世界経済に絶大な影響を与えている米国のメガスタートアップ。今年6月に上場したスペースXをはじめ巨大IPOは株式市場に大きな歪み引き起こす。
2026年6月、イーロン・マスク率いるスペースXが、調達額約750億ドル、企業価値1.77兆ドルという米国史上最大のメガIPOを果たした。市場では、この途方もない上場が、株式市場全体を揺るがす「地殻変動」の始まりに過ぎないとの見方が強まっている。スペースXの上場は「大公開時代」の号砲であり、年内にはOpenAI(直近評価額8,520億ドル、ただし上場は27年に延期されるという報道もある)やAnthropic(同9,650億ドル)といった1兆ドル規模のAI巨頭の上場も見込まれているためだ。本格的に突入した「AIメガIPO時代」は、市場の需給や主要株価指数にどのような影響を与えるのだろうか。スペースXの事例を紐解きながら、地殻変動に迫ってみたい。
最警戒は「流動性のブラックホール」
超大型IPOが与える最大の影響は需給面へのインパクトだ。市場が最も警戒したのは、新規公開株の購入資金を捻出するため、投資家が手持ちの株式を売却し、市場の資金が特定のIPO銘柄へ急激に吸い込まれる「流動性のブラックホール」現象だ。実際、ウォール街は個人投資家やパッシブ投資家が計500億ドル相当の他銘柄を売却し購入資金に充てる可能性があると指摘していた。その結果、これまで相場を牽引してきた半導体株やAI関連株の利益確定売りが引き起こされ、市場全体に大きなボラティリティをもたらす懸念が生じた。
さらに需給の歪みを増幅させるのが、インデックスファンドの「強制的な買い需要」だ。早々に指数組入れのルールを確認したのがMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)。MSCIは上場後10営業日に指数組入れを行い、またナスダックは大型IPO銘柄を最短15営業日でNASDAQ100に組み入れられるようにルールを変更、スペースXには70億~100億ドルのパッシブ買いが短期間で発生すると見込まれる。
ほかの指数プロバイダーも早期組み入れルールを設け、インデックスファンドは自らの意思にかかわらず超大型株を機械的に大量購入せざるをえない。浮動株が限定的ななかで巨額の資金が流入すれば、ファンダメンタルズから乖離した株価の急騰や急速な暴落を招くリスクが高まる。
異次元の資金調達競争だったITバブル以降、優良スタートアップは未上場のまま成長する傾向にあったが、巨大AI企業は今、上場に向かっている。最大の理由は、事業運営のために「可能な限り多くの資金を調達したい」という切実なニーズだ。AI開発の最前線は、GPUやデータセンター、電力といった計算資源を確保する「異次元の資金調達競争」へと変貌した。OpenAIはクラウドや半導体に約1.4兆ドルの支出を約束したと報じられている。両社は驚異的な売り上げ成長を遂げるものの未だ黒字化には至らず、非公開市場の資金だけでは莫大(ばくだい)な資金燃焼を支えきれない。そのため、より安価で迅速に巨額資金を調達できる公開市場(IPO)の活用が不可避なフェーズに入ったのだ。



