イランをめぐる最悪のシナリオは、どれも現実になっていない
価格変動の理由は3つある。第1に、市場は将来を先取りする。第2に、市場価格はインフレとは無関係な多くの理由で上がったり下がったりする。第3に、あるものの価格上昇は、別の何かの価格低下を意味する。経済とはトレードオフだからだ。
それでは、なぜ金価格は下落しているのか。
1つの推測として、先を読む市場が、イラン情勢のさらなる悪化を見込んでドルを下方修正し、金価格を押し上げていた可能性がある。あるいは、イランとの衝突から生じ得る最悪のシナリオの一部を、単にドル相場へ織り込んでいたのかもしれない。
最悪の場合には世界大戦へ発展する可能性がある。別の最悪の展開として、イランかイスラエル、あるいは両国が核攻撃を受ける可能性もある。長期化して流血を伴う紛争となり、多数の米国人が命を落とせば、その影響がドルの価値にも表れるかもしれない。
戦争の是非はさておき、市場はさまざまな可能性と、その発生確率を程度の差こそあれ価格に織り込む。これまでのところ、先に挙げた最悪のシナリオは現実になっていない。これはドルにとって好材料だったと考えられる。
金価格の下落は、安心感を背景としたドルの反発相場と呼べるだろう。
ベッセントはトランプの言葉を繰り返さず、方向を修正した
もう1つの材料として、スコット・ベッセント財務長官の対応を考えてみたい。トランプ大統領は今年初め、ドル安を「素晴らしい」と述べる誤った発言をした。
その頃、金価格は1トロイオンス当たり5300ドル(約86万9200円)に達し、そこに映し出されたドルの価値は史上最低水準となった。
注目すべきは、ベッセントがトランプの言葉をそのまま繰り返さなかったことだ。むしろ方向を修正し、「米国は常に『強いドル政策』を採ってきました」と述べた。
大統領は自らが望むドルを手にし、普通なら財務省はその方針を代弁する。だがトランプの周辺には弱いドルを嫌う人物も複数いる。そう考えれば、ベッセントの発言が単なる偶然ではなかった可能性もある。
いつものことだが、市場には、世界中で毎日、毎ミリ秒ごとに下される無数の判断が反映されている。したがって、市場価格が動いた理由について、確実な答えは存在しない。
それでも、先に挙げた2つの例を、金価格の下落に表れたドルの好材料として指摘することは不合理ではない。
金が安全資産として機能しなくなったという論評は、ばかげている
少なくとも、「インフレ圧力」が高まっているとされる中で金が「安全資産」として機能しなくなったという大げさな論評はばかげている。
金は市場と同じように、ただ存在する。そこに何が示されているのかは、読者自身が判断すればよい。


