeコマースのあり方を決定づけた。現在、ブライテンバッハは、彼とプライスラインの創業メンバーらが2013年に立ち上げたeビジネスベンチャー、r4 Technologiesを率いている。同社では、企業全体でのデータ共有という同じコンセプトを、異なる業界で応用している。r4 Technologiesは、サプライチェーン、公共サービス、災害救助活動など、本来は連携して動作するように設計されていないデータ、人、システムを接続している。
彼の重要な指摘は、AIにおけるROIのギャップに関するものだ。「ほぼすべての企業が、既存のデータの中に膨大な未活用の価値を眠らせている」と彼は言う。この価値の多くは、チームごとのサイロに閉じ込められたままだ。安全な連携を実現することで、公的機関は人々のために、より良いサービスを提供できるようになり、民間企業は無駄を排除して業界全体に利益をもたらすことができる。そして、最終的な意思決定を下すのは、常に人間である。
人間は、今でも最終的な判断を下す責任を負っている。これは責任逃れではなく、そういう設計なのだ。ブライテンバッハは、AIに関する議論が人間を排除することに集中しすぎていると指摘する。「それは間違った目標だ」と彼は言う。AIは、人間が判断を下す際の支援を提供し、困難な意思決定タスクにおける摩擦を減らし、分断されたシステムによって生じる問題を解決すべきだと彼は考えている。ブライテンバッハによれば、最大のメリットの大部分は、適切な人物が適切な情報を適切なタイミングで受け取ったときに生じる(これは、導入担当者が活用できる「Human-in-the-Loop(人間関与型)」スタイルのAIチェックリストを実装するための、哲学でありアプローチでもある)。
最大の支出企業が敗北し続ける理由
今年の支出データから明らかなように、企業がAIに資金を投じているかどうかは、リターンを得られているかどうかにそれほど関係していない。PwCによる「2026年世界CEO意識調査」によると、AIの導入結果として収益の増加とコスト削減の両方を実感していると回答したCEOはわずか12%にとどまる。私はこのギャップ(前の記述に同意しない回答者の割合)の原因が、テクノロジーの不足ではなく、フォーマルな構造の欠如と、企業全体におけるAI導入の不十分さにあると考えている。ブライテンバッハも同様に単刀直入に、「勝者」とは必ずしもテクノロジーに最も投資する企業ではないと述べている。むしろ、既存の社内障壁を取り除き、組織全体でデータを収集して連携させ、従業員が事実に基づいた情報にアクセスして迅速に的確な意思決定を下せるようにする企業が勝者となる可能性が高い。
小規模企業向け「クロスエンタープライズ」
従業員12人の企業がエンタープライズ向けの統合プラットフォームを購入することはできないし、その必要もない。小規模企業向けに設計されたAIソリューションは、同様のコンセプトを縮小した形で活用できる。この「クロスエンタープライズ(企業全体にわたる)」アプローチは、次の3つのステップに集約される。
ステップ1: ビジネスデータのサイロをマッピングする。自社のビジネスに関する事実情報が存在するすべての場所のリストを作成する。これには、明確な意思決定プロセスを経ずに既存の製品やサービスに追加された新しいAI機能も含まれる。次に、どのビジネスシステムが共有データへのアクセスを提供し、どのシステムが提供していないかを示すリストを作成する。多くの経営者はこのようなマップを作成したことがなく、現在のシステムの稼働状況に驚かされることも少なくない。
ステップ2: 新たなツールを購入する前に、既存のツール同士を連携させる。AIが小規模企業のROIをどのように向上させるかに関心がある経営者にとって、次に投資する資金を最初に購入したシステムと接続させる方が、はるかに高い生産性を得られる方法が数多く存在する。
ステップ3: 最後に人間を配置する。連携を増やすことでAIにさらに多くのデータが提供される一方で、エラーが発生し、それが検出されないまま放置されるリスクも高まる。そのため、「最終決定は人間が承認しなければならない」というルールは、単なる予防策ではなく、処理スピードを実用的なものにするために不可欠なのだ。この順序は、ビジネスにAIを統合するための実践的なアプローチとなる。また、この順序により、中小企業(SMB)の経営者は自社におけるAI導入のROIを容易に測定できるようになる。削減できた手間の数を数え、導入前後での意思決定の時間を計測する。実際のコストや売上の変化に対するエラー率を追跡するのだ。
プライスラインの時代と現在の関係は単純明快だ。資金は、最も速いコンピュータを持つ者のもとには流れなかった。他の人々が見過ごしていたデータの点と点を繋げた者のもとへ流れたのだ。システムは必要に応じてさらにスマートになっていくだろう。あらゆる規模の企業が、早ければ今四半期中にも、社内のAIシステム統合の開発に着手できる。



