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2026.08.16 14:30

各界著名人が10代と語り合いたい「不朽の名作」

イラストレーション=オリアナ・フェンウィック

対話と協力のボードゲーム

Title|『Pandemic』
Designer|マット・リーコック

『パンデミック:新たなる試練 日本語版』(デザイン:マット・リーコック、版元:Z-MAN Games、販売元:ホビージャパン)
『パンデミック:新たなる試練 日本語版』(デザイン:マット・リーコック、版元:Z-MAN Games、販売元:ホビージャパン)

プレイヤーが協力し合って感染症の世界的流行に立ち向かうボードゲーム。デザイナーのマット・リーコックは2003年のSARSの流行から着想を得て本作を制作。08年に英語版、09年に日本語版、13年に上記の改訂版が発売された。

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「ゲーム」という言葉にはさまざまな定義があるが、「競争」や「戦い」を遊戯化したものとしてとらえている人も多いだろう。実際、古代インドの「チャトランガ」に由来するタイプの「チェス」「将棋」などの伝統的アナログゲームは戦争シミュレーションとしての側面を強くもつし、黎明期のコンピューターゲームのひとつである「Spacewar!」(1962年 ) はその 名の通り宇宙戦争を題材にしている。また、より一般的に使われてきた「ゲーム」の語はスポーツにおける「試合」を意味し、それらは言うまでもなく、勝ち負けや成績の優劣を決めるための「競争」である。ちなみに世界初のコンピューターゲームは「Tennis for
Two」(1958年)であり、コンピューターゲームの歴史もまたスポーツの模倣から始まったといえる。

しかしその後、ゲームは文化としても産業としても大きく発展し、多様な進化を遂げてきた。そのなかで、筆者がゲームデザイン上、かなり重要なトピックのひとつと考えているのが、「協力型ゲーム」の発展だ。コンピューターゲームの分野では、特に2000年代以降、インターネットを介したオンライン・マルチプレイが普及したことにより、複数人のプレイヤーによる対戦型ゲームも大きく発展したが、同時に協力型のゲームメカニクスも数多く生まれた。「MMORPG」と呼ばれる多人数参加型のロールプレイングゲームはその代表例である(そもそも、このジャンルの勃興は「テーブルトークRPG」と呼ばれるアナログゲーム分野からの影響も大きい)。

そして時を同じくして、アナログゲームの分野でも協力型ゲームのブームが起こった。その火付け役となったのがアメリカのゲームデザイナー、マット・リーコックの作品「Pandemic」(2008年 )だ。 人 類vs殺 人ウイルス、先に全滅するのはどちらか!? このゲームにおけるプレイヤー同士は敵対関係ではなく、同じ人類の仲間として、世界中で猛威をふるう架空の感染症を根絶することが目標となる。各プレイヤーは、ワクチンを開発する「科学者」、そのために必要な研究データを収集する「研究者」、増えてゆく患者をケアする「衛生兵」、調査拠点の設置を行なう「作戦エキスパート」など、それぞれの専門分野と特殊技能をもつ。こういったプレイヤーそれぞれがもつ長所を状況に応じて組み合わせ、適材適所のチームワークを発揮することがウイルス根絶のカギだ。

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「Pandemic」は、もともと2003年のSARS流行から着想を得て開発されたボードゲームだが、2019年以降の新型コロナウイルスによる未曽有の大規模パンデミックを経た我々から見れば、よりリアリティある人類課題としてイメージしながらプレイすることができる。実際、このゲームは「高度に抽象化された感染症対策シミュレーション」としてもよくできているのだが、実はこのゲームから得られる最も重要な学びは、そのような感染症対策のノウハウ自体ではない。対話と協力によって共通の課題を解決していく、プロセスそのものにある。

「Pandemic」のモチーフとなっている医療や公衆衛生の分野に限らず、貧困、戦争、環境汚染、資源の枯渇。多くの人類課題に向き合わないといけない現代、我々はいいかげん、「競争で勝つ」ことばかりが推奨され、「他者から奪い取る」才能こそが優秀さの証明であるという価値観から、卒業しなければならない。個人の視点でも、職場で求められる人材、地域に必要な大人、家庭にいてほしいパートナー、それは「他者から奪い取る」ことが上手な人間ではなく、異なる立場の人間同士をつなげて問題を解決していく「対話と協力」に優れた人であろう。実際のところ、いつの時代もそういった「理想の人物像」の醸成に、エンターテインメントの世界観が与える影響は大きい。現実の世界地図を戦争シミュレーション・ゲームの盤のように弄ぶ旧世代の指導者たちよりも、互いに手を取り合うことで共通のミッションをクリアしていく協力型ゲームの熟達者をこそ、当たり前に「カッコいい」と思える次世代が育つことに期待したい。

渡辺範明|ゲームデザイナー、プロデューサー
渡辺範明|ゲームデザイナー、プロデューサー

わたなべ・のりあき◎ドロッセルマイヤー商會代表取締役。アナログゲームメーカー「ドロッセルマイヤーズ」として、数多くのボードゲームやカードゲームを手掛ける。玩具企画者、マンガ原作者、ラジオ等での話し手としても活動中。著書に『国産RPGクロニクル 物語の革命者たち』(イースト・プレス)など。

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編集=岩坪文子、矢口泰介

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