1666年の創業以来、時代の変化を先読みし、木炭から打刃物、工作機械、そして住環境へと事業を大胆に変革・拡大してきたYUASA。創業360周年という節目を迎えた今、18代目社長の田村博之(現・会長)、新たにバトンを受け継いだ19代目社長の村山英明、「価値主義」を掲げて企業変革に伴走するカクシンCEO・田尻望が、AIを超える「人の提供価値」と、持続的な成長を支える組織変革の本質に迫る。
カクシン CEO 田尻 望(以下、田尻):私たちカクシンは「付加価値経営」と「感動こそ価値の源泉」を掲げています。あらゆる事業の最終目的は、人の心を動かす「感動」を生み出し続けることにあるからです。
BtoC、BtoBを問わず、最終的に価値を評価し、意思決定を下すのは血の通った人間です。人は何に幸せを感じ、投資するのか。その根幹にあるのは、理屈や数字を超えて感情が揺さぶられる「身体感覚」、すなわち感動です。
YUASAさまとは、私たちが提供している研修プログラムを通じてご縁をいただいております。創業360周年を迎えられた社の歴史は、まさに市場の潜在的な感情を捉え、多様な価値を「つなぐ」ことで社会に感動を届け続けてきた軌跡そのものだと確信しています。
YUASA 代表取締役会長 田村博之(以下、田村):その哲学は、我々の根底に流れるDNAと深く共鳴します。私の前任者である17代目社長は「老舗は常に新しい」と語っていました。過去の歴史や伝統に甘んじてしがみつくのではなく、常に時代の先を読み、新しくあり続けるからこそ、結果として「老舗」と呼ばれるのです。
1666年に京都で木炭商として創業したYUASAは、わずか5年で打刃物の世界へ舵を切りました。そのほうが市場において存在意義があり、新たな驚きを生み出せると考えたからです。そこから工具、工作機械、住宅環境、建築へと事業領域を広げ、時代のニーズを捉えながら自己変革を繰り返してきました。
田尻:木炭から始まり、広範な産業インフラまでを網羅するほどの長期にわたる大胆な変革は、単に顧客の要望に応えるだけでは実現できません。YUASAさまが非連続な事業領域の拡大を成功させてきた背景には、構造的な「先を読む力」と、独自の市場の捉え方があったはずです。
田村:私は「常にマーケットを見なさい」と言い続けています。BtoBのビジネスでは、目の前の顧客である企業の要望に応えていくわけですが、その顧客の需要はさらにその先にいるエンドユーザーの動向によって大きく左右されます。
だからこそ、我々は顧客の背後にある市場そのものを俯瞰しなければ勝負になりません。そこで、皆様にとって分かりやすく、かつ自分たちも戦略を描きやすくするため、前中期経営計画において、それまでの専門的な7つの事業セグメントを、「モノづくり」「すまいづくり」「環境づくり」「まちづくり」という4つのビジネスフィールドへ再編しました。
YUASA 代表取締役社長 村山英明(以下、村山):新中期経営計画「Reborn 2031」では、「環境づくり」を全事業の共通基盤へと位置付けました。そのうえで、介護や食品、農業など生活に直結する新市場を「くらしづくり」と定義し、重点的に拡大しています。
私たちが日々向き合う各地域に根ざす企業の皆様は、国内市場の縮小や人手不足という課題に直面しています。
そこで我々YUASAがその企業の総合力発揮の一翼を担い、従来の「特定の商品を特定の市場へ届ける」という1対1の商いを超え、異なるメーカーの機械同士をつなぐ工場のコーディネートや省エネ・再エネ・創エネ・ワンストップソリューションなど一気通貫で経営課題の解決に貢献していきたいと考えています。さらに、データセンターや造船といった今後の成長市場にも、当社の総合力を武器に積極的に展開していく覚悟です。
マーケットアウトの思想とリアルな接点の進化
田村:我々の「マーケットアウト」という思想は、私が社長時代に商社の生き残りを議論するなかで導き出した概念です。世の中には「今、市場にないから既存のもので我慢しよう」と諦めているエンドユーザーが多く存在しますが、その胸の内には「本当はこんなものが欲しい」という潜在的な思いがあります。その“今はないもの”を実現するために我々がハブとなり、一社では実現できないソリューションを多様なネットワークでコーディネートしていく。これが実現できれば、我々の存在意義はおのずと確立されるはずです。
