Forbes JAPAN 2026年9月号の第2特集は、「新時代のCFO」。「金庫番」から、企業価値を未来へ導く「先導役」へ。今、CFO の役割は劇的な進化を遂げている。無形資産への投資とリターンの可視化、革新的な資金調達、規律あるM&Aなど、日本経済の変革を牽引する「新時代のCFO」の挑戦に迫る。一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻(一橋ICS)客員教授の加藤寛之に、CFOのあるべき姿について聞いた。
投資家は経営陣を評価するとき、CEOだけを見ているわけではない。むしろ、CEOの隣にどのようなCFOがいるのか、その関係性に企業価値創造の本質が表れることも少なくない。その観点から私が特に注目しているのがソニーグループである。
2010年前後のソニーは厳しい状況にあった。テレビをはじめとするエレクトロニクス事業は韓国勢や台湾勢との競争激化にさらされ、長年ソニーを支えてきた事業の収益性は大きく低下していた。投資家の間でも、「ソニーは復活できるのか」という議論が真剣に行われていた。
そのなかで平井一夫氏がCEOとして再建を進め、その隣にはCFOの吉田憲一郎氏がいた。両氏は単なるコスト削減ではなく、事業ポートフォリオそのものの見直しに着手した。撤退すべき事業からは撤退し、投資すべき領域には資本を振り向ける。ゲーム、音楽、映画、イメージセンサーといった成長分野への投資を進めることで、エレクトロニクス中心だったソニーを大きく変革していったのである。これはまさに、CFOが財務責任者ではなく経営者として機能した事例だ。
一方で、吉田氏は守りだけではなく攻めの資本配分も推進した。音楽事業では、マイケル・ジャクソン関連の音楽著作権への投資を継続し、その後はEMI Music Publishingの買収にも踏み切った。音楽業界がCD販売からデジタル化への転換期を迎えていた当時は、必ずしも市場参加者全員がその価値を理解していたわけではなかった。しかし、結果として、現在のソニーの音楽事業は同社を代表する収益基盤のひとつとなっている。
撤退すべき事業を見極めることも重要だ。しかし、それと同じくらい重要なのは、将来の成長領域に大胆に投資することである。撤退と投資。守りと攻め。この両方を担うことこそが、CFOの役割である。



