次なる企業変革は、単なる新たなテクノロジーの導入ではない。それは企業がどのように機能するかというオペレーティングモデルの再設計である。ERP、サプライチェーン、データ、AI、セキュリティは、ビジネス上の意思決定を「背景の理解」から「実行」へと移行させるために連携し、すべての段階で明確な所有権(責任体制)が確立されて初めて価値を生み出す。
長年、変革は技術的なマイルストーンによって評価されてきた。すなわち、ERP(統合基幹業務システム)の導入、クラウドへの移行、あるいはデータプラットフォームの構築などだ。これらのマイルストーンは現在も重要だが、それだけでは不完全である。システムが予定通り、予算内で稼働したとしても、意思決定が遅いままであったり、データの信頼性が疑われていたり、業務が依然として手作業による引き継ぎに依存していたりすることがある。テクノロジーは変わったが、オペレーティングモデルが変わっていないのだ。筆者は最近のForbesの記事『People, Process, Technology And The Shift Nobody Saw Coming(人とプロセスとテクノロジー、および誰も予想しなかったパラダイムシフト)』の中で、テクノロジーは変革を推進するかもしれないが、そのテクノロジーを動かすのは人であると論じた。AIは今、次の問いを突きつけている。テクノロジーが意思決定や実行に関与し始めるなか、企業はどうあるべきなのか。その答えは、システム、意思決定権、統制、および人間の判断をリンクさせる単一のオペレーティングモデルの構築である。
開示事項:KramerERPは、本稿で取り上げるERPやデータベンダーを含むテクノロジー企業に対し、有償のリサーチ、アドバイザリー、コンサルティングサービスを提供している。
エンタープライズシステムが「System of Record(記録のためのシステム)」から「System of Action(実行のためのシステム)」へと移行するにつれ、オペレーティングモデルの再設計の必要性は高まっている。これらのモダンなシステムは、例外処理を検知し、次のステップを推奨し、ワークフローを起動させ、アプリケーションをまたいでタスクを実行できるようになった。マッキンゼーが2025年11月に発表した「AIの現状(State of AI)」レポートによると、現在、10組織中およそ9組織が少なくとも1つの部門でAIを導入しているが、その大部分が企業全体のEBIT(利払い前・税引き前利益)に大きな影響は見られないと報告している。同レポートにおいて、AIから価値を引き出している少数の優良企業(トップパフォーマー)は、2つの重要な習慣を実践している。それは、ワークフローを最初から最後まで再設計すること、および経営幹部にAIガバナンスの責任を割り当てることだ。ここから得られる最大の示唆は、AIを単に追加するだけでは、ビジネスのやり方は自動的には変わらないということだ。
ERPは記録管理から「統制された実行」の段階へ
長年にわたり、ERPシステムは財務、調達、製造、人事における取引管理に不可欠な役割を果たしてきた。しかし、多くのプロセスは依然として手作業での引き継ぎやスプレッドシートに依存している。請求書の例外処理は、適切な担当者に通知されなかったために未解決のまま放置されることがあり、財務部門は決算前にデータの照合に何日も費やすといった状況が起きている。
最新のERPプラットフォームは、例外処理を検知し、次のステップを提案し、統制されたワークフローを開始することで、こうした遅延を削減できる。債権回収業務においては、AI支援プロセスが支払い履歴、顧客価値、リスクに基づいて未回収口座をランク付けし、対応策を推奨して、高リスクの案件を自動的にマネージャーに割り当てることができる。すべての口座を画一的に扱う必要はなくなるのだ。
ERPの役割は「取引の統制」である。定型的な業務は管理されたワークフローを通じて処理し、重大な例外処理のみを人間の判断に委ねるべきだ。企業が承認基準を設定し、その結果に責任を持つ一方で、ERPはこれらのルールを厳格に適用する。筆者が『AI Is Changing ERP, Not Replacing It(AIはERPを変革する、代替するのではない)』で述べたように、AIはERPを加速させることはできるが、取引の信頼性を保証するための統制やデータの規律を置き換えることはできない。
サプライチェーン:可視性を意思決定につなげる
大半の組織は、在庫、サプライヤーのパフォーマンス、遅延、需要などを以前よりも明確に把握(可視化)できている。しかし、意思決定ロジックを伴わない可視化は、単に問題を「より高解像度で見せる」だけにすぎない。
サプライチェーンの具体的な役割は、計画と物理的な実行をつなぐことだ。供給不足が発生した際、連携されたオペレーティングモデルは影響を受ける注文を特定し、各拠点の在庫を確認し、代替案のコストを算出して、顧客の優先順位や業務への影響に基づいて対応策を推奨することができる。
