サイエンス

2026.07.28 18:00

ヤモリの足裏を科学した米軍の装備、粘着剤なしで垂直壁を走る驚異の技術*

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米国防高等研究計画局(DARPA)は2014年、「Z-Man」と呼ばれるプログラムの成果を公開した。それは、体重90kg超のクライマーが約23kgの荷物を背負い、ロープもハーネスも吸盤も使わず、2つの接着パドルだけを使って、ガラスでできた高さ約7.6mの垂直壁を上るというデモンストレーションだった。

こんな離れ業が可能になったのも、身近に存在するヤモリのおかげだ。

DARPAが壁を上るために開発したのは、ヤモリの足裏をできる限り忠実に再現したパドルだ。科学史上で最もスパイダーマン・スーツに近い発明だが、その背景にある生物学的な仕組みは、スパイダーマンを上回る不思議さと言えるかもしれない。

ヤモリが壁を上れる理由は、粘着力ではなく微細な形状

以前は、ヤモリが垂直面を上れるのは、何らかの粘着性物質を分泌しているからだろうと考えられてきた。アマガエルがいつも湿り気を帯びてねばついているのと同じだ、と。しかし、それは間違いだった。

ヤモリの足裏にあるパッドは、完全に乾いている。顕微鏡で見ると、「セタ(seta)」と呼ばれる微細な毛がびっしりと生えており、その1本1本がさらに無数の「スパチュラ(spatula)」という、ナノサイズのヘラ状の超微細毛に細かく枝分かれしている。この構造は、接触した面と、分子レベルで相互作用が起きるほどに微小だ。

この相互作用は、「ファンデルワールス力」と呼ばれている。2002年に『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』で発表されたトッケイヤモリ(学名:Gekko gecko)の研究で立証されたように、2つの表面が十分に近づくと(どちらかに、日常的な意味での「粘着性」がなくても)、分子と分子のあいだに一時的に弱い吸引現象、つまりファンデルワールス力が生じる。

単一の「スパチュラ」が持つ吸引力はゼロに等しいが、1つの足には50万本のセタが生えており、それぞれが枝分かれして、数百もの接触ポイントを作り出す。それがすべて掛け合わされると、ヤモリが指1本でぶら下がったり、逆さまで天井を走り抜けたりできるほどの力を発揮する。

サイズの大きな動物の場合

ここからの話は、直感どおりではなくなっていく。手足がさらに大きい動物が同様の構造を持っていたなら、もっとしっかりくっつけるのではないかと思う人もいるかもしれない。ところが、生物学者たちが発見したのはそれとほぼ逆の事実だった。

接着力は、接着面の大きさとともに増大する。しかし、体の大きい動物がそのサイズに合わせて、より広い範囲に、より密度の高いセタを生やそうとしてもそれはできない。構造がどうしても硬くなってしまい、表面にうまくフィットしなくなるのだ。

これは実際、避けられない制約だ。2016年に『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』で発表された研究の計算では、人間のクライマーがヤモリと同じ仕組みで垂直面を上るためには、体表面のおよそ40%が、接着力のあるパッドで覆われていなければならない。

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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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