AIによって営業の知識や成功パターンは誰もが活用できる時代になった。では、そのとき人間の営業に求められる価値とは何か。「NEW SALES OF THE YEAR 2026」の受賞企業から、その答えを探る。
営業の世界では長らく、「経験の差」が「成果の差」を生んできた。しかしAIによって、その前提が変わろうとしている。誰に、どのタイミングで、どんな提案をすれば受注につながるのか。優秀な営業は、数多くの商談でそうした勘所を身につけ、独自の勝ちパターンを築いてきた。ところがAIは、その「経験」の価値を変えようとしている。
過去の商談データや成功事例を分析し、顧客ごとに最適な提案を提示する。次のアクションや顧客が抱える課題、追加で提案できる商材やテーマまで示してくれる。これまで経験を積むことでようやくたどり着けた知見が、誰もが活用できる資産になってきている。
そんな、AIが正解を提示する時代に、営業に求められる価値とは何だろうか。その答えのひとつが、今年で4回目を迎えた「NEW SALES OF THE YEAR」の審査会で見えてきた。
興味深かったのは、多くの審査員がAI活用そのものを評価軸にしていなかったことだ。AIによる業務効率化や提案支援は、もはや特別な取り組みではない。議論の中心にあったのは、その先だった。ユーザベース上席執行役員B2B事業CROの作田遼は、「顧客自身がAIを使って情報収集できる時代だからこそ、営業には顧客が気づいていない課題をともに見つけ、意思決定を支援する役割が求められる」と語る。実際、今回高く評価された企業に共通していたのは、「AI活用が進んでいる企業」ではなく、「AIを前提に顧客との向き合い方や組織のあり方を問い直している企業」だった。
ナレッジドリブン賞を受賞した日本電気(NEC)は、営業担当者約6000人が活用する営業プラットフォーム「MIP-NEXT」を通じて、ベテラン営業の暗黙知を組織全体の資産へと変えてきた。自らが0番目のクライアントとしてDXを実践。自社DXの成功と失敗から得た知見を共有し、顧客へ還元する。そうした自社変革の経験を顧客価値へと転換している点が高く評価された。
また、昨年もAI活用による取り組みで受賞したフリーは、顧客との対話データをAIで分析し、営業担当者に「次の一手」を提示する仕組みを構築。だが評価されたのは、AIの先進性ではない。「顧客への還元」にこだわり、顧客の声を開発へ反映する。自らの声がサービス改善につながったことを実感することで、信頼関係が生まれ、新たな声が集まり、それが再び開発に生かされる。人とAIがそれぞれの強みを生かしながら顧客価値を高める仕組みを、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄も「人間とAIの役割分担ができている」と評価した。
複数の審査員が「この10年で最も変化した企業のひとつ」と名前を挙げたリコージャパンは、複合機販売を中心とした「モノ売り」から、顧客の経営課題を解決する「コト売り」へと大きく転換した。展示会では商品を並べるのではなく、相談ブースを増やす。何を売るかではなく、顧客の課題をどう解決するか。その延長線上にあるのが、同社が目指す「経営のパートナー」という姿だ。顧客の未来をともに考え、働き方そのものを提案する。そうした挑戦は、AI時代に求められる営業の価値を象徴している。
最後にグランプリに選ばれたイトーキについて、審査会では「若手が営業という仕事にやりがいや楽しさを感じながら成長していることに価値がある」という意見が挙がった。