村山:この思想を現場で体現するため、カクシンさんに研修をお願いし、組織のなかで付加価値を共通言語にする仕組みを導入しました。
単にモノを右から左へ流す「モノ売り」の発想から脱却し、その商品やサービスがお客様にどのようなベネフィットをもたらし、どう感情を動かすのかを、営業一人ひとりが直接お客様と対話するなかで引き出し、提案に組み込んでいく。この研修を一部門からスタートしたところ、すでに売上や利益率の向上という定量的な成果として表れ始めています。
田尻:まさにそのマーケットアウトの精神、そして「人が喜ぶものを提供する環境をつくる」というYUASAさまの姿勢が最も表れているのが、御社主催の「グランドフェア」だと思います。巨大な工作機械が動く様子を目の当たりにした時の理屈抜きの感動や熱気。
それらを全身で体感できるのが「グランドフェア」という空間の醍醐味です。やはり、感動はリアルな場における「身体感覚」からしか生まれません。
村山:我々が全国で開催している「グランドフェア」は、お客様が最新の様々な分野の機械や技術を五感で実体験できる、国内でも類のない場だと考えています。
かつては注文書をいただく「即売展示会」の色合いが強く、半ばお祭りのような雰囲気で運営していた時代もありました。
そこから約15年前に、将来の市場を提示する「テーマゾーン」を設けたことでマーケットアウトへの転換を図り、これからは単なるプロモーションや販売の場にとどまらず、まだ見ぬお客様との出会いや最新技術に触れていただく場、新たなニーズをその場で結び付ける「共創の結節点」へと役割を広げていきます。
具体的には、これまで接点のなかった方々にも、まずこの”実体験の場”に足を運んでいただく入口として、SNSなども活用していきます。
カクシンさんの研修を経て我々が再認識したのは、まさに「お客様と直接話すことは、ニーズや課題の宝の山である」ということです。だからこそ、この「グランドフェア」というリアルな接点を重視しています。
未来を切り拓く「横串の組織」改革
田村:国内で進化させてきた「グランドフェア」を、2025年にタイで初開催しました。これは単なる海外展示会ではなく、我々の総合力を現地で面展開するための強い意思表示です。
これまでは日系製造業の海外進出に合わせ、「モノづくり」の領域を中心に事業を展開してきましたが、それだけでは限界があります。そこで、住設や建材など国内のリソースを融合させ、日本で培った総合力をタイでも再現することを目指したのが、現地の富裕層向け住宅を丸ごと一軒改装した「YUASA SAKURA HOUSE」プロジェクトです。
村山:SAKURA HOUSEでは、日本製の優れた住宅設備や建材を空間に取り入れ、日本の住文化を体感できるようにしました。
例えば、タイは非常に湿気が多いため、日本の珪藻土の壁が注目されています。さらに、現地ではじめて見えてきた切実な困りごともありました。現在、タイでは密閉性の高い日本製の物置が数多く購入されています。その背景には、隙間から蛇などの小動物が侵入することで物置内の糞尿被害などの困りごとがあったのです。こうした理屈やデータだけでは見えてこない思いに寄り添うことが、新たな市場の開拓につながります。
田尻:単にモノを右から左へ流す「モノ売り」ではなく、技術を組み合わせ、リアルな悩みに対するソリューションや住文化そのものを提供する「コト売り」の実践ですね。
YUASAさまが掲げる「モノづくり」から「くらしづくり」に至る社会課題解決ビジネスの本質も、まさにここにあります。スペックを競うだけの「モノ売り」はECサイトや他社に代替されますが、市場のペインに深く入り込み、解決策をパッケージとして提供する「コト売り」は、他社が容易に真似できない強固な参入障壁になります。
村山:私が常日頃感じているのは、これからは点と点を単につなぐだけの商社ビジネスでは生き残れないという危機感です。「つなぐ」ことを方法論としつつ、その先にある「価値をつくる」領域にまで踏み込まなければ、存在意義はありません。
私たちが目指すのは、お取引先様と一丸となり、つなぐ力を原動力にして新たな価値を「つくる」ことです。ここには3つの意味を込めています。無形の機能やサービスを「創る」、有形の製品・システムを「作る」、そして大きなまちや暮らしを「造る」。この3つの「つくる」です。