計画担当者や調達チームは、経験や判断を要する例外対応を依然として解決しなければならないが、その判断材料を手作業で集める必要はないはずだ。計画と実行が一つのプロセスとして機能すれば、調整が円滑になり、在庫切れ、緊急輸送コスト、復旧時間を削減できる。筆者は『Why Sports Has Become a Blueprint for Real-Time Enterprise Execution(スポーツがリアルタイムな企業実行の青写真となる理由)』でも同様の指摘をした。NFLのNext Gen StatsやMLBのStatcastは、組織が「誰が行動すべきか」「何を決定すべきか」「どれだけ迅速に実行できるか」を理解して初めて、リアルタイムの可視化が価値を持つことを示している。
「信頼できるデータ」が業務上の必須要件に
あらゆるビジネスの意思決定は明確な定義に依存しているが、多くの組織は依然として重複するデータレコードや不透明なデータ所有権という課題に直面している。ERP、顧客プラットフォーム、サプライチェーンシステムで、それぞれ「顧客」の定義が異なるという事態が起きている。この問題は技術的な要因だけでなく、誰が定義を所有し、どのように不一致を解消するかについて、合意が形成されていないことに起因する。
AIがこうしたデータレコードに依存して推奨やアクションを行うようになると、リスクはさらに増大する。AIはデータを迅速に処理できるが、定義の不一致を解決することはできず、これが混乱やエラーを招く原因となる。背景にある文脈が不確実であるにもかかわらず、あたかも信頼性が極めて高いかのような推奨を提示してしまう可能性があるからだ。
データは重要な文脈を提供する。明確な定義、所有権、品質基準、およびソースデータの修正を行うことで、ERP、サプライチェーン、AIのシームレスな連携が可能となり、実行のための信頼できる基盤が構築される。ガートナーは2026年のレポートで、AIイニシアチブを成功させている組織は、成果の低い組織に比べて、データの品質、ガバナンス、AIに対応できる人材、チェンジマネジメント(変革管理)に対して最大4倍の投資を行っていると報告した。基盤構築はAIの価値創出と切り離されたものではなく、その価値を継続的に再現するための不可欠な要素なのだ。
AIに求められるのは実験ではなく「意思決定権」の定義
初期のエンタープライズAIの取り組みは、コンテンツ生成、文書要約、情報検索の支援に焦点を当てていた。それらの用途は生産性を向上させるが、より本質的な段階は、AIがシステムを横断して情報を評価し、ワークフローの手順を調整し、ERP、サプライチェーン、顧客プロセス内で実際に行動を起こすようになったときに始まる。
AIの主な機能は、情報の解釈と行動の調整である。ここで重要な問いは、AIエージェントに何ができるかだけでなく、「誰が、誰の代わりに、どのような制限の下でそれを承認するか」ということだ。組織は、エージェントがどのデータにアクセスできるか、何を推奨できるか、何を実行できるか、どのような場合に承認が必要か、そして実行されたアクションをどのようにレビューまたは取り消す(ロールバックする)ことができるかを定義する必要がある。米国国立標準技術研究所(NIST)のAIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)および生成AIプロファイルでは、ガバナンス、明確に定義された役割、人間の監視を運用要件としている。AIは業務を実行することはできても、その結果に対する責任(所有権)を持つことはできない。
自動化されたすべての行動に「セキュリティ」を追随させる
企業のセキュリティは、伝統的にアプリケーション、ネットワーク、ユーザーアカウントに焦点を当ててきた。これらの統制(コントロール)は依然として不可欠だが、AIエージェント、サービスアカウント、自動化されたワークフローは、わずか数秒で複数のプラットフォームを横断する一連のアクティビティを創出する。
アイデンティティ(ID)の盗用、過剰な権限付与、または不適切に設計されたワークフローは、データの改ざん、取引の開始、部門を超えた情報漏洩を引き起こす可能性がある。そのため、セキュリティは、どのIDがデータにアクセスしたか、どの権限が使用されたか、その後にどのようなアクションが実行されたか、そして必要な承認が得られていたかを追跡できなければならない。
セキュリティの重要な役割は、一連のチェーン全体で「最小権限の原則」、承認プロセス、および追跡可能性(トレーサビリティ)を強制することだ。機密性の高いアクションは、該当するタスクのみに制限され、レビュー用に記録され、チームが停止または取り消すことができるように設計されるべきである。この統制があって初めて、企業は許容できないリスクを負うことなく、財務、業務、顧客向けのプロセスにおいて、安心してAIを活用できるようになる。
