AIがいかに急速に雇用を代替しているかを目の当たりにしているのは、「我々は今、行動しなければならない(We Must Act Now)」という誓約に署名したノーベル賞受賞者やテック業界のリーダーだけではない。筆者が自身のメディアコンサルティング事業を立ち上げてから最初の1年間で、AIがいかに急速に人間の仕事を代替しているかを直に目撃してきた。エントリーレベルの働き手にプロジェクトを引き受けるかどうかを決めてもらうまでの数時間の間に、筆者はAIを使って自分でその仕事を終わらせてしまった。あるスタートアップには、自らが開発しようとしている技術が、資金調達を完了する前にAIによって陳腐化してしまう可能性はないかと助言した。またAIスタートアップの創業者たちからは、自分たちよりもはるかに速く技術を生み出せる巨大AI企業の革新スピードにはついていけないという声を聞いた。IMF(国際通貨基金)などの機関が予測している約60%の雇用喪失や業界再編は、非常に現実味を帯びてきている。
しかし、イノベーションのスピードから生じるこの不安定さは、どのスタートアップに投資すべきかを見極めようとする投資家にも課題を突きつけている。マイケル・ソネンフェルト(Michael Sonnenfeldt)は、自身が創設して会長を務めるTiger 21(タイガー21)の活動を通じて、この状況を両面から見ている。彼は自身のファミリーオフィスを運営し、収益性の高い投資先を模索する創業者でもある。しかしAIはテクノロジー・イノベーションのスピードをあまりに急速に加速させているため、彼は何に投資すべきか再考を迫られている。筆者がForbesで取り上げてきたような、起業資金が500ドル(約8万円)未満の学生スタートアップであれば問題はない。しかし、自身の夢に何百万ドルもの資金を注ぎ込んでいる場合は話が別だ。
敗者
ソネンフェルトは、直近のAIブーム以前であれば投資したかった企業が1社あったと語る。そのスタートアップは数年と数百万ドルを費やして、究極のパーソナルコンシェルジュとなるアプリを構築していた。Tiger 21の富裕層のグローバル顧客層にぴったりだと彼は考えた。彼は30カ国に住む2000人のメンバーからなり、純資産合計2500億ドル(約40兆8000億円)に達するネットワークを統括している。しかし、その創業者がこの技術を作り上げる並外れた専門知識を持っていたにもかかわらず、ソネンフェルトはライバル企業が同じ製品を10分の1のコストで再現できると気づいた。
「特にある1社は、数年かけて数百万ドルを費やし、美しいアプリを作り上げていた。だが問題はこうだ。『技術がこれほど急速に変化してしまった今、彼らが過去5年で費やした労力の大半、いやそのすべてを、ここ半年程度でごくわずかな時間とコストで再現できてしまうとしたら、そのようなものにどれほどの価値があるのか』」と彼は問いかけた。「AIをめぐる状況は根本から変わってしまった。ゼロから始めれば、同じようなものを劇的に低いコストで実現できるようになった」
勝者
一方でソネンフェルトは、この1年でデータの整理にAIを活用する企業に投資を行った。その企業はテクノロジーの急速な変化のペースに対応していると考えたからだ。
「この企業は、素晴らしいチームによってこの1年以内に設立されたばかりだ」とソネンフェルトは述べた。「まっさらな状態からスタートし、その核心部分にAIを組み込む能力を持っている。そのため、テクノロジーが変化するなかで、この企業はリアルタイムでその変化に対応し続けている。理論上、AIがこのままのペースで進化し続ければ、1〜2年後には再び、半分の時間と半分の資金で済むようになるだろう」
ソネンフェルトが、自身のような投資家を引きつけ続けるために提案する3つの解決策は以下のとおりだ。
- 強力な経営チームを持つこと。ソネンフェルトは、25年前には創業に500万ドル(約8億1500万円)を要していた事業が今や500ドル(約8万円)以下で始められるようになったことについての、筆者の以前のForbesの記事を読んでいた。しかしソネンフェルトは、それが可能なのは強力な経営チームがある場合であり、そういう会社にこそ彼は投資すると警告した。「言うまでもなく、500ドル(約8万円)のスタートアップは、いわゆる100万ドル(約1億6300万円)級の頭脳、つまり本当に優秀で自分のやっていることを理解している人物によって経営されなければならない」
- 参入障壁を持つこと。ソネンフェルトはまた、彼が「顧客の堀がどれほど大きいか」と表現するものを備えた企業にも投資する。つまり、「その顧客を維持し続けられるか、それとも同じテクノロジーを持つ競合が現れたらすぐに顧客が離れてしまうか」ということだ。彼は、ほとんどのテクノロジー・スタートアップが時間と資金の両面で多大なプレッシャーに直面していることを理解している。「しかし、投資対象として興味を持つためには、我々に何かを成し遂げる機会を与えてくれるような、何らかの競争上の優位性(堀)も必要だ。それは特許を取得したアイデアかもしれないし、プロセスや顧客リストかもしれない」
- 市場を掌握すること。ソネンフェルトは、AIに取って代わられつつある技術に過度な資金と時間を費やしてしまった会社であっても、市場を熟知しているならまだ十分に提供できるものがあると強く信じている。「スタートアップを見るとき、時に先行者利益が成功への並外れた追い風を生み出すことがある。もし技術に対して過剰に支払っても、それが半年、1年、あるいは2年の先行者利益をもたらすのであれば、その支払いは正当化できる」と彼は語った。鍵となるのは「市場を支配する、あるいは少なくとも市場での地位を固める能力」だ。
ソネンフェルトは、これら3つの要素をすべて備えたとき、創業者たちの生き残る可能性ははるかに高まると指摘した。
「こうしたスタートアップは、技術だけでなく、経営と市場にも支えられている。3つの要素として捉えてほしい。市場を掌握し、並外れた経営陣を擁することができれば、AIを常に関連性のある最新の状態に保てるかもしれない」



