AIトークンの消費量を称賛する文化と、AI支出のあり方を問い直す動きが同時に起きている。これらの根底にあるのは、AIトークンを経営評価指標に結びつけようとする新しい潮流だ。
米国テック界でこのところ、興味深い動きが広がっている。AIトークンの消費量を最大化し称賛する文化で、「トークンマキシング」と呼ばれている。一方、AI支出のあり方を問い直す動きも並行して起きている。一見すると対極のこのふたつの動きだが、実はその底流には、トークン消費量と経営価値の比率を新しい指標として位置付けようとする試みがある。日本企業のAI活用にも、同じ問いは跳ね返ってくる。
「2週間で7000ドル超(約110万円)分のAIトークンを使ったエンジニアを、社内の基調講演で称賛した」。米データブリックスのCEOであるアリ・ゴドシは今年3月、米Forbesの取材にこう語った。エヌビディアCEOのジェンスン・ファンも同時期、ポッドキャストで「年俸50万ドルのエンジニアが少なくとも25万ドル相当のトークンを使わないなら、私は深く憂慮する」と発言。同じころ、メタの社内リーダーボード「Claudeonomics」がリークされ、トップユーザーは30日間で2810億トークンを消費していたことが判明した。
ニューヨーク・タイムズ紙のケビン・ルースはこの現象を「トークンマキシング」と呼び、世界に広めた。注目すべきは、これが単なる「ツール推奨」ではなく、消費量をリーダーボードで可視化し、報酬・人事評価に直結させている点である。メタCTOのアンドリュー・ボズワースは、「使い倒すベストエンジニアは5倍から10倍の生産性を出す」と語っている。トークン消費量を経営指標として扱う試みが、米国テックの一部で本格的に始まったのだ。
もっとも、この方向には早くも内省の声がある。米SendbirdのCEOであるジョン・キムは、「上位10人のうち、ふたりは実験的利用にとどまる」と認め、コード行数で評価された1990年代の失敗を引いて「同じ映画を見たことがある」と警鐘を鳴らしている。問われるべきは消費量そのものではなく、それが生む経営価値である。実際、消費を絞る方向に動いた企業も出てきた。
同じころ、揺り戻しをかける動きも報じられた。Uberは2026年のAI予算を最初の4カ月で使い切り、エンジニア一人当たり月1500ドルのトークン上限を導入。同社COOアンドリュー・マクドナルドは「『Claude Code』の利用と、ユーザーに届く機能改善の因果が引けない」と語り、ROI(投資収益率)が測れない状態での支出継続に懐疑を示した。
Uberの事例は、トークンマキシングが投げかけた問いの裏面を象徴している。消費量を価値の代理指標として走らせた末に、指標と実際のアウトプットの因果に行き詰まり、抑制に転じた。称賛と抑制は対極に見えるが、「トークン消費量にどう経営価値を結びつけるか」という同じ問いへの異なる応答である。トークンマキシングは分子(生み出す経営価値)を伸ばす試み、Uberの上限設定は分母(消費)を絞る試み。同じ指標を別の角度から扱っている。



