日本企業の「AI疲れ」と進む二極化
翻って日本企業の多くは、AI導入で実利を出せない焦燥感、いわゆる「AI疲れ」を抱えている。背景にあるのは、AI投資を「既存業務の効率化ROI」、すなわち人月削減÷ライセンス料で評価する旧来の稟議フレームだ。個々の作業をAIで短縮しても、人間が1日8時間働くことを前提に組まれた業務フローを変えなければ、組織全体のアウトプットへの寄与は限定的になる。効率化のレンズで測れるAI効果には、構造的な天井がある。
そして、同じ組織の内側では、もうひとつの現象が進行している。「使いこなす層」と「使わない層」の二極化である。実は当社でも、社内のトークン消費にはヘビーユーザーとライトユーザーで約33倍の格差がある。
ヘビー層は「既存業務を速く」やっているのではない。従来は複数の専門職で分担していた業務をAIと組んで一気通貫させ、人手では着手しきれなかった種類のアウトプットを生んでいる。「トークンを多く使う人ほど多くの価値を生む」という相関が観察され始めているのだ。この構図は当社が支援する企業においても観測される。従来は調査・分析・資料化を複数の担当者が数日がかりで回していた業務を、ヘビー層はAIエージェントと組みひとりで一気通貫させる。効率化の物差しなら「何時間削減できたか」で終わるが、実際に起きているのは、人員と時間の制約で従来は着手すら見送られていた分析の量と粒度が跳ね上がることである。
これらの観察を統合すると、新しい経営指標の輪郭が浮かぶ。「トークン生産性」、すなわち粗利などのアウトプット価値を、それを生むのに費やしたトークン額で割った比率である。効率化ROIが時間や人月を分母にとるのに対し、トークンを分母にすれば、「AIで初めて可能になったアウトプット」も分子に乗ってくる。
効率化ROIのレンズで見続ける限り、AIの本質的な経営価値も、社内で進む二極化もとらえにくい。自社のAI利用が分子拡大の局面にあるのか、分母最適化の局面にあるのか。その問いをトークン単位で立て直すところから、AI時代の経営判断は始まるといえそうだ。

うえだ・ゆうと◎東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻(松尾豊研究室)修了。YCP Solidiance、松尾研究所を経て2023年にGenerativeXを共同創業。金融・製薬・製造など大手企業向けに生成AIを活用した業務改革とAIエージェント開発を主導。


