1566年の創業以来、蚊帳の行商から布団、そして現代の「睡眠ソルーション」へと、時代ごとに商品と売り方を変えながら460年を歩んできたnishikawa。近江商人の「三方よし」の精神を経営の根幹に据える同社はいま、「第二の創業」を掲げ、社員が本来注力すべき仕事に集中できる時間を生み出すためにAIエージェントの全社導入に踏み出している。
AIが業務の主役になりつつある時代、人間は何に集中し、組織はどう変わるべきか──。樹林AIは、単に質問に回答するAIではなく、企業の業務プロセスに深く入り込み、顧客対応や社内業務を実際に動かすAIエージェントプラットフォームを提供するAI企業だ。「答えるAI」ではなく「動くAI」の実現を掲げる同社代表取締役会長 大沢幸弘と、代表取締役CEO オオイ・ライスが、西川株式会社 代表取締役社長COO 竹内雅彦、システム企画部長 井島慎一に話を聞いた。
チャレンジし続ける老舗企業であるために
大沢幸弘(以下、大沢):nishikawa様のような460年もの歴史をもつ大企業が、最先端のAIソリューションを導入される決断をされたことに感銘を受けています。どのような課題感をお持ちだったのでしょうか。
竹内雅彦(以下、竹内):社員の時間の使い方を変えたいと考えていました。当社の現場はアナログで煩雑な業務フローが根付いていて、お客様対応のスピードを落とす原因となっていたのです。 得意先からの在庫確認ひとつとっても、営業担当が受けてから社内のシステムで探し、商品部門に問い合わせ、さらに仕入れ先に確認して……という伝言ゲームのような作業がこの20〜30年間、変わっていなかったんですね。
このような状況になっている背景としては、過去に企業合併があり、社内システムが統一されていないことも影響しています。巨額の投資をして構築したシステムは、簡単には変えられません。一つの情報を見つけるにも多くの時間がかかり、他部門に質問して回答が来るまで待つしかないという課題をなかなか解決できずにいました。
井島慎一(以下、井島):生活者の方からの問い合わせをいただくお客様相談室も、メールの返信文を一件ずつ作成していたため、回答までの時間が長いという課題を抱えていました。
また、どの部門も、タスクを緊急度と重要度の2軸で分類した時間管理のマトリックスでいうところの「第1象限(緊急かつ重要)」、つまり注文対応や納期回答という作業に忙殺されていました。ただ、会社の成長に必要なのは「第2象限(緊急ではないが重要)」、すなわち新しい事業や創造的な企画を考えることです。ここに社員の力を最大限使うために、定型的な業務を自動化すべきだという議論が経営トップからも強く出ていました。
竹内:当社は創業以来460年間、時代のニーズに応じて価値を提供し続けてきました。いまは、寝具という商品の枠を超え、睡眠の環境そのものや、関連するサービスを含めて事業を創っていく転換点に来ています。次なる価値を生み出す時間を捻出することは、最重要ともいえる経営課題でした。
大沢:そもそも、コンタクトセンターというのは、経営のヒントが詰まった宝庫ですよね。でも、自分の目で現場を見る経営者はなかなかいない。nishikawa様は、竹内社長が大阪の現場に自ら足を運んで課題を掴み、井島部長がそれを実行に移す。経営と現場がこれだけ近い会社はほとんどないんです。
オオイ・ライス(以下、オオイ):弊社日本法人代表のCOO諏訪が御社の西川八一行会長とお話した際にも、当社のエンジニアが驚くほどAIに詳しく、特定の業務ではなく会社全体で活用したいという前向きな考えをお持ちでした。こうしたトップがいると、スピーディーに現場へ浸透していくものです。
老舗企業は、新しいことに絶えずチャレンジするからこそ、何百年も存続しているのですよね。御社からも、顧客体験をより良くするとともに、次の時代に向けた事業を生み出したいという決意を強く感じました。
AIによって、顧客と商品開発の現場をつなげる
井島:AI活用の第一歩として、お客様相談室にコンタクトセンター向けのソリューションを導入しました。他社のソリューションも比較検討しましたが、最終的には社内だけでなく、コンタクトセンター運営のプロにも同席いただいて評価を行いました。その中で、ボイスチャットの応答速度は群を抜いており、「大阪弁に変えてください」「英語に変えてください」といったその場のリクエストにも即座に対応できた。プロの目から見ても、樹林AIはダントツでした。
ただ、機能面だけが決め手ではありませんでした。私たちが求めていたのは、お客様相談室の一次対応だけでなく、得意先への営業対応、さらには社内コミュニケーションまで、バックオフィスのシステムを含めて一気通貫でつなぐAIエージェントです。「この部分だけ」という部分最適ではなく、全社でAIを活用するという絵を描いていた私たちに、同じ視点で応えてくれたのが樹林AIでした。
大沢:樹林AIは、既存システムをそのまま使える形で構築するので、現場の皆さんが新しいシステムに慣れていただく負担を極力減らせます。それでありながら、部分の効率化に留まらない全社改革ができるのです。