これを実行するため、組織の抜本的な改革を行いました。 企業の持続的な成長には、もちろん短期的な収益の確保も重要です。そのため、スピーディーに新商品や新市場を開拓する専門部署を設置しました。
一方で、中長期的な視点に立ち、次世代のビジネスを創出・探索する「新事業開発室」そして、全社の技術や施策を横断的に推進する「エンジニアリング統括部」を編成し、今後の成長分野をより力強く探索していく体制を整えました。
加えて、AX・DX推進のため、社内のデジタルインフラを徹底的に整備し、ルーチン業務の自動化などを通じて生産性を最大限高めるための「デジタル戦略室」も新設しました。今やAIを活用すれば、どの企業でも最適な答えやデータを瞬時に得られる時代です。
だからこそ、単なる業務効率化だけでは差別化できません。そのなかで、いかに自社ならではの強みを生み出していくかが重要です。テクノロジーに使われるのではなく、主体的に徹底活用するという思想のもと、生まれた時間やエネルギーをすべて、お客様と向き合い、人の感情に響く仕事へと注いでいきます。
AIを超える人の提供価値——信頼のバトンを次の世代へ
田尻:今回の鼎談を通じて、YUASAさまの強みは、常にマーケットを見つめ、必要とされる価値を自ら「つくる」領域まで踏み込んできた執念にあると強く感じました。
AIは、人口やニーズのデータから市場の「地図」となる仮説を立てることを得意としています。仮説づくりまではテクノロジーに委ねて時間を創出し、人は実際に現場へ足を運び、データには表れない切実な困りごとをつかみに行く。これこそがAIを超える人の提供価値であり、冒頭に申し上げた『感動こそ価値の源泉』の実践です。技術や人、社会をつないでいけるのは、やはり人なのだと思います。
田村:私が社長に就任した10年前から時代は大きく変わり、今や隣にAIが座っているような世界になりました。しかし、激変する環境のなかでも、人間の心の真ん中にある感情に向き合うという本質は変わりません。新社長の村山が、時代に合わせた新たな発想を取り入れながら、当社をさらに進化させてくれると確信しています。
村山:私たちの本業は、生産現場や暮らしにおける社会課題の解決に直結しています。当社のお客様は、地域に根差している企業の皆様が多く、その事業基盤を支えているという強い使命感を全従業員が持っています。
今年、社長就任にあたり全国を回った際も、行く先々で「うちはじいさんの代からYUASAと取引してきた」というありがたいお言葉を数多くいただきました。幾世代にもわたって築かれてきた信頼関係に甘えることなく、実務での期待に応え続けることで未来へつないでいく使命の大きさを、改めて実感しています。
これからは国内で培ったノウハウを海外へ展開し、現地の社会課題の解決にも貢献していきたい。目指すのは、何かあった時に「じゃあ、YUASAに聞こう」と真っ先に名前が挙がる、社会から必要とされ続ける会社です。
歴史ある企業の重責を担い、その先頭に立てる喜びをかみしめながら、企業の持続的な成長と社会課題の解決を両立し、次の世代へ誇りを持ってバトンをつないでいくため、全力で挑戦を続けていきます。
たむら・ひろゆき◎YUASA代表取締役会長 執行役員 兼 海外事業推進担当。1982年に関西学院大商学部を卒業後、同年に湯浅商事(現YUASA)に入社。2009年執行役員、10年取締役執行役員、16年専務取締役、17年より代表取締役社長をへて、26年より現職。
むらやま・ひであき◎YUASA代表取締役社長 CEO 執行役員。埼玉県出身。1994年に青山学院大理工学部を卒業後、ユアサ商事(現YUASA)に入社。2023年に執行役員。26年6月より現職。
たじり・のぞむ◎カクシン 代表取締役CEO。2008年に大阪大学卒業後、キーエンス入社。コンサルティングエンジニアとして重要顧客を担当し、大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛ける。独立後はカクシンを立ち上げ、年商1,000万円から1兆円規模の企業まで、企業の高収益化、構造改革のコンサルティングを行う。著書に「付加価値のつくりかた」(かんき出版)、「構造が成果を創る」(中央経済社)など。



