大半のCEOはAI(人工知能)を最優先の戦略課題に掲げているが、組織内での実際の行動スピードはそれとは異なる現実を示している。これまで進められてきた取り組みの多くは孤立した形で行われ、単一のユースケースを検証する一回限りの実証実験(パイロットプロジェクト)に終わっている。その結果、実際のワークフローやワークフォース(労働力)・オーケストレーションを伴わないまま、多様なベンダーがAIエージェントを提供する状況が生まれている。投資は一定のペースで流れ続けているが、それに見合うだけの、仕事の進め方そのものを再設計するという戦略的コミットメントは伴っていない。
結果として残るのは、当初の優先課題が生み出すはずだった運用面での学びもROI(投資対効果)も生まない、断片的なパイロットの寄せ集めだ。そして、このパターンが繰り返される理由は、次第に明確になってきている。
現在の企業AI導入における支配的なアプローチは、私が「エージェントを貼り付けるだけ」と呼ぶものだ。ワークフローを特定し、そこにエージェントを投入し、チームに結果を測定させる。このアプローチは失敗し続けているが、私の経験では、それは技術が未熟だからではなく、問いの立て方が間違っているからだ。企業はAIを「テクノロジーに関する決定」として扱っているが、実際には「労働力に関する決定」なのである。ここから導かれる示唆は、必要な作業はベンダー選定ではなく、オペレーティングモデル(事業運営体制)の再設計だということだ。
以前にも見たパターン
地上波放送(テレビ放送)から動画ストリーミングへの移行を考えてみよう。初期の時代には、3大ネットワークが、何億人もの人々が何をいつ見るかを決定していた。そのビジネスモデルは、テレビの前に縛り付けられた視聴者、決まった時間帯の広告、そして限られた番組カタログを前提としていた。
その後、消費者が変化した。人々がエンターテインメントに求めるものや、それに関わる方法が変わり、業界全体の財務モデルもそれに伴って変化した。私の観察によれば、この変化を早期に察知し、新たな消費者の現実に合わせてビジネスを再設計した企業が現在その分野を支配している一方で、古い放送モデルにストリーミングを追加しようとしただけの企業の多くは衰退している。
今、AIについても同じことが起きている。業界に求められる仕事は変わり、その仕事の提供方法も変わった。そして私は、新たな現実に合わせて再設計するリーダーこそが、このカテゴリーで勝利すると考えている。
決定的な違いはそのペースだ。放送からストリーミングへの移行には、少なくとも10年の歳月がかかった。一方、AIへの移行は数四半期単位で進んでおり、テクノロジーの進化スピードと、企業の導入スピードとの間のギャップこそが、早期に取り組んだリーダーたちにとっての競争優位性をさらに強固なものにしている。
なぜAIが「テクノロジーの決定」ではなく「労働力の決定」なのか
ハーバード・ビジネス・スクールで最も影響力のある2人の識者が、この春、6週間の間に同じ核心的結論に至った。すなわち、「AIはテクノロジーに関する決定ではなく、労働力に関する決定である」というものだ。彼らは異なるアプローチからこの結論に到達したが、大半のリーダーは依然としてその含意を見落としている。
カリム・ラカニは、Microsoftの「2026年版ワークトレンド・インデックス」の序文を執筆した。彼の主張は構造的なものだ。「仕事はもはや人、プロセス、アプリケーションを中心に組織されていない。代わりに、人、AIエージェント、そしてそれらをつなぐシステムをまたいで組織されている」。仕事の分担方法、判断の分配方法、専門知識の体系化方法を変えないパイロットは、予算が想定するリターンを生み出す可能性は低い。
リンダ・ヒルは、8000人以上のリーダーを対象とした調査に基づき、ポッドキャスト番組「The Parlor Room Presents Hello AI」でこれに関連する主張を展開した。AIで真の進歩を遂げている組織は、彼女が「ブリッジャー(架け橋となる人材)」と呼ぶ存在、すなわち「組織の境界を越えて活動できる」専門知識を持った人々を育成している。私の経験上、変革を推進するリーダーとは、ほぼ例外なく部門の枠を越えて動き、通訳としての役割を学び、曖昧な状況を切り抜けるために必要な信頼を勝ち取ってきた人々である。そしてヒルは、この能力は一朝一夕で大量に採用できるものではなく、何年もかけて培われなければならないものだと明言している。
AIによる変革は、テクノロジーの階層で勝負が決まるのではない。それは労働力の階層で決まるものであり、そこで必要とされる作業こそがオペレーティングモデルの再設計なのだ。
実践における具体像
労働力の組織デザインこそが、本来行うべき作業である。私の経験上、そのためには社内のあらゆる機能を次の3つの問いに照らし合わせて検証する必要がある。
1. どの役割を完全に人間にとどめておくべきか?これは、他人に委ねることのできない判断、信頼、人間関係に依存する業務である。
2. どの役割をデジタルワーカーに任せることができるか?これは、反復的で、データ集約型であり、明確な成果に対して定義可能な業務である。
3. どの役割をハイブリッドにすべきか?ハイブリッドなシナリオでは、人間とデジタルワーカーがひとつのチームとして機能する。その際、業務の引き継ぎプロセスは前提とされるものではなく、設計されなければならない。そしてその背景には、このハイブリッドな労働力を率いる人間が適用し続けなければならないコーチングや管理の戦略が存在する。
私の会社における以下の事例を考えてみてほしい。当社の「デジタル・インテリジェンス・アナリスト(DIA)」プログラムは、私の週次のCEOブリーフィング(経営報告)を作成するために、複数のフェーズにわたって数十のAIエージェントを連携させている。このプログラムは15のシステムからリアルタイムデータを抽出し、出力ごとに3つの独立した品質監査を実行して、私の要求に応じてそれを提供する。かつてはチーフ・オブ・スタッフ(参謀長)とアナリストチームが数週間かけて行っていた業務が、今ではオンデマンドかつ検証済みの状態で手に入る。当社のDIAが機能しているのは、人間のチームメンバーがその職務記述書(ジョブディスクリプション)を書き、成果を定義し、KPIを設定し、毎週コーチングを行っているからである。それこそが、本当に重要な仕事なのだ。
リーダーに求められるのは、大規模な変革プログラムではなく、単に一歩を踏み出す意志である。ビジネスにおいて重要となる成果を1つ選び、その成果に沿ってデジタルワーカーを導入できる経験豊富なパートナーを見つける。そして、人間の採用候補者を管理するのと同じ規律を持って、既存のブリッジャーの1人にその結果の管理を担当させるのだ。最初のデジタルワーカーは、次に導入する10人のデジタルワーカーに何が必要かを組織に教えてくれるだろう。
おわりに
今後5年間でAIの恩恵を受ける企業は、AIに最も多く支出する企業ではなく、AIが単に導入すべきツール以上のものであり、「設計すべき労働力」であることにいち早く気づいた企業であると私は確信している。
知能はコモディティ化しつつある。オーケストレーションこそが堀(moat)となるのだ。