オペレーティングモデルを設計し、責任を持つのは「人」
サプライヤーの遅延に直面した製造業の例を考えてみよう。AIは影響を受ける注文を特定し、在庫の移動を推奨する。ERPは購買管理を適用し、サプライチェーンシステムは生産への影響を評価し、セキュリティはエージェントが実行できる処理を決定する。しかし、どの顧客を優先させるか、誰が購買を承認するか、どのような場合にシステムの自動処理をオーバーライド(手動で上書き)すべきかを決定するのは、依然として人間である。そこでオペレーティングモデルの真価が問われるのだ。
人ならではの独自の役割とは、判断を下し、疑義を唱え、説明責任を果たすことだ。マインドセットは重要だが、それはテクノロジーやガバナンス、プロセス設計の代わりになるものではない。リッキー・カルモンは、マインドセットを「頭の中にあるソフトウェア」と表現している。従業員は、推奨事項を評価し、例外処理に対応し、状況に合わない場合にはシステムに疑問を投げかける準備を整えておく必要がある。筆者が『ERP Shifts to Industry 5.0 to Enable Smarter Human-Centric Operations(スマートで人間中心のオペレーションを実現するインダストリー5.0へのERPの移行)』で述べたように、肝心なのは協働である。テクノロジーがより定型的な業務を担うことで、人は判断や例外処理に集中し、戦略的な役割へとシフトしていく。人は依然として設計の中心であり、システム導入後に「余った部分」を埋めるだけの存在ではない。
企業のリーダーが今すぐ取り組むべきこと
最も有用な設計単位は、アプリケーションではない。「意思決定」である。請求書の処理エラー、供給の混乱、顧客の与信変更など、遅延や例外処理のコストが目に見えて発生している一つのプロセスから始めよう。必要なデータ、システムのアクション、責任者、承認基準、例外処理のルート、そして監査証跡を、最初から最後までマッピングするのだ。
すべてが順調に進む場合だけでなく、困難なシナリオをテストしよう。データに不一致が生じたとき、承認が遅れたとき、あるいは誰かがシステムを手動でオーバーライドしたとき、何が起きるだろうか。導入したAIエージェントの数ではなく、処理サイクルの迅速化、例外の減少、コスト削減といった具体的な成果(アウトカム)に焦点を当てるべきだ。
一つの意思決定から始め、その効果を実証し、そこから拡大していく。目標は着実な前進であり、一晩での完全な自律化ではない。多くの企業にとって、今ただ待つことは、近代化を進めることよりも大きなリスクを伴う。
当面のより差し迫ったリスクは、リアルタイムのコンテキスト、統合、あるいは統制された実行を提供できない、寸断されたプロセスや老朽化したシステムの上にAIを重ねてしまうことだ。ガートナーは、2026年までに、AIに対応したデータを持たない組織のAIプロジェクトの60%が頓挫すると予測している。また、RAND研究所の調査によると、企業のAI導入の失敗率は80%を超えており、これは従来のソフトウェアの約2倍に達する。その原因として、モデル自体よりも、脆弱なプロセスや意思決定構造が指摘されることが多い。この予測はすでに現場で顕在化している。S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスの調査では、本番環境への移行前にAIイニシアチブの大部分を断念する企業の割合が、前年の17%から42%に急増したことが明らかになっている。
オペレーティングモデルの再設計こそが「変革」である
ERP、サプライチェーン、データ、AI、セキュリティは、それぞれ別個の変革の目的地ではない。これらは一つの運用環境を構成する要素なのだ。意思決定はデータから始まり、AIによって評価され、ERPを通じて実行され、サプライチェーンに影響を及ぼし、そのプロセス全体にセキュリティ管理(統制)が必要となる可能性がある。
ベンダーは、統合、アイデンティティ管理、監査可能性、および意思決定の統制を容易に導入できるよう支援することはできる。しかし、業務そのもの、意思決定権、およびビジネスが許容する自律性のレベルを定義しなければならないのは、依然として顧客(導入企業)側である。業務の進め方を変える意思のない組織を救ってくれるプラットフォームなど存在しない。
次なる章は、企業が「信頼できる文脈(背景)」を「統制された実行」へと転換できるかどうかで決まる。そのためには、部門を超えて機能するテクノロジーと、それを管理し、疑問を投げかけ、改善していく心構えのできた人材が必要である。テクノロジーは変革を推進するかもしれない。しかし、その結果を左右するのは、依然として人なのである。



