AIはマーケティングに奇妙な変化をもたらした。ほんの数年で、私たちは「必要なものをどう作るか」から「作ったものすべてをどう管理するか」へと問いを変えることになった。
マーケターの多くは、自社ブランド名で発信されているのに一度も目にしたことのないコンテンツに偶然出くわす、という経験をしたことがあるだろう。少し調べてみると、誰かが急ぎで何かを必要とし、自分で手早く作成したものが、どこかで取り上げられて投稿されたり、さらに悪いことにはテンプレートとして再利用されていたりしたことが判明する。
AIはこの問題を増幅させる。現在では、バナーやコピー、さらには営業資料を作成するのに専門的な技術(ハードスキル)は必要ない。時間が経つにつれて、これはブランドアイデンティティの希薄化を招き、気づかないうちにブランドボイスやビジュアルアイデンティティがバラバラになってしまう恐れがある。
ルシッドプレス(Lucidpress)による2021年の「ブランド一貫性の現状レポート」(自動ダウンロード)によると、77%の企業がブランド基準から外れたコンテンツに悩まされており、回答者はブランドの一貫性が保たれれば売上が10〜20%増加すると見積もっている。AIはこのギャップにさらなる乗数効果を加えているのだ。
これに対処する方法はいくつかある。もちろん、最高マーケティング責任者(CMO)として、コンテンツ制作の基準を浸透させ、全員を自分の目の届く範囲に置くこともできる。しかし現実的に考えよう。スタートアップであれ大企業であれ、それが機能する可能性は低い。往々にして、前者は変化が早すぎて厳格な構造になじまず、後者は規模が大きすぎて管理が煩雑になる。また、マーケティング部門と他チームとの間に摩擦を生む原因にもなりかねない。
非マーケター向けのブランドガイドラインの明確化
では、自チーム以外の人間を管理することが流れに逆らって泳ぐように感じられる場合、他に何ができるだろうか。
ブランドガイドラインを読んでもらうことは役立つかもしれないが、全員が50ページに及ぶ資料に目を通し、ましてやそれを覚えて従うなどということはまず期待できない。したがって、よりコントロールしやすい変数に働きかけるのが最も合理的であり、それはブランドガイドラインを見直す時期が来ていることを意味する。
ほとんどのチームが必要とするのは、ガイドラインのごく一部にすぎない。例えば、営業チームが必要とするのはおそらく営業資料やメールのテンプレートだけだろう。コミュニティ管理チームが処理する問い合わせの90%は、2ページのFAQに要約できる可能性が高い。
これらすべての資料をカテゴリごとに分類し、必要なテンプレートを各チームに提供することは、社外への情報発信の大部分でブランドの安全性を担保するのに役立つだけでなく、社内組織におけるマーケティングチームの役割を再確立することにもつながる。
AIプロンプトもブランドガイドラインの一部
AI支援のワークフローがコンテンツ制作ラインの中心的な位置を占めるようになるにつれ、ブランドのドキュメント内でAIプロンプトが記載されるケースが増えている。AIの回答は入力(プロンプト)の品質に依存する。営業チームのメンバーが顧客への返信メールの作成をAIに依頼する際、トーン&マナーのガイドラインを提示すべきであることに気づかないかもしれない。だからこそ、プロンプトもブランド管理という同じ議論の一部となる。
状況がコントロールできなくなる前に、AIポリシーを策定しておく価値はある。そこには、従業員がどのソフトウェアを使用するか、個人アカウントか共有のビジネスアカウントか、大規模言語モデル(LLM)にどのような情報を入力するかなど、AIに関するすべての事項を含めるべきだ。その理由は、マーケティングの領域をはるかに超えて重要である。
どのような秘密保持契約(NDA)に署名させ、個人データの取り扱いについてどれほど頻繁に指導していても、従業員は意図的かどうかにかかわらず、機密情報をLLMに入力してしまう可能性がある。ビジネス用の集中管理されたアカウントであれば、プライバシー設定やデータ保存ポリシーを構成できる。全員に好きなものを自由に使わせてしまえば、個人データを漏えいリスクにさらすことになる。
同時に、テンプレートやプロンプトで解決できるのは、すでに想定されていることだけだ。単発の依頼や突発的な投稿、どのカテゴリにも当てはまらない判断が必要な案件は、最初にそれに対応した人の裁量に委ねられてしまう。したがって、より根深い問題はブランド管理だけでなく、組織構造にある。
組込み型マーケティング
マーケティングチームの構造は、企業の規模やビジネスモデルによって異なる。多くの国で事業を展開している場合、地域ベースの構造を採り、各チームがブランド全体のガイドラインの上に独自のガイドラインを重ねていることもある。これは異なる業種やニッチ分野でも同様だ。しかし、すべての依頼を一手に引き受けるワンストップショップとして、集中型のマーケティング部門を置くことの方がはるかに一般的だ。
パンフレットのコピー作成やプレゼンテーションの制作に専門的なスキルが必要だった時代には、これは非常に理にかなっていた。しかし今日では、誰でも実用最小限のコンテンツを作成できる。明確な責任(オーナーシップ)が定義されていないと、人々は往々にして独自の判断で行動するようになり、AIはその分裂を加速させるだけだ。
複数のライターやデザイナー、その他のマーケティングスペシャリストがいる場合は、彼らを各チームに割り当て、チームリーダーに紹介するとよい。各部門にマーケティング担当者を配置し、曖昧さを排除することで、こうした横のつながりを構築するのだ。日頃から一緒に仕事をしている相手がいれば、Slackのチャンネルにメッセージを投稿して自分のタスクが拾い上げられるのを期待する(という、ついスキップしたくなるステップを踏む)よりも、直接相談しやすくなる。
再定義されるブランド・オーナーシップ
誰もがAIツールを使ってコンテンツを量産できるようになったことは、マーケティングリーダーに新たな課題をもたらしている。それはブランドのオーナーシップを定義することだ。全員がコンテンツ発信に関わるようになると、CMOやブランドマネジャーの権限は四方八方から問われることになる。ここでの教訓は、オーナーシップは緩めるべきではなく、より明確に定義すべきだということだ。
ここにおいて、マーケティングリーダーが自らの立場を堅持することが極めて重要になる。一度妥協を始めると、基準は曖昧になり、品質の基準値(クオリティバー)が低下するからだ。ブランド認知の指標を測定することは極めて難しく、コストもかかる。そして、それを修復するにはさらに膨大なコストが必要となるため、何かが変化してしまっていることに気づいた時にはすでに手遅れ、ということになりかねない。
先手を打つということは、こうした時代の流れを見極め、誰も疑いを持たないうちに自らのオーナーシップを確立しておくことを意味する。もし自社のブランドブックに品質基準に関する記述や、チェックリスト、その他の透明性の高い品質基準への言及が含まれていないのであれば、今がそれを追加すべき時かもしれない。そうすれば、困難が生じる前に基準が明確になる。誰もがコンテンツクリエイターのようになれる時代だからこそ、マーケターの仕事はかつてないほど精査され、疑いの目を向けられやすいのだ。



