そもそも聞く相手は間違っていないか?
そもそもの話ですが、「食に詳しい人」と一括りにする前に、その人が一体どんなタイプの食通なのかを見極める必要があります。
ひとくちにフーディーと言っても、その中身は驚くほど多様です。料理を伝統芸能や地理、あるいは化学の研究の延長として捉え、技法や産地、調理科学にまで踏み込んで語る知的探究型もいれば、有名店や予約困難店を次々と踏破し、そのスタンプラリーの達成度でマウントを取ることに喜びを見出すタイプもいます。
料理そのものよりもワインの話が9割を占める人もいれば、白トリュフやキャビア、和牛にウニさえ乗っていれば満足という、わかりやすい高級食材至上主義の人もいる。
提灯記事ばかりを乱発するライターに、依頼された案件をひたすら消化し続けるインフルエンサー。異性を口説くための小道具としてレストランを捉える人もいれば、商談を有利に進めるためのビジネスツールとして活用する人も多い。仲間とただ楽しい時間を過ごすための舞台装置として食事を位置付けている人、ひたすら美食そのものを追求する求道者、あるいは誰にも邪魔されず独りで静かに充実した時間を過ごすことを至上とする人。挙げていけばキリがありません。
これだけタイプが分かれるということは、当然、それぞれの得意分野や興味のベクトルもまるで異なるということです。相手の専門外を尋ねるのは致命的なミスマッチを生みます。ラーメンひと筋のオタクに「前衛的なスイーツでオススメある?」と聞いたり、焼肉に人生を捧げている人に「野菜×発酵が自慢の北欧系はどこ?」と聞いたりするのは、控えめに言ってもトンチンカンです。
かく言う私自身、フレンチやイタリアンについてはそれなりの経験はあるつもりですが、鮨や天ぷらについては全くの門外漢です。おすすめの鮨屋を聞かれたところで、何一つ有益な情報を差し出すことができません。また以前、ある若い知人から「丸の内で飲み放題付き、個室で20人の宴会、予算6000円に収まるオススメの店」を尋ねられたことがあり、悪気がないのは重々承知していますが、正直なところ、「ああ、この子は私のことを何も分かってくれていないんだな」と、少し寂しい気持ちになったのを覚えています。
これは何も、その若い知人を責めたいわけではありません。ただ、聞く側が相手のフィールドを理解せずに質問を投げると、答える側の中には「求められている土俵と自分の得意分野がズレている」というもどかしさだけが残る。それだけは知っておいていただきたいのです。