オオイ:テクノロジーが変わるたびに、市場のカードはシャッフルされます。パソコンがではじめた時代も、インターネットの時代もそうでした。そしてAIでまた、カードがシャッフルされている。その時に誰がトッププレイヤーになるかは、まだ誰にもわからない。
ただ言えるのは、部分的な効率化ではなく全社でAIを使い始めている会社が有利だということです。歴史を遡ると、インターネットの時代からアプリの時代に移ってきた。これからはAIエージェントの時代です。必要なアプリを探して立ち上げなくても、作業を適切に進めてくれる。だからこそ、今ここで動いている御社のような会社が、次の時代の主役になり得ると思っています。
井島:チャットボットでの問い合わせ対応は、導入後は1日30件ほど、月にすると900〜1,000件ほどになっています。また、メール対応についても、以前は月200件ほどの問い合わせがありましたが、AIが回答候補を提示してくれるようになったことで、一件あたりの返信作成にかかる時間が大幅に短縮されました。検索してすぐ返答できるようになり、非常に便利に活用しています。
竹内:しかも、これまで担当者が個別に聞いていた生活者の声が、AIを通じて構造化されたデータとして蓄積されるようになります。これは商品開発にとって、計り知れない価値をもつリソースです。
不満の声や隠れたニーズが可視化されれば、それをダイレクトに製品開発に活かせます。今まではどこかに記録はあっても全社で共有されることは難しかった。それがAIによって「宝の山」に変わるわけです。
井島:人の仕事がAIに取って代わられるのではなく、AIを味方にすることで、本来やるべき仕事に集中できるようになる。こうした意識を忘れずに、他部門でもAIエージェントの導入を進めていきたいと思います。
大沢:AIが定型業務を担うようになれば、お客様から見たnishikawa様は「24時間365日、眠らずに顧客を支え続ける」スリープテック企業へと進化します。社員はしっかり休み、人間ならではのクリエイティブな仕事に専念できる。これこそが、理想的な働き方ですね。
次の500年も、時代のニーズに沿って進化を遂げたい
竹内:今後は、労働力人口が減っていく中で、限られたリソースをいかにお客様の満足度向上に振り向けるかが重要です。私はよく社員に、野球の例を出して「打率よりもヒット数を求めてほしい」と言っています。確実な成功を目指して1回しか打席に立たないのではなく、打率2割でもいいから10回打席に立ってほしい。これからはAIが時間を創出してくれることで、社員が失敗を恐れずに新しいチャレンジをする回数を増やせるはずです。
オオイ:これまで築いてきた本質や信頼を守りながら挑戦することは、まさにnishikawa様のDNAですね。一緒に成長していくことを楽しみにしています。次の500年に向けて、どのようなビジョンを描いていますか。
竹内:寝具の枠を超えて、快適な空間づくりなど睡眠全体のソリューションを提供していく必要がありますし、医療との連携や海外展開も加速させたいですね。さらに将来は、宇宙空間での睡眠も手がけたいと考えています。無重力という極限環境でも質の高い眠りを提供することに、当社の知見を活かしていけると思うのです。
大沢:伝統的な企業が、最先端の働き方を体現する。nishikawa様のような存在が知れ渡ることで、日本企業全体の未来も明るくなりますね。
竹内:ありがとうございます。これからも樹林AIのようなパートナーと共にチャレンジを続け、世界中の生活者を豊かにしていきたいですね。AIは、そのための強い支えになってくれると思っています。
たけうち・まさひこ◎西川 代表取締役社長 COO。1993年西川産業(現・西川)入社。営業本部営業戦略室課長、執行役員営業企画室室長、取締役上席執行役員営業統括、執行役員西日本営業統括などを経て、2026年より現職。科学的エビデンスに基づくスリープテックの推進と、現場起点の経営変革を牽引する。
いじま・しんいち◎西川 システム企画部 部長。1987年大阪西川(現・西川)入社。システム部などを経て現職。3社基幹システム統合、nishikawa ID構築、睡眠アプリgoomoの開発を牽引する。現在、社内DXおよびAI活用を推進し、今回の樹林AIとの協業を主導。
おおさわ・ゆきひろ◎樹林AI 代表取締役会長。早稲田大学(高等学院/理工学部)卒業、東京大学EMP修了。三井物産にて多数の大規模コンタクトセンターの構築・運用を手がけ、業界変革を牽引。その後、米Macromedia社、Dolbyなど複数の米国テクノロジー企業で日本およびアジア大洋州の責任者を歴任。現在Dolby Laboratories日本法人代表取締役社長(兼)東南アジア・大洋州統括を務めながら、2026年2月より樹林AI代表取締役会長に就任。
おおい・らいす◎樹林AI 創業者・代表取締役社長(CEO)。東京大学、ジョージア工科大学、北海道大学等でAI・ソフトウェア工学と経営工学を専攻。シリコンバレーユニコーン「Applied Intuition」の初期メンバーとして国内外の広範な自律システム実装を統括。



