企業に「1つのコパイロット」ではなく100のAIエージェントが必要な理由
Lior Weinstein:CTOxのCEO兼共同創業者、フラクショナルCTO/CRO。テクノロジー幹部がフラクショナルリーダーとして影響力を何倍にも高められるようコーチングしている。
あるCEOが最近、AI導入について話すための会議はもう必要ないと私に語った。その会社ではすでに組織全体にAIツールを導入し、成長もしていた。彼は以前にも同じ売り込みを聞いたことがあったのだ。
彼がそう感じたのは当然だった。
どこを見ても、この18カ月であらゆるコンサルタントがAI専門家に看板を掛け替えたように見える。LinkedInのフィードには、2年前にはマーケティングファネルを売っていた人々による変革論の投稿があふれている。あなたもおそらくコパイロット(AIアシスタントの一種)を導入し、場合によっては肩書に「AI」と付く人材を採用したかもしれない。そして、その成果はおそらく期待外れか、ほとんど見えないものにとどまっている。
機械学習に約20年携わり、この分野で5件の特許を取得してきた経験から私が学んだことはこうだ。テクノロジーはすでに機能している。だが、ほとんどの企業の導入方法では、その成果がほぼ見えなくなってしまう。
レンガの壁問題
私は以前、AI組織図がまだ存在しない理由について書いたことがある。アーキテクチャの問題は、さらに一段深いところから始まっている。
AI導入の標準形は、既存のワークフローに大規模なシステムを1つ後付けし、そこにチャット画面を付けるというものだ。主要プラットフォームはいずれも自社版を販売しており、専任チームを持つ大企業にとっては十分に使える。
しかし、米国の大半の企業は大企業ではない。中小企業は、数百万の顧客に対応するよう設計された強力だが汎用的なプラットフォームに費用を払っている。使うことのない機能に費用を負担しながら、実際に必要な機能については回避策を作っているのだ。たとえば、チームが高機能な文書保管庫として使っている年間9000ドル(約147万円)のプロジェクト管理ツールや、自社の営業プロセスに必要なことの60%を満たし、不要なことの40%も備えたCRMのようなものだ。
そのすべての上に、1つのAIシステムであらゆることを処理しようとするのは、レンガの壁のようなものだ。レンガを1つ抜けば、全体が崩れる。多くの場合、チームは何が壊れたのかを特定できず、残りにリスクを及ぼさずに一部をより良いものへ差し替えることもできない。
私は、レゴの組み立てキットに近いシステムを作るほうを好む。つまり、それぞれが1つの仕事を担う、何百もの小さな専門AIエージェントである。請求書処理エージェントは請求書を処理する。オンボーディングエージェントは新規顧客の最初の30日間を案内する。それぞれが独立して稼働し、その特定業務に見合うコストで運用でき、ほかの部分に触れずに修正やアップグレードが可能だ。
金銭的効果はどこに現れるか
私が企業に入ると、どのプロセスについても最初にこう問う。「そもそもこれは存在する必要があるのか」。私はAIが存在する前からこの問いを投げかけており、今もそうしている。
だが今は、答えがイエスであれば、その特定のタスクのために作られた専門エージェントが、はるかに低いコストで、より一貫して処理できるかどうかを見る。単純な文字起こしと複雑な財務分析では、必要なAIの処理能力がまったく異なる。単一システムでは、その両方にプレミアム価格を払うことになる。専門エージェントなら、タスクにコストを合わせられる。私はこの手法により、出力品質を高めながらAIの運用コストを60%以上削減した例を見てきた。
発見効果もある。私は最近、あるクライアントの経営チームとワークショップを実施した。12人が10分足らずで、具体的なAIエージェントのアイデアを135個出した。それぞれが、時間を食っている、あるいは売上を取りこぼしているワークフローに対応していた。これらのアイデアがすべて一度に作られたわけではなく、中には今後も作られないものもある。この演習の目的は、既存のワークフローとチームの組織知の中に、どれほど多くの未活用の機会がすでに存在しているかを明らかにすることだった。チームは、事業価値、構築コスト、そして今年の四半期に従業員の時間を節約するのか、それとも来年なのかという観点で、アイデアに順位を付けた。
導入が停滞する理由
私の経験では、現在のビジネスにおける最大のAI課題は、すでに費用を払っているツールをチームに実際に使ってもらうことだ。
コパイロット型のシステムは、従業員に働き方の変更を求める。新しい画面を開き、プロンプトを入力し、出力が役に立つことを期待し、それを別の場所にコピーする。これは既存のルーティンに接ぎ木された異質な動作であり、導入率の数字にもそれが表れている。
私が提案する代替策はこうだ。チームがAIについて意識する必要がないよう、ワークフローの中にAIを組み込む。従業員は自分の作業空間にログインし、タスクとダッシュボードを見る。エージェントは画面の裏側で動く。マーケティングコーディネーターは「AIを使う」のではない。重い作業を40の専門エージェントが担っているシステムの中で、自分の仕事をしているだけだ。
Zoom通話でビデオ圧縮について考える人はいない。ただ相手の声を聞きたいだけである。これと同じ原理だ。
この手法が適さない場合
この手法はすべての企業に向いているわけではない。年間のテクノロジー支出が30万ドル(約4910万円)未満なら、インフラはまだ採算に合わない可能性が高い。常に回避策を必要とせず、シンプルなツールで事業がうまく回っているなら、ベンダー管理を改善するだけで十分だろう。
また、やり取りによっては、最初から最後まで人間が対応すべきものもある。誰かの配偶者が事故で亡くなったばかりなら、その最初の電話にAIが応答することは望ましくない。バックオフィスは自動化する。だが、顧客接点は守るべきだ。
月曜の朝に取るべき一手
過去3年間のAI開発を踏まえると、どの能力についても、現在は今後あり得る中で最も高価で、最も能力が低い時点だと私は考えている。専門エージェントで構築すれば、より優れ、より安価な選択肢が毎月登場するにつれ、そのコスト曲線の低下に乗ることができる。単一の大規模システムで構築すれば、昨日の能力に対して昨日の価格に縛られることになりかねない。
ものを実現すること自体はコモディティ化した。実際の組織の中でスケールするように構築することは、今なお難しい部分である。だから、まず1つの部門を選ぶことから始めるべきだ。ワークフローを監査する。目的に合わせて作られた専門エージェントが処理できるタスクを数え、事業価値、構築コスト、そしてこの四半期にチームの実時間を節約できるかという観点で順位付けする。そのリストは、自社のAI戦略にアーキテクチャの変更が必要かどうか、そしてどこから始めるべきかを正確に示してくれるはずだ。
冒頭のCEOの経営チームは、数週間後に2時間のワークショップを1回受けた。その終わりには、経営層からは見えていなかった数十の機会を可視化していた。そのCEOは以前からAIの可能性を理解していた。変わったのは、汎用的な解決策をさらに上に重ねるのではなく、自社の事業運営の実態に合ったアーキテクチャを目にしたことだった。



