ブック

2026.08.16 14:30

各界著名人が10代と語り合いたい「不朽の名作」

イラストレーション=オリアナ・フェンウィック

宇宙の彼方からみた地球人たち

Title|『惑星へ』
Author|カール・セーガン

『惑星へ』(上・下) (カール・セーガン、森暁雄監訳、朝日新聞出版刊)
『惑星へ』(上・下) (カール・セーガン、森暁雄監訳、朝日新聞出版刊)

米国の宇宙探査の初期から指導的役割を果たした著者が、ボイジャーやガリレオ探査機が調べた太陽系惑星たちの鮮やかな素顔に迫る。希望を失わず、確かな知性に裏打ちされた氏の柔らかな文章で、人類の希望と未来を語る。

advertisement

私の専門は宇宙の天気予報だ。オーロラの専門家でもある。宇宙天気予報という言葉を初めて聞く読者もいるだろう。しかし、これまでになく宇宙が身近になりつつある今、宇宙の天気が社会にもたらす災害も含めて、多くの人に宇宙の天気とは大体どんなものか、ぜひ知ってもらいたいと思う。今年6月に出版した拙著『怖い宇宙』にも詳しく書いたが、太陽は、爆発的なエネルギーを放出している。通信を遮断してしまう電磁波バースト、停電事故を引き起こす10億トンクラスのプラズマ大噴出、ほぼ光のスピードで襲いかかる太陽プロトンという放射線などがあり、いずれも核爆弾数億発に匹敵する脅威のエネルギーだ。宇宙の一般的なイメージといえば、静寂で無の世界だが、私のこれまでの研究を通じて知る宇宙の現実はそれとは正反対だった。激しく荒ぶっており、爆発的な放射線やプラズマに満ちた世界だ。

現代社会は、この宇宙の嵐に敏感になりつつある。2025年11月にはエアバス320シリーズに、太陽光プロトンによる放射線で誤作動を引き起こす脆弱性が見つかり、国内95便が欠航、大規模リコールで1万3,000人以上に影響が出た。エアバス社の株価にも悪影響が出たようだが、直後ににわかに太陽活動が活発になったことを考えると、英断と言える。現代のハイテク社会に欠かせない人工衛星や地上の電力網のことを考えると、地震や津波、台風といった災害と同様、宇宙天気予報はますます重要になってくる。

私は22年に人生の転機を迎えた。サバティカル休暇を取り、1年ほど普段の仕事から離れ、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の一室に机をもらって、主な時間を専門書や論文の執筆に充てることができた。25年4月には、研究の場をOISTに移し、東京から沖縄の恩納村に移住した。深呼吸ができる自然豊かな環境に囲まれ、人生がリセットされたことで考えるようになったのが、100年後、1000年後の地球、月、火星についてだ。そこで近年の、主にイーロン・マスクら米国の富豪による宇宙開発競争、そしてその背後にある人間中心主義的な思想に違和感を抱くようになった。月や火星は移住できるような環境にない。むしろ、地球が「生命の星」となった起源や、月や火星が「死の星」となった起源を知ることのできる、人類にとって究極の知的冒険の場であり、人間が地球に永住するための知恵を授かる調査地である。それを資本主義の法則で無闇に荒らすのは、人類の大きな損失であると思うようになった。まずは自分にできることからと、沖縄から「地球人ラジオ」というポッドキャスト番組の配信を始め、ゲストを呼んで語り合いながらそれらのことを発信している。

advertisement

10代と共有したい不朽の名作ということに話を移したい。カール・セーガン(1934-1996)は、アメリカの天文学者で、その業績を上げれば枚挙にいとまがない。NASAの花形ミッションとなった惑星探査を率いた人物であり、一流の研究者だが、応用面、発信力もすごかった。核戦争が起こってしまえば、大気が焼け、地球が凍りつく、つまり人類は絶滅するという計算結果を「核の冬」という一言に押し込め、世界を救った。その論拠となっているのは、火星の研究であったりする。彼の『惑星へ』(1998年初版)という本のなかには「ペイル・ブルー・ドット(Pale Blue Dot)」という言葉でよく知られる一節がある。60億km、地球から離れて写真を撮ったら、1ピクセルのなかに地球がいた。その青白い一点に私たち人類の歴史に刻まれたすべての喜びと苦しみがある、という内容だが、ここからの言葉の畳みかけ方がすごい。ぜひ実際に手に取って読んでみてほしい。

時代は50年ほどさかのぼるが、日本人の著者では、寺田寅彦(1878-1935)を挙げたい。それまであった古典的な物理学の上に、一見複雑な生命現象や自然現象を物理学でとらえてみようとする、現代的な自然科学の基礎をつくった。彼も一流の研究者だが随筆家としての発信力もずば抜けていて、「天災は忘れたころにやってくる」という言葉は、今も日本人みんなが知っている。

AIの時代がすでにやって来ているが、熱い情熱をもって社会や研究の道に入った若者ほど、人間の知性に失望してしまうこともあるのではないかと思う。しかしあらためて彼らの著作を読むと、人類の知の野生の力強さを実感でき、人間そのものにも希望を感じることができるのではないか。

片岡龍峰|宇宙空間物理学者
片岡龍峰|宇宙空間物理学者

かたおか・りゅうほう◎東北大学大学院理学研究科博士課程修了。情報通信研究機構、NASAゴダード宇宙飛行センター、理化学研究所などを経て、現在は沖縄科学技術大学院大学(OIST)主幹研究員。2015年度文部科学大臣表彰若手科学者賞、24年田中舘賞受賞。著書に『オーロラ!』(岩波書店)、『怖い宇宙』(ハヤカワ新書)など。

編集=岩坪文子、矢口泰介

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事